第15話山ちゃん ①
「 MASSA……MASSA…… 」
アオの声で現実に引き戻される。どうやら無意識のうちにアオのほっぺを
プニプニつついていたらしい。相当恐い顔をしていたのだろう、
心配そうな面持ちで俺の顔を覗き込んでいる。
「 MASSA…… ? 」
「 うん、ゴメンゴメン…… 起こしちゃったな 」
無理に作り笑顔をしてみるが、引きつった顔をしているのは自分でもわかる。
マンバさん(彼女)と話が出来るのは自分だけ、そのためにここにいるのだが
正直気が重い。話が出来ても意思の疎通が全く取れていない、予想外だった。
阿さんと吽さんが食べ物を持って来てくれる、彼女への差し入れだった。
彼女に言わせれば変な食べ物かもしれないが、ここでは貴重な食べ物である。
それを無言で受け取る、さて何と言ったものだろうか……
「 MASSA…… アオ、イク 」
「 うん…… う~~~ん 」
あの興奮状態のマンバさんとあわせていいものかどうか悩んでしまう。
人の趣味嗜好をどうこう言うつもりはないのだが、あのファッションとメイクを
地上人基準にしてしまっていいのだろうか。
それにあの剣幕…… まさか暴れ出すことはないと思うが心配ではある。
「 MASSA…… ? 」
アオにとっても今回は初の遠征任務、彼女なりに思うところがあるのだろう。
「 わかった、二人で行ってみようか 」
「 ウン 」
ばあさん特製のエビの素揚げを持ってマンバさんがいる部屋に向かって歩き出す。
入口の前で立ち止まり深呼吸、冷静に冷静に……
アオも流石に緊張しているのだろう、俺の後ろにへばりついている。
「 ………… クスン ……クスン 」
部屋の中から彼女のすすり泣く声が聞こえてくる。考えてみれば当然だ……
若い女性がいきなりここに放り込まれてパニックにならない訳がない。
俺が落ちてきた時はばあさんがそばにいた、話が通じない相手ばかりだったら
一体どうなっていたことか…… 彼女のあの興奮状態も理解すべきだったか。
「 ホェ ~~~~~~ 」 ×2
突然部屋の中から珍妙なハモり声が聞こえてきた。
「 あれ ? アオ ?」
後ろにへばりついていたはずのアオがいない。
「 アオ ? アオ ? 」
「 ウン 」
部屋の中から返事があった、俺が躊躇している間に部屋に入り込んでいたのだ。
慌てて部屋に入った先には…… 地底人ミーツ原始人が実現していた。
「 うおっ !? 」
相当泣いていたのだろう、メイクがスゴイ事になってしまっている。
『 うおっ !? じゃねーよ !! ケンカ売ってんのかゴルァ !! 』
前言取り消し……マンバさんはやっぱりマンバさんでした。
「 だって顔が…… いやそれより話する気あるかな ? 」
『 ハァ !? アンタが勝手に来て勝手に出て行ったんじゃん 』
「 いや、そうなんだけど……『マジイミフ、それとコッチ見んなよ 』
つけまつげが取れかけてプラプラしているマンバさんをアオがガン見している。
新種の珍獣を発見したかの様に…………
アオさんや、彼女は地上でも珍しい人なんだよ……
そう伝えたいのだがいい言葉もゼスチャーも思い浮かばない。
『 マジキモイ !! ナニ一人でニヤついてんだよマジイミフなんだけど 』
「 いや、その……『それになに ? その娘 ? 』
『 アンタなんかマジヤベー奴だと思っていたけど、まさかコスロリ野郎だったとは
ね…… ヤダッ、サブイボ出てきた 』
「 ん? コスロリ ? 」
『 いちいち説明しないとわかんないかな…… コスプレロリータだよ
もうアンタ即逮捕レベルだから、マジで 』
ゴスロリなら知っていたがコスプレロリータときたか……
ここであることに気が付く。ラノベになれ親しんでいる俺はここに来た時、異世界に
転生してきたものだと本気で考えていた。一方普段ラノベなぞ読むこともなさそうな
彼女は、ここを異世界などとは思わず怪しいコスプレ集団と認識したのだろう。
阿さん吽さんもコスプレ…… 思わず笑ってしまう。
『 だから、そのヘラ顔ヤメロって言ってんじゃん、もうその顔だけで逮捕だよ 』
いや、あなたの顔も相当ですよ……
「 この娘はアオ、コスプレもメイクもしていないよ」
『 ハァ !? 意味わかんないんですけど…… 一体ココ何処よ ? 』
「 日本だよ 」
『 チッ ! 』
「 舌打ちは控えてもらえるかな、この娘が真似したら困る 」
『 その娘、アンタの娘な訳 ? 』
「 いや違う 」
『 マジイミフ…… アンタその娘のなんなのさ 』
困った…… なんと説明したものだろうか。
「 えーとこの娘は……『知ってる ! 幼女誘拐監禁虐待ってやつだ !!
