第7話「プリテンダーズ」
主人公の花梨は、高校生になるまで、自己否定されて生きてきた。高校の入学式でも「前ならえ」が出来なく教師から叱責を何度も受け、学校にも行かなくなり親から家を出され、唯一の理解者、親友の風子の家に転がり込む。
花梨は、ある事を通じて、自分が優しくなるという自己肯定感に満たされる。この感情を他人に味わってもらいたくて、「世直し」という大義名分のもと風子と二人でプリテンダーズを結成し騙し動画をSNSでUPする。
面白可笑しく騙すのだから、バズる。バズることは他人を優しくすることだが、いつしか、花梨の自己肯定感の充足に変わってしまった。いいね、リツイートの数が自己肯定感となり、大義名分は霧散した。
そして動画が騙しである事が発覚する。その時、風子は、花梨に自分が騙し動画を撮っていたプリテンダーズだと告白するよう言う。人ごみの中で花梨は、必死に言葉を吐き、しまいに「私を認めて欲しかった」と泣きながら言う。
花梨が、「前ならえ」ができないのは、協調性がないのか、個性なのか、病気なのかわからない。ただ、皆ができることをやらないのを否定していいのか。人を枠にはめ込んでいたのが今までの時代だ。世の中は大きく変わり多様性の時代になった。
しかし最近、SNSの匿名性からか、言葉が冷酷になっている。差別・誹謗中傷は、激しさを増している。何がそうさせるのか、「人々の不満」が渦を巻いているのではないか。やり場のない憤り、理不尽さ、社会に対するあきらめ、これらがコロナ禍で一層鮮明になった。
花梨が、「人に優しくなってもらいたい」という気持ちは、熊坂監督の本心ではないか。時代が大きく変化しても、根源的に大切にしなければならないもの、それは、人への思いやりだ。お互いがお互いを認め合う、優しい社会。人への思いやりに匿名性のSNSは必要ないことを認識させるため、あえてSNSを主題にし、今の時代を映し出したことが、この映画の存在意義だと思うのだ。
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