アルコールの匂いのする頭の中の情景

第1話 プレイボーイとウーロン茶ガール

永生えいせい君!ライン交換しよう?」

「あー!先輩ずるい!あたしもお願いします」

たいらさん!次あたし平さんの隣いいいでうすかぁ?」


よくある飲み会のワンシーン。


その日、A社の新人歓迎会が、男女十数人程で行われていた。

「OK!OK!みんなでライン交換しよう!」

「わー!本当ですかぁ!?」



平永生、は、A社の社員ではなかったが、この飲み会に参加していた。

この日、この飲み会に参加した女性陣は、とてもラッキーだった。

永生がいたからだ。


永生は、こういう席がだいっすきだった。

女性陣にちやほやされるのがこの上ない優越感に浸れる時間だからだ。


それもそのはず。

永生はルックスにとても恵まれていた。


百八十六センチの長身に、長い手足。

髪の毛と瞳の色は自然な茶色。

白い肌に、大きすぎず小さすぎない切れ長の目。

適度に鍛えられた体。

このルックスでモテないはずがない。

ルックスだけではない。

その容姿からくる自信なのか、性格も明るく、社交的だった。

トークもうまく、酔っ払った女性陣は理性を少し欠いたように、永生にべったりだった。


「おい!永生!少しは俺らにも花持たせろよ!」

「そうだそうだ!!」

永生のモテっぷりにA社の男性陣がヤジを飛ばす。

「もう!あんたたちはいいの!今日は永生君が主役だもん!ねぇ!」

「え…新入社員の僕たちじゃないんですか?この飲み会…」

「まぁ、いいからいいから!」

「おいおい!」

新人歓迎会、と言う名の飲み会は滞りなく盛り上がって行った。




「おい!清水しみず!飲んでるか?」

「…はい」

それは、この飲み会のしらけさせるしらけさせるのに十分のなほど、冷ややかな返事だった。

「なんだよ、清水!楽しめって!」

「…楽しめるはずないじゃないですか。新人歓迎会になんで社員以外の人がいるんですか?こんなの合コンまがいの何物でもないじゃないですか」

その場が、一気に凍りついた。

「清水…何もそんな言い方しなくても…」

先輩の男性社員がその場を何とか収めようとした。

「…そうですよ、ゆき先輩。こんなに平さんが盛り上げてくれてるじゃないですかぁ」

「…」

雪は、そんな帳尻に合わせるつもりは到底なく、一人黙ってウーロン茶を飲んでいた。

そこへ、ド・ポジティブしか脳に刻まれていない永生が口を挟んだ。

「あー、雪ちゃんて言うんだ!今日まだ俺と喋れてないもんね。ヤキモチ焼いちゃった?大丈夫大丈夫!ちゃーんと連絡先教えるから!」


雪の機嫌が一層悪くなった。


雪は、ルックスだけなら、“女版永生”と言えるほど、美人だった。

しかし、性格は真逆で、自分の道を突き進むと言うか、空気を読まないと言うか何とも冷たいと過言でもない性格だった。それは、仕事にも同様で、後輩、同期はもちろん、例え相手が先輩でも間違いや、使えないアイディアならば、なんの躊躇もなく指摘だしした。

それも解らなくはないのは、雪は二十六歳と言う若さで、今、社内で行われている大きなプロジェクトのチーフ任されていたのだ。



そんなこんなで、忙しい中、無理矢理新人歓迎会だから、と言われ、出席した飲み会で永生の存在はクズでしかなかった。



「じゃあ、雪ちゃん、これ俺のID」

「要りません。こんなくだらない飲み会に一時間半も付き合わされたんですから、もう良いですよね?帰ります」



そう言うと、さっさと席を立って、自分の飲んだ分の倍のお金をそこに置き、ハイヒールの踵を鳴らしながら、帰って行った。

「あ…ちょ」

先輩の女性が引き留めようとするが、雪の足は速く、もう店の外に出て行ってしまった。

その後、空気は一気に冷め、『どうすれば良いの?』的な空気が、一同を包んだ。



「き…北見きたみ!平君に謝ってよ!『永生なら、清水を任せても大丈夫!』とか言って、平君呼んだの北見でしょ!?」

雪の直属の上司の笠間由香かさまゆかが男性社員の北見一きたみはじめに永生への謝罪を求めた。

「あ…あぁ。すまない、永生」

「いや?全然かまわないよ」

永世は屈託のない笑顔で応えた。

その笑顔で、一同にまた明るさが戻った。

「おっしゃ!二次会行こうぜ!な!永生!!」

「そうだね!いこいこ!」



そうして雪の去った二次会はこの後も、永生盛り上げ、最後まで、滞りがなかったように、永生に雪以外の女性陣のハートを鷲掴みにして、幕がおりようとしていた。


その別れ際、

「なぁ、北見、雪ちゃんのライン、教えてくんない?」

永生が女性陣に気付かれないように、北見に耳打ちした。

「え!?」

「何?そんな驚くか?」

「おまっ清水みたいなのがタイプなの?」

「え?悪い?」

「あ…イヤ、見た目は良いけどお前も今日解ったろ?清水がどんな奴か…」

「ん。解った。面白そうな子だなって事が」



その二人のコソコソ話に気付いた雪の後輩が、

「何ですか?二人してコソコソとぉ!」

大きな声でみんなの目を永生に向けた。

「え!?もしかして永生君本命いるとか?」

「キャー!私だったらどうしよう!?」


夜中十一時過ぎ、みんな酔っぱらってるし、大人であることをしばし忘れ、永生の意中の人を知りたがった。


「ん―とねぇ、みんな可愛いからどうしようって相談してただけ!」

「わーなんか永生さん本当にプレイボーイですね~」

年甲斐もなく、キャッキャッと言う女性陣を駅まで見送った後、永生は、北見に、

雪の事を知りたがった。



「なぁ!雪ちゃんのライン教えて」

「実は…俺も知らないんだよ」

「はぁ!?」

「メアドなら知ってるけど…」

「今時ラインやらないの?雪ちゃん。それともお前だけ相手にされてないだけ?」

「ちげーよ!清水はお堅い奴なの!そういう女なの!」

「へー…益々面白いじゃん」


永生の目が、野生の豹に変わった。

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