第2話 ずーっと言わせてくれない、好き

雪は、午後九時半頃に自宅のアパートに着いた。

さっさとメイクを落とし、部屋着に着替えると、ベランダに出て、

かずー!いるー?」

と右隣の部屋に向かって、呼びかけた。

「おー。帰ったんだ。今日新人歓迎会とか言ってなかった?えらい早いな」

ベランダに現れたのは、雪の幼馴染、西野にしの和俊かずとしだった。



和俊と雪は同じ幼稚園で仲良くなり、小・中・高・大と同じようにまるで兄妹のように、一緒に育った。

和俊は雪の二つ上で、性格はゆったりした穏やかな人間性で、雪とは違い、人望も厚く、社交的だった。



「だって、なんか会社の人間じゃない人が一人混じってて、そいつが滅茶苦茶嫌な感じでさ。途中で帰ってきちゃった」

「お前はー。そんなだから仕事以外上手く行かないんだよ」

「良いじゃん。仕事しに会社行ってるんだもん。仕事に責任もって、やれるだけやってるんだから、文句言われる筋合いないよ」

「雪らしいな」

と和俊が笑うと、

「えぇ、どうせ」

会社でも、プライベートでも、滅多に笑わない雪だったが、、和俊の前ではよく笑った。

「雪はそうやって笑ってれば、すぐに彼氏出来るのに、もったいないな」

「…大きなお世話」



雪がまた不機嫌になった。

言わずもがな、雪は和俊の事が物心ついた頃から、好きだったのだ。

その気持ちを和俊が気付いているだろうことも、雪もまた気付いていた。


こんな愛想の無い雪でも、和俊に気持ちを伝えようとした事は、何度もあった。



幼稚園で四葉のクローバーを見つけて、それをプレゼントしようとした時。

小学校で和俊が、百メートル走一位になった時。

中学で、和俊がサッカー部に入部した事を聞いて、二年後、入学して、すぐサッカー部のマネージャーとしてサッカー部に入り、試合に負けて、肩を落とす和俊を慰めようとした時。

頭の良い雪が、和俊と同じ高校に入る、と告げた時。



その都度、雪は自分の気持ちを伝えようとすると、和俊は話を切り替え、伝えさせてくれようとはしなかった。



雪とは正反対の性格だった和俊は、何度か告白をされたことがあった。

けれど、雪に対しても同じように、その告白は受け入れられる事は一度もなかった。



雪がベランダで、久々に聞いてみた。



「ねぇ、和?」

「ん?」

「なんで恋人作らないの?」

と聞くと、ちょっと意味深な笑みを浮かべて、

「付き合おうと思うほど、好きじゃない。只それだけの事だよ」

としか言わなかった。

「…き?…雪?」

「へ…あ…何?」

「明日、早朝会議あるって言ってだろ?早めに帰って来たのは正解かもな。早く寝ろ」

「あ…うん」

「腹出して寝るなよ?」

「なっ、バーカ!和じゃあるまいし!」

「ははっ。お休み」

「ん」



雪よりベランダの扉を閉め、何の躊躇もなくベランダのカーテンも閉まった。



その光景を寂しさいっぱいの目で、胸が痛くなって、ベランダから心も体も動けなかった。



「和…私じゃダメなの?」



一言雪の口からが零れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る