第27話「ハウス・オブ・グッチ」

 リドリー・スコットは、男と女の結婚、夫婦の離別から妻による夫の殺人依頼という事実に基づいた表面的なスキャンダルを単に描いただけではない。リドリー・スコットによる、グッチブランドのデザインは、「エイリアン」「最後の決闘裁判」よろしく二人のモンスターと二つの決闘を描いたのだ。

 一人目のモンスターは、「外部」からやってきた女だ。女は、グッチ家の跡取りと偶然出会い、大胆かつ計算づくで男を誘惑する恋愛決闘を挑み、まんまと男の妻の座を射止め、世界の一大ブランドグッチ家の内部に侵入し富と名声を手に入れることに成功した。この女は、「外部」の人間ゆえ、夫婦だけでグッチ家独占を狙い、親族に嘘をつき、騙し、おだて、最後に破綻させる決闘を仕掛けるのである。そこには、恩も情もない、冷酷なモンスター丸出しである。ただ、途中に夫婦は犯罪を行い、夫は身を隠し、夫婦関係にもひびが入り、夫は妻との離別を求め、女の闘いは、敗北のうちに幕を閉じる。

 二人目のモンスターは、グッチ家の夫の父親の側近で、ずっと「内部」にいたドメニコである。「内部」の人間は、「外部」の力を知っている。夫婦の犯罪を告発し、「外部」の女を完全にグッチ家の「外」に出すことに成功することによって彼の決闘の幕は上がる。彼は、グッチ家の「内部」いたことと一族ではない「外部」の人間であるから冷静にグッチブランドの停滞と凋落の原因を熟知していたのだ。夫には、グッチブランド

復活のためには、「外部の血」が必要と説き、親族の経営権を全て横取りし、挙句の果てには、夫の経営能力の稚拙さを責め「外部の血」と結託し彼の経営権も奪い取り、グッチブランドの経営者に成り上がる。夫の彼に対する深い信頼をあっさり裏切るモンスターである。

 グッチという名だけにこだわった女と実だけに狙いを付けたドメニコ、二人のモンスターによる決闘の勝負の結果は明らかだ。無謀な決闘は、グッチブランドから一族の血が途絶えた、グッチ家の悲劇でもあったのだ。

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