第8話「かそけきサンカヨウ」
陽は、小さい頃から父との暮らしになじみ、自分が遊べなくても家事をすることを厭わない今時滅多にいないしっかりとしたいい子だ。また、高校生らしく陸に恋もしている。
慣れた日常が父の再婚で陽の生活は変わる。陽にとっては、異物が混入した感覚であろう。しかし陽はこの異物と上手く折合いを付ける。陽は「大人」だなと思う。
陸にデートに誘われウキウキし、別れた母の個展に行くが、母に自分のことを気付いてもらえずショックを受ける。母に捨てられた娘というレッテルを自らに貼り悲しみにくれる。
怪獣の妹に大切な画集をバラバラにされ、陽は妹に怒声を放ち自分の部屋に戻り泣く。ただ妹に画集を壊されただけでなく母の件も重なっての言動だ。陽は、何にでも折いを付けれる
「大人」ではなかった。
父は、陽の部屋に入り二人で話をする。このシーンは柔らかな色調とワンシーンワンカットの手法を使い父と陽の愛情の深さ、信頼の強さ、二人で長く生活してきた歴史が凝縮された二人の時間を映し出していた。陽は、新しい家族と折合いを付ける覚悟を持つ「強く透明な女性」になった。
陽は、陸に好きだと告白する。しかし陸は快諾せずに陽から距離をとる。失恋した陽は、その現実に折合いを付け、陸に自分の誕生会の招待状に「来てほしい」「逢いたい」と書き、陽が、純粋に陸を好きなことが強烈に伝わってくる。この強さと純粋さこそが「強く透明な女性」そのものだ。
終幕、父の仕事の音入れのシーンで二つの曲を聴いて、「一つ目は恋愛」「二つ目は友情」と静かに父に伝える陽の横顔は素敵だ。この台詞、ファーストシーンと同じだ。この映画は、「強く透明な女性」に成長した陽の回想録なのだ。
陽が相対する人物に対して、心の持ち方、揺らぎ、変化を志田沙良という女優の身体、表情、仕草から上手く掬い取り、「かそけきサンカヨウ」に昇華していく過程を今泉監督は、力みなく、優しく陽の心の変化に素直に向き合っていた。派手さはないが、「強く透明な映画」であった。
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