第9話「空白」
107分、圧倒的な緊迫感あふれた映像が映画館を支配して、まるで逃げ場がない者のようにシートに身を沈めただただスクリーンに釘付けにされた。この緊迫感の大きな要因は、登場人物達の「人間像」が際立っていることだ。一つの事件から関係する人間全てが「空白」を抱えることになり、「空白」への対処の仕方として「人間像」がしっかりと映像として観ることが出来たのだ。
父親は、娘を亡くした喪失感が「空白」となり怒り、憎しみの感情がスクリーンに充満する。店長も自分の行為によって結果的に娘を殺してしまった、行為の過程に善悪が入り混じり結果として娘が亡くなった重い事実に心の惑いが渦巻き自分自身をコントロールできないほど「空白」となる。娘を車で撥ねた女性もショックと自分が殺したのだという自責の念、父親に謝罪にいっても無視され、自分が殺したいう想いだけにとらわれ心の中は「空白」になったのであり、そのことが自殺という行為で描かれる。娘の担任の教師も自分の指導が行き届いていなかったという罪悪感という「空白」を持つ。登場人物達の「空白」を抱えた「人間像」が痛いほど伝わってきた。
映画は、事件に関係した登場人物の中で父親に焦点を向ける。娘が亡くなったが、実は何も娘の事を理解していないことを徐々に明らかにしていき、父親自身もショックを受ける。
この何も知らなかったという事が、大きな「空白」であったと描き出す。それ以来、娘が興味を持っていたものに触れていき「空白」を埋めようとすると同時に事件の関係者に少しづつ謙虚になっていく。娘を殺したのは、自分の「空白」ではなかったかと自問しているようだ。
終幕、父親が描いた絵と同じ雲を描いた娘の絵を担任から渡される。店を閉め、警備員になっている店長は、以前のお客から店の弁当がうまかったと言われ、また弁当屋でもやってねと言われる。このシーンまで逃げ場がなく、ピーンと張られた緊迫感から、薄明りのような救済を得てほっとした心持で映画館を後にした。
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