第4話 飲めませんよ。

「とりあえず、ありがとう。来てくれて」

「あんまりしつこいので」

「あははっ!正直だね。それも清水さんの良い所だね」

「そう言う軽口もやめた方がいいいですよ。私、軽薄な人嫌い…」

雪はハッとした。

例え本当に軽い人だとしても、一時間は待てないだろう、いう事も。

(一体どっちだ!?)

今まで、雪が告白してきた相手を全部断ってきた。

和弘がいたから。男を見る目なんて。持ち合わせていない…。



「ん?」

「あ…すみません。今日は飲んでいらっしゃらないから、先日のイメージと…なんか、どっちが本当の平さんなのか、ちょっと混乱していまして…」

「その選択肢は、今日の俺が、本物です」

「そう言う事を言うから、作り物に見えるんですよ」

「あ、でも清水さんを誘ったのは、決して軽い気持ちじゃないんだ、俺…」

「私、好きな人居るんで」



永生の言葉を…と言うか告白を、雪は瞬殺した。

「…そうなんだ。じゃあ、俺を利用するってのはどう?」

「は?」

「相談に乗るよ」

「相談?平さんにですか?」

「俺も男だから、男心は解るつもりだけど?」

「無理だと思います」

「何で?」

「私が物心ついた時から好きだった人で、もう幼馴染以上にはなれないと思うから」

「へぇ。幼馴染の人が好きなんだ」

何処かにやついた永生の顔に、雪は憤りを覚えた。



「やっぱり」

「え?何が?」

「報われない、と思ってらっしゃるんですよね?」

「そんな事ないよ。でも、難しいのは確かだね」




解ってはいるけれど、他人に改めて無理だ、と言われると、落ち込まないはずはない。




「すみません、テキーラ、ショットで」

雪はバーテンに、頼んだ。

「え?」

永生は驚いた。

「何ですか?」

「あ、いや、この前ウーロン茶しか飲んでなかったから、お酒、飲めないのかと…」






「飲めないですよ」






「えぇ!?」







「清水さん、家まで送るよ」

「いいれす…ひとりれ…かえれあす」



気が付けば、二人でいられたのは、たった十分だった。

その上、テキーラのショットを一口で飲み干し、雪は即泥酔してしまったのだ。



もう、すき・きらいの闘いじゃない。

このべろべろの雪をどうやって家まで送るか…だ。



「これじゃあ、電車は無理だよ!今タクシー拾うから」

雪の肩を貸しながら、聴こえてきたのは、こんな最後に聞きたくなかった人物の名前だった。




「なんれ?なんれ和は私をしゅきになってくれらいの?たいらしゃん…なんれ?」

(?)

七時から飲み始めて、十分もしないうちに、泥酔した雪の口からと言う名の零れたと言う名前に、それが雪の好きな人の名前だと、永生は解った。


やっとタクシーを拾って雪と一緒に永生はタクシーに乗り込んだ。




「清水さん!し・み・ずさん!!もう!!雪ちゃん!!!」

「れ?」

「ここでしょ!?雪ちゃんのアパート!何号室?鍵は!?」

その問いに雪は応えなかった。

当たり前だ。

相当な圧力で永生の肩に寄りかかり、眠ってしまっていた。

その永生の大きな声に、和俊が慌てて部屋から飛び出してきた。



「雪?どうした?」

「あ…あんた雪ちゃんの知り合い?」

「……………」

返事が返って来ない、で十五秒。

「おい!あんた、知り合い?」

「あ、あぁ。君は?」

「この前の飲み会で知り合ったもんです」

「雪、雪、起きろ?雪?

「無理無理!もう寝てる」

「あ、じゃあ今夜は俺んちに泊めるから。君の名前は?」

「平永生だけど。あんたは?」

「あ、俺は雪の幼馴染の西野和俊」

(幼馴染?俊?)

永生は一瞬で解った。

こいつが雪の好きな奴だ…と。




「俺、雪ちゃんの事、好きだから。あんたがのんびりしてるなら、俺が雪ちゃんをもらうから」

「?」

突然のライバル宣言に驚く和俊。

「ていうか、幾ら幼馴染て言っても、男女が一晩一緒に居るってのは良くないんじゃない?」

「心配ないよ。俺と雪は兄妹みたいなのだから」

「下手に手ぇ出したら、許さねぇからな」

何処までも穏やかに受け答えする和俊に、ライバル心をむき出しにする永生。



「まぁ、今日はしゃーない。雪ちゃん頼む」

「あぁ…大丈夫。ありがとう、永生君」

(この優男…)



心の中ではなどととは一ミリ思ってない、永生だったが、今夜は、本当にこれしかないと手段がないと和俊に雪を預けた。





雪を永生からバトンタッチした和俊は、自分のベッドに寝かせた、和俊は雪の寝顔を見つめながら、

「ごめんな、雪…」



ボソッと呟き、おでこを撫でた。

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