第5話 「ハッピーアワー」
一本の映画で丁寧に一人一人の人間の奥底にある深淵を描いていくのなら、五時間十七分という時間は、単に長いのではなく、それだけの時間を物理的に要するという事は、ワンシーンたりとも無駄がなかったことが実証していた。
冒頭の重心を感じるワークショップとは、他人と肌・身体を接することだ。このワークショップが四人の女性を変えるキッカケとなる。このシーンんで明らかになることは、四人の女性の逆説的現実である。バランスを保つワークが、彼女達をアンバランスに変えてしまったのだ。
そのキッカケを受けて、若い女性作家と妻の芙美らと一緒に有馬温泉に行った夫の鈍感さ、四人の絆を深めたはずなのに、純の失踪、科学者らしい論理で話す純の夫、桜子の息子が女の子を妊娠させたときの夫の態度、同僚の医師から迫られても受け入れられない、あかりといったように、四人の女性と三人の夫達の人間描写が細かく丁寧に描かれる。
濵口監督は、両性具有のように、女の感性を披歴する。芙美は、若い女性作家の朗読会の後の夫の言動から離婚を迫る。桜子も朗読会、その後の芙美の行動に触発されたように男と電車で消え、翌朝帰宅し、昨夜のことは決して謝らないと怒る夫に言い切る。純は船に乗り未だに消息不明だ。三人の妻は、変わらない夫の言動を許しがたい沸点に達した時、未婚のあかりは、鵜飼の大胆な言動に押し込まれ、重心を保つワークショップで受けた、アンバランスをしっかりと受け止め、確固とした自分を持った女性に変化していく。
濵口監督独特の演出手法で、人と人が相対する時の目付き、仕草、言葉が、静かにときに激しくアクションした際、一種の凄みがキャストから滲み出ていて、役者自身の素が赤裸々に曝け出されるのを見ていると唖然となり言葉を失った。長尺の映画を緊迫感あふれる映像で見せつけた濵口監督は、やはりすごかった。今年公開された「ドライブ・マイ・カー」「偶然と想像」が証明している。今後、最も目が離せない監督である。
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