前にニュースでやってた !! やっぱアンタ死刑でいいよ 』
嗚呼、話が進まない…… 警戒、防衛本能、いやただ単にこういう娘なのだろう。
「 MASSA ? 」
アオが少し不安そうに声を掛けてくる。
「 アオ、この人はね…… 誰だっけ ? 」
『 シネ !! 』
そういえば名前すら聞いていなかった事に今更気付く。
「 この人はね…… うん、山ちゃん『誰だよ山ちゃんて !? 』
速攻でツッコミが返って来る。
『 何処から来たよ山ちゃんて !! 初めましてすぎてビックリだよ !! 』
「 いや、まだ名前聞いてなかったから取り敢えず……『普通取り敢えずで人の
名前決めなくない ? ア~なんか足がズキズキしてきた 』
わざとらしく足をさすりだす山ちゃん、マンバさんより良いかと思ったのだが
お気に召さなかったのだろうか。
「 ウフフ…… YAMAちゃん ♡ 」
アオがニコニコ顔で声を掛ける。
『 山ちゃんじゃねぇ…… ア~この娘可愛いなクソッ ! 』
マズイな、アオが山ちゃんで名前登録してしまった…… 修正出来るだろうか。
「 あらためてなんだけど、名前聞いてもいいかな ? 」
『 ハァ !? なんでウチがアンタに名前教えなくちゃならない訳 ? 』
「 いや、このままだと名前、山ちゃんになっちゃうから 」
『 マジ意味わかんないんですけど、アンタの責任なんだから何とかしなさいよ 』
「 それなら名前教えてもらえるかな 」
『 名前は…… 綾小路(ゴニョ)櫻子(ゴニョ)だけどなにか文句でも !? 』
人は見かけで判断してはいけない、なんとも雅な名前が出てきた。
良家のお嬢様だろうか ? いや、むしろ家のしきたりとかに反発してのマンバさん
なのかもしれない。
彼女も自覚があるのかジロリとこちらを睨んでくる。
「 文句なんてとんでもない、ただ長い名前だからこの娘が覚えられるかどうか 」
『 知らんがな !! 』
「 アオ、この人はね……「YAMAちゃん !! 」
間髪入れずアオが返事を返してくる、どうしたものか……
「 そんな訳で取り敢えず、山ちゃんでお願いします」
『 どういう訳だっつ~の !! ア~もう山ちゃんでいいわ、なんかもう
めんどくなってきた 』
「 ハイ ♡ YAMAちゃん ♡ 」
アオがニコニコ笑顔で、小さな手を山ちゃんに差し出している。
その手のひらには特製木の実玉がチョコンと乗っかっていた。
『 エッ !? なに !? 』
流石の山ちゃんもアオには毒を吐くつもりはなさそうだ。
ていうか、普通に話せるのなら最初からそうしてほしかったよ。
「 木の実を粉にして蜂蜜で固めた物だよ、甘いよ 」
『 くれるの ? 』
「 ウン ♡ 」
木の実玉を受け取った山ちゃんは、恐る恐るながらだったがエイッっと口に
放り込んだ。
『 ん~~~~ ♡♡♡ 』
スイーツ、甘味の力は絶大だった。極限状態にあった彼女の心を一気にほぐして
しまっている。それに口が塞がっている今なら、毒を吐かれる事もなさそうだ。
「 俺が知ってる事は全て話すから、取り敢えず聞いてもらえるかな 」
『 (モゴ) うん (モゴ) 』
おお、いい感じ !! ナイスだアオ !!
口をモゴモゴさせて大人しくなった山ちゃんに、色々現状報告を始める。
此処が何処なのか、アオ達地底人のこと、そして俺とアオが此処にきた理由…………
異世界?の天下人 まさりん @masalynn
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