第14話山姥

 遂にご対面……相手が現代の地上人とあって逆に緊張してしまう。

まずは挨拶から始めてみよう。

「あのぅ、こんにちは」

「………………」

返事はない。暗いのだからこんばんはのほうが良かっただろうか。

「あのぅ、起きていらっしゃいますか? 」

なぜかやたらと下手に出てしまう。

「………………」

返事はない。寝ているのかもしれないとほっとしてしまう……ヘタレ全開である。

『……アンタ、しゃべれんの? 』

「うおっ !? 」

起きていた、しかも女性だ !!

『ウオッ !? じゃねーよ !! しゃべれんのかって聞いてんだよ !!

 何回も同じ事言わせんなつかえね~ 』

うん、確かにかなりの興奮状態だ。

「え~と、どこから……『つ~か電源どこよ !? スマホ充電したいんだけど』

「あの……『イヤ、マジでいつまでも死亡フラグとかありえないから !! 』

「ん~~と『イヤだから速攻リカバんないとマジヤバイっての !! 』

状況把握出来ずに相当混乱しているのだろう……それとも久々の会話で言葉が溢れ 出てしまっているのか……

『チョット人の話聞いてる? 要領悪すぎなんですけど』

「と、取り敢えずソッチ行ってもいいかな? 灯りもあるし」

『来んなよ !? マジキメ~よ』

「い、いや離れていると話しにくいかと思って…… 」

『チッ !! しょーがねーな、但し許可なく近づいたらマジ通報すっから』

うわぁ~女の人が舌打ちするの久々に見た、それに通報って……

「それじゃ、そこの椅子に座ってもいいかな?程よく離れているし」

『イイヨ』

彼女と椅子の間にテーブルがありそこに灯りを置いて椅子に腰掛ける。

久々の地上人とのご対面、目の前にいた女性は…………ギャルだった……

いや、この全体的に薄汚れた感じのいでたちは、昔流行したというヤマンバギャルというやつだろうか。今、地上ではヤマンバ復活しているのだろうか…… バサバサの金髪はお約束、週一で日サロ行ってます……くらいの肌の仕上がり、マッチどころかボールペンすら乗せられそうなつけ睫毛、おっさんにはまったく理解出来ないパール

ファンデメイク……ここに来てからもメイクは欠かさず……なのか ?

デコデコのネイルが全部の爪に付いていないのが少し哀しい。両足は竹製のギブスで

固定されている、骨までいっていないといいのだが……それでもこの程度でここにいられるのは奇跡的な事なのだが。アオが見たらどんなリアクションするかな、地底人ミーツ原始人……ヤバい楽しみ !! 起こして連れてこようかな。

『キモッ !! 何ニヤついてんだよマジでさ !! いっぺん埋まっといた方が

 世の為、人の為ってヤツなんじゃね !? 』

いや、まあ確かに現在進行形で埋まってしまっているのだけれども……

「ゴホン、足は大丈夫 ?」

『そうそれ !! ウチにこんなケガさせてどうしてくれるワケ? 当然、治療費と 

 慰謝料請求すっから責任者出て来いって話だよ !! とりあえずアンタ、土下座

 してワビ入れんのがスジじゃね !? 』

「いや、あの……『つ~か救急車、医者連れてこいよ !? 足痛いんだよマジで

 大体何コレ ? 何時代って話だよ !? 』

この場所で出来る限りの処置はしてあると思うし、それにここには救急車どころか 自衛隊でも来られないよ。そう言うよりも早く次弾が放たれる。

『イヤだから電源どこよ !? 電池戻れば全て終了だから』

これまたキラキラとデコられたスマホをヒラヒラさせながらキメ顔の彼女の口は

止まらない。

『ウチ、いろいろマジでヤベー人知ってっから、あんま怒らせない方がイイヨ ♡』


 出た…… 他力本願マウント !! 一気に地上にいた頃に引き戻される。

自分が最も苦手とする……いや忌避するタイプの人間だ。こういったタイプの人間と関わると無駄に神経が削られるだけで正直ロクな事がない。

『キレた ? ウケる、マジウケるんですけど~~~ ていうかウチ、マジでヤバイ

 くらい腹減ってんだよね、取り敢えずピザとロイヤルミルク……「あのさ !!」

遂に耐えかねて彼女の言葉を遮ってしまう。

『イヤだからマジ顔ヤメテくんない ? マジ引くから……』

駄目だ、まったく会話にならない。

目の前にいるのは現代の地上人で同じ言葉を話している筈なのに……

「とにかく、ここに電気はないし医者もいない」

『ハア !? それあり得なくない !? ウチにこんな怪我させといて一体どう

 責任取ってくれんの !? って話よ !! 』

どうして彼女はここまで被害者面していられるのだろう……文句言った者勝ちとでも

思っているのだろうか。なんだか面倒くさくなってきた。

「どうしてもというのならそのマジでヤバい人に助けに来て貰うといいよ」

『ハア !? だからスマホ死んでるっていってんじゃん、人の話聞けよ !! 』

あ~~~~~ バイト先の客でもこういう奴いたなぁ~~~ お客様ポジションで 無駄に偉そうな奴……   なんて誰でも手に入れられるものに必死でしがみついている。彼女は今、どんな状況なのかわかっているのだろうか、それともただ現実から目を背けているだけなのか。

『だから人の話聞けっつ~の !! 大体、他のヤツらは口もきかね~し、ヘンな

 食いモンしかよこさね~し、マジ意味わかんないし』


!!


