第15話「クライ・マッチョ」老成したマスターが見せる円熟したカウボーイ
正直、冒頭からイーストウッド映画らしくないと違和感を抱いていた。それは、何故マイクが、知人の息子を危険なメキシコから連れてくるのか、ラフォの母親とのやり取り、息子は凶暴で、どこにいるかわからないと言われても、ラフォは簡単に見つかる、その後母親の家に行き、息子を連れて行くと殺すと脅されるが、ラフォはマイクの車に潜りこみ、マイクにとっては迷惑だが二人はアメリカへ向う、なんとも凡庸、緊迫感皆無の映画、まるでイーストウッドらしくない映画の展開であった。
しかし、その裏には、カウボーイ、イーストウッドの表情そのもの、穏やかに柔和に優しく、老成したマスターの姿が立ち上がる。ラフォは、マイクを信頼していく。暴れ馬を調教する時、顔、たてがみを優しくなで馬を静めたり、まさに人生の経験値の重さが老成マスターならしめる。二人は、母親の追手から逃げ、身を隠す。
二人は、ある土地に留まる。ここで出会う女性、女性の孫達とのふれあいの中で、女性への丁寧な受け答え、女性の孫娘に手話で語りかけたり、手料理をふるまい、マイク、ラフォ、女性の家族との優しいほのぼのとした時間が過ぎていく。そこには、危険な香り、一瞬でピストルをぶっ放すハードなアクションは一切なく、警察官から理不尽な扱いを受けても、口出しだけで、無抵抗であり、ピストル1発ぶっ放すわけでもない。老成したマスター、イーストウッドは、映画全体を柔らかなぬくもりのある優しさというベールでしっとりと気持ちよく包み込み、ラフォ、女性の家族、受け手を逃れられないほど魅了してしまったのだ。
ラフォを無事国境を越え父親に届けた時、この老カウボーイは、国境を越え自分の家には帰らず、国境から引き返し女性の住む土地に帰還するのだ。歳を取った老成したマスターは、終の棲家、安住の地を手にいれたのだ。もう、危ない冒険はしない、穏やかに余生を過ごす、それで十分だ、彼は齢を重ねもう安らぐ時だ。イーストウッドは、もうスクリーンでは見れない、そんな予感がする。そう、ついに彼は安住の地を手に入れたのだから。
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