第3話 「ラストナイト・イン・ソーホー」
エロイーズが一人暮らしする部屋、ベッドに眠りにつくと「霊的交信」が起こり憧れの六十年代のソーホー地区にタイムスリップする。そこでエロイーズとサンディは、一心同体になる。階段の鏡、ソファの横の鏡にはエロイーズとサンディ、二人の顔が映りこむ。サンディとは、何者なのか、映像・音楽・色彩・照明表現がなんとも幻想的で映画の前半で混乱と恐怖心を喚起するに充分であった。
何故、エロイーズが「霊的交信」が可能なのかは、彼女が霊的能力を有し、六十年代の音楽をこよなく愛し、この部屋に入る理由も、寮でのエピソードを冒頭のシーンでエドガー・ライト監督は端的に描ききっていたからだ。
ただ、この「霊的交信」は一定ではなく、徐々に増幅していくのだ。まるでサンディの夢が破れていく悲惨さと波長を同じくするように。サンディが、もはやエロイーズと一心同体でなくなり裸のサンディとジャック、ジャックの手にはナイフ、そして夥しい血、エロイーズの夢の中だけに留まらず現実世界に踏み込んできて、現実世界で二人は、一心同体となり、エロイーズが、現実世界で破綻していく姿は、激しい恐怖を増幅させるのだ。そして、エドガー・ライト監督が、「霊的」な人間だけではなく誰もが持つ夢や深層心理によって現実とリンクしているというメッセージをスクリーンの裏から呟いているから、逃げ惑う二人、暗闇に浮かぶ血、きしむベッドの音、エロイーズとサンディの悲鳴が、恐怖をより大きく増幅させるのだ。
終幕、ミズ・コリンズが自分の実態を知ったエロイーズを殺そうとしたとき、火事が起きる。全ての焼失。苦しみに満ちた家・部屋・ベッド、全てが燃えて消える。その後に残るのは、よき思い出のみだ。サンディの苦悩の記憶もエロイーズの恐怖も全て焼失し無となった。ラストシーン、エロイーズには、楽し気に微笑むサンディの姿が、今でも鏡の中ではっきりと見えているのだ。二人は永遠に一心同体である。
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