第11話「子供はわかってあげない」

 冒頭の劇中アニメが効果的にこの映画の伏線となっている。子供の親探し、探してほしくない親の心と再会したときの嬉しさ、そしてもじ君との共通の趣味。ヒロインの美波は、家でも父親と大好きなアニメを一緒に見る、母親は口癖のように冗談を言い、弟との仲もいい。同じアニメのファンであるもじ君とも友達になり、水泳部に所属し青春を楽しんでいる。見るからに家庭環境に恵まれ、愛されて育っている典型的な良い女子高生なのだ

 美波の父親は実父ではなく継父である。血はつながっていない。劇中アニメよろしくもじ君の兄に協力してもらい家族に秘密で実父探しをする。美波の実父探しの真因が何か興味を持つ。

 「家族と血」。美波は、やはり血にこだわったのか。美波が実父と再会した時、ほとんど遠慮もなくすごくリラックスし楽しく過ごしていた。この描写で血の持つ力を感じたのだ。美波が、全く遠慮していない姿、自然体だ。実父は、美波の必要な物を買ったり好きな料理を出して離れれていた時間を埋めようとして気を遣う。

 実父はなぜ離婚しなければならなかったのか、本当は美波と一緒に生活したいという思いを家族のある美波はわかってあげないのである。母親は、自分なりに良い家庭を作り、何一つ不自由させていない、それなのに嘘をついて実父に会いに行ったのが悔しいのだ。母親の懸命に家庭を守る気持ちも美波はわかってあげないのである。

 美波は、実父との再会の旅を終え実父の優しさ、母親の想い、懸命に美波を探したもじ君への想いの強さを感じた。美波は、もじ君に自分の気持ちを伝えようとする。しかし笑ってしまい告白できない。緊張すると笑うのが癖だ。その時もじ君は、美波の目をそっと手で隠した。何も見えなくなった美波は、やっと告白できた。複雑な現代社会で自分の言動に責任を持つためには、自分自身の「心の目」で見る、感じることがいかに必要なのかをこの映画は、美波の成長物語を通して受け手に伝えたのだ。

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