第23話「麻希のいる世界」
塩田明彦監督は、二つの世界、由希が見ている「真希のいる世界」と真希が実在する「真希がいる世界」をスクリーンに映し出す。ただこの二つの世界は、受け手からすると物凄いギャップがあることで、映画自体に苦みがあり、素直に身を委ねることのできない世界に誘うのだ。
由希が見ている「真希のいる世界」は、真希がスーパーヒロインであるかのごとく描き出す。真希は、孤独でも関係ない、人の目は一切気にしない、金のためなら売春もする。孤高で強く屈しない、由希が持っていない全てを持っているのが、真希なのだ。真希が、自転車に乗りながら口ずさむ曲を聴いただけで「真希才能あるよ」と過大評価する由希は、まぎれもなく「由希のいる世界」に憧れとともに真希を愛していく。
しかし、「真希がいる世界」は、ひどく汚れて見える。計算尽くで由希と友達になり、軽音部の発表会をすっぽかし由希一人に恥をかかせ、セフレとの性交に真希を助けようともせず巻き込んでいく。由希の彼氏の元カノだったことを唐突に言ったり、学校を辞めて由希の彼氏と東京に行くと嘘を言う。由希が真希を憧れ愛し信じているのに、真希は由希に「これが私の世界よ」と真希に言っているのだ。
真希が、由希にひどい仕打ちをするのに何故由希は、真希を愛するのか。それは、確実に迫る命の有限性だ。命が限られていたら、誰しも自分のやりたいように生きようとする。その生の証こそが、真希をアーティストにして、「真希がいる世界の変革」をすることなのだ。
仕組まれた事故によって真希は記憶喪失になり、それを知った由希は、二度と口がきけなくなる。由希は、真希を探す。ようやく自転車に乗っている真希を見つける。真希は、カオルになっていた。筆談で真希の曲を聴かす、二人のやり取り、カオルは再び自転車に乗り由希の許を離れる。由希はその場で倒れ涙し死ぬ。由希は、「真希がいる世界の変革」を成し遂げ生の証を打ち立てた。由希の命を懸けた壮絶な生き様死に様に言葉はない。
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