第12話「由宇子の天秤」
正しさとは真実のみではないことを実感した、強烈なインパクトを持った映画であった。
ドキュメンタリーディレクターの由宇子は、ある事件を追っていた。由宇子は、真実と噂を総合して自分の正しさを基盤にしてストーリーを作り、取材者をコントロールしながら懸命に取材を重ね、自分の意志を作品に落とし込んでいた。
スクリーンに映し出される由宇子の人間性は、一本気で気が強く堂々として自分は何一つ悪い事をしていない正しい人間として生きている。この人間性を瀧内公美という女優が見事に具現化し、凛とし毅然としている由宇子のありあまる存在感を現出していた。
塾を経営している父親が、教え子の萌と関係を持ち妊娠させたことを由宇子は知る。世間に噂が広まり報道されると自分の人生が一変することを肌身で知っている。このことで由宇子の正しさが惑いはじめ、この事実に由宇子がコントロールされていく。
追っていた事件の放映が決まっていたが、突然取材者が訪問し真実が明らかになり、由宇子は放映中止を求める、ここにも由宇子の正しく生きる姿がある。
萌のある噂が由宇子を動かした。由宇子が萌に問い詰めると萌は、「先生まで」と言って車を降り走って由宇子から逃げ去るが、事故にあい重症になり、妊娠していた胎児は死ぬ。由宇子は、噂で動いたことと萌の言葉が、一層由宇子の惑いを大きくしたのだ。
終幕、由宇子の横顔が髪に覆われて見えない。由宇子の正しくないという想いと負い目、惑いが感じられた。人間は、簡単に生き方を変えられない。それでも自分の存在が全否定される状況で、真実なのかわからないのに、萌の父親に告白したのは、由宇子という人間性の壮絶な矜持の現れだった。
最後に至る極限の選択に持ち込んだ春本監督の脚本の展開力・演出力は見事である。どこまでもどこまでも由宇子の正しさを貫いた生き方にえも言はず、首を絞められしばらく死んだように動かず徐々に立ち上がろうとする由宇子をただただ見つめることしかできなかった。
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