………… もう限界。深呼吸程度で誤魔化しきれるレベルではない。

俺はこんな奴の為に命懸けでここにやって来たというのか !?

「うん、それじゃ…… 」

『チョッ !? 待ち…… 話なんも終わって…… 』

返事も返さず部屋をでる、これ以上彼女の言葉を聞いていたらどうにかなってしまいそうだった。

 アオが寝ている部屋に戻ると、三人が心配そうな面持ちで出迎えてくれた。両手を

肩くらいまで持ち上げて……お手上げ…… のポーズを取ると三人そろってため息。

今度は阿さんが肩をポンポンと叩いて労ってくれる。アオは未だにスヤスヤと眠り込んでいる……無事到着して気が抜けたのだろう。

そんなアオの寝顔を眺めながら地上にいた頃の事を思い出していた……

地上にいた頃の自分は世間で言う所の成功者どころか普通、人並みですらなかった。 

おっさんと呼ばれる歳になっても定職にも就かず実家暮らし、結婚もせず車やお金も

それほど持っていない。バイト明けに貰った廃棄予定の大福を頬張って幸せになれる小さな人間だ。それでもいいと思っていた……しかし周りがそれを許さない。

自分は決して卑屈になっているつもりはないのだが、俺の現状を知るとほぼ全ての人が上から目線、ぞんざいな態度をとりだす。

そして喜々として説教が始まる…… 内容は判で押した様な定型文、新たな発見など

何一つも見当たらない。一つだけ言えるのは俺の為の説教ではなく、自分が優越感を得る為だけの説教だということ。

以前、酒の席で学生時代の友人と口喧嘩になった事がある。彼は大手企業に努める

サラリーマン、結婚して二人の子供を育てている。家や車のローンガァ~ 子供の 教育費ガァ~ と、ガァ~ガァ~愚痴をこぼしていた。

そのくせ最後には、

「まあ色々大変だけど幸せだよ」

などとドヤ顔でしめてくる。そのセリフが言いたかっただけだろうに……

「ふ~ん、そんなものかね」

この一言が彼の琴線に触れてしまったらしい。かなり酒が入っていたのもあるが、  そこからは上から目線の一方的な口撃が始まった。普通、人並み、世間体、    親の気持ち、皆頑張っているのにお前は…… 等々。

彼も相当無理を重ね苦労していたのだろう、今の俺なら、

「幸せそうで羨ましいよ」

くらいは言ってやれたのだが…… それ以来、彼とは一度も会っていない。


 どうして人間は無駄にマウントを取りたがるのか。

人間が群れで生きる生物である以上、群れを束ねるリーダーは必要である。

そしてリーダーになれない者は、その群れの中での自分の取り分を確保する為には

自分の立ち位置、居場所を確保せねばならない。ある者はリーダーに気に入られる様

行動するかもしれない、またある者は他の足を引っ張る事で、相対的に自分の価値を高めようとするかもしれない。

群れ、組織に与する以上は必ずそうなる。少しでも多くの取り分を得る為に……

そんな努力や競争を放棄した俺は、もちろん多くの取り分を望むつもりはない。

しかし周りはそんな俺をほってはおかない。己の優越感、自尊心を満足させる為だけにマウントを取り続ける。このマウントは俺がリーダーになるか、潰れて壊れるまで

続くのだろう………… 


くだらない


 マズイな…… 闇落ちしそうだ。

久しぶりに地上の暴風に晒されたせいで、いろいろ思い出してしまった。

積極的に地上に戻ろうと考えないのは、この辺に理由があるのかもしれない。

傍らで眠りこけているアオを眺めているとあることに気が付く。

地底生活を始めてからは、マウントらしいマウントを取られた事は一度もなかった。

長はいるが、決して強欲的なものではなく全体の調整役といったところだ。

少ない食料を巡って、争いなど起こってもおかしくはないと思うのだが……

もっともこの過酷な環境では人数も増やせないし、一人欠けただけでも全体の生活に支障をきたしてしまう。奪えるモノがなければ争いも起きないということなのか。


一人は皆の為に、皆は一人の為に……


この言葉がしっくり治まる気がする。

欲にまみれたストレスフルな地上生活、ストレスは少ないが質素な生活を強いられる

地下生活…… どちらが正解かなんて誰にもわからない。人の数だけ答えがあるはずなのだから……

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