第18話「街の上で」目の強さを持つ映画
この映画の主人公は、下北沢の街である。青がぶらっと入るバーに元小説家、現作家がいたり、別のバーでは役者がいたり、喫茶店では、ヴィム・ヴェンダースの映画の会話がなされたり、漫画の聖地になっていたり、下北沢が、芸術の街であることが描かれる。登場人物の職業も古着屋、古本屋といったこの街のイメージ通りで、青が大学生の映画卒業製作のキャストに選ばれるなど、すこし現実感から遊離した「街の上で」男女の目が映像化される
青が雪と別れるときの雪の綺麗な目に嫉妬する青。ただ別れの原因は言葉だけで別れる。古着屋にやってきた一組のカップル。ここでも女性が険しい目付きで嫉妬する。ただ、ここまでの展開は、物語が台詞で安易に語られてるにすぎなかった。青が冬子にこころない言葉を言ったときの冬子の鋭く睨み返す目。古川琴音のすごい目に一瞬驚く。こんな目をするのかと。青が冬子に謝るときの素直さと照れくささが絡み合った目。青が映画の撮影の練習のため冬子にスマホ撮影を依頼していたが、主客が変わり、冬子が撮影されると本から一枚のメモが落ち、読みながら涙する冬子のクローズアップの悲しさと愛しさ、罪悪感が入り混じった目の切なさが強烈なインパクトを放った。このシーンまでは、物語の中で映画は浮遊していたが、古川琴音のこの目力を見た瞬間、この映画は目の映画だと確信
した。
青が撮影のとき緊張しすぎて目が泳ぎ、何回もNGをだす。撮影の打ち上げの時は、何故青をキャスティングしたのかと監督に言いつのる男のシーンの端に青が映りこんでおり、周りから完全に浮いている青の目を映し出し、その直後イハが横に座り話し出す一連のカメラワークと構図がとても効果的だった。
打ち上げ後、青はイハの部屋へ行く。青とイハがテーブルを挟んで恋バナをする。二人の会話を長回しで撮影しているが、イハの柔らかな関西弁と穏やかな目と青のリラックスした目、この空気の中での二人の言葉のやり取りがすごく心地よい。また、テーブルの存在が二人の緩衝地帯となって二人のさっぱりとした関係性を示していた。
雪が目をくもらせ好きだった芸能人に別れ話をする。芸能人と出会える場所、さすが下北沢なのだ。芸能人は許せない目をし男に会わせろという。青とイハが部屋を出るとき、イハの元カレが青と出会いイハと別れの完結をする。その時、青とイハ、イハの元カレ、雪、マスター、五人の言葉だけでなくこまやかな目の動き、表情と仕草でカオス的混乱をうむ。混乱し迷う雪が警察官との会話から、確信に変わる目がラストへの布石になる。
雪が別れた元カレを青の部屋に連れてくる。別れの完結。男女の別れ、結びを下北沢という芸術たる街が常に見ている。その「街の上で」、若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、中田青渚らの、心にしみいる目が見事に映像化され、この作品は映画という芸術になった。
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