第13話遠征

 新しい天下人がやって来たという竹の家に向けて、四人パーティーで出発する。

阿さんを先頭にアオ、俺、吽さんの順で進む。見覚えのある場所を過ぎるといよいよ 未知のルートに入っていく。道はほぼ下り道、不思議な場所だ。恐らく溶岩の流れで

出来た物だろう……地球の中心に向かって掘られた天然のトンネルをひたすらに降り

続ける。我ら四人以外なにも動く物がない世界、自分たちで発する音以外何の物音もしない全くの無音である。

そして暗い、真っ暗だ……ラノベ風に例えるなら漆黒の闇とでも表現しようか、闇夜のカラス……これは少し違ったか。僅かな光源しか持ち合わせていない我々にとってまさに一寸先は闇、すぐ傍に何者か潜んでいても全く気が付かないだろう。

圧力すら感じる闇といきなり目に飛び込んでくる岩肌に翻弄されて、方向感覚、平行感覚共にマヒしてきている。もはや登っているのか降っているのかすらわからなく なってきた……先程から頭がクラクラしている、そして酷く眠い……

「○×△□※…… 」

突然、後ろにいた吽さんが先頭を行く阿さんに声をかけた。どうやらふらついてきた

俺を見かねて休憩を提案してくれたみたいだった。

「MASSA……ネル ? 」

アオも心配そうに声を掛けてくれる。

「大丈夫、大丈夫」

マッチョなポージングをしてみせて問題ないアピールをする。

「○×△□※…… 」

少し開けた所にでると阿さんが声を掛けてきた。

「MASSA……ネル」

どうやら休憩タイムらしい……ボロゾーキン復活である。基礎体力はそこそこ付いてきたという自信はあったのだがまだまだの様だ。そしてなぜか目眩がするし、やたら眠くてたまらない……あれ? これって酸欠とかガスとか…………

「MASSA……ア~~~ 」

アオが小さな口を開けて何かを差し出してくる。その手には乾燥させた薬草が握られている。

「あっ !? それニガイやつ…… うえぇ~ !! 」

「フフ、ババ、ア~~~~ 」

アオは苦虫を噛み潰した様な顔をしている俺の事などはお構いなしに薬草を口に放り

込んでくる。前に一度、口にした事があるが今回も全然慣れることなく苦かった。

アオもその薬草を口にしてしかめ面をしている。この薬草の名前は知らないがたぶん気付け薬として使っているのだろう、実際苦すぎて眠気はすっ飛んでしまった。

ばあさんがこの薬草をアオに持たせたということは、この目眩、眠気をここで味わったのだろう。阿さん、吽さんのしかめ面をみてアオが笑っている…… やはり誰が

食べても苦いのね、コレ……

「MASSA……イク」

闇と無音が支配するこの空間にアオの声だけが響き渡る。さすがは相棒、休憩時間の

取り方が絶妙だ。過去の経験上これ以上へたり込んでいると疲労度が増してしまう。

「よし、行こうか !! 」

「ウン」

「阿さん、吽さん、ありがとうございました……行きましょう」

勝手に付けた名前を呼んで話掛けてしまった…………

言葉が通じていないので ????? な二人だったが、アオの同時通訳のおかげで

なんとか誤魔化せたみたいだ。それからも休憩を挟みつつひたすら歩き続ける。

それからも暫くは下り一辺倒の道のりだったが、崩落あとと思われる(!?)横穴に

入り込むと岩の肌質が変化しているのに気付く。大きな岩と岩の隙間をすり抜けたり

登ったり降ったり、崖をよじ登ったり……確かにばあさんではキツイかもしれない。

明らかに地質が変化してきている。溶岩トンネルの辺りでは、無音の世界だったが

今いる場所では聞き覚えのある崩落の音があちらこちらから聞こえてくる。決して、喜べる音ではないのだが、目指している竹の家が近づいている気がする。

 やがて我ら一行はかなり広い空間となっている場所に到着する、天井も高い。

天使の階段とか言っただろうか……岩盤の隙間から漏れ出る僅かな光が幾筋もの線となり、幻想的な雰囲気を醸し出している。空気の質も格段に良くなっていて、思わず

深呼吸してしまう。辺りには、最近崩落したばかりと思われる場所があった。

日頃の習慣とは恐ろしいもので無意識のうちに天下物の有無を確認してしまう。

成程確かに竹が多い、木がほとんど見当たらない所を見ると地上は竹林にでもなって

いるのだろうか。ふと、安全確認を兼ねて上を仰ぎ見る……

「まじ……かよ…… 」

我々の頭上には下まで落ちきらなかった竹が無数に引っ掛かっていてそれらが互いに 

絶妙なバランスを保ちながらひしめき合っている。

何かの拍子に全部落ちてきてもおかしくない !!

「吽さん、吽さん !! あれ ! あれ !! 」

上を指さしながら後ろを歩いている吽さんに話掛けてみる。

「ン~~~~ ○×△□※ 」

だめだ ………… 吽さんの口調からするとそこまで危険とは思っていない様子。

ここではあれが通常なのか……ポカンと口を開けて上を見ていると、

「○×△□※…… 」

吽さんがニッコリ笑ってお尻をポンポン叩いてくる……気にせず進もう……

そう言ってくれた気がしたので、気にはなるが再び歩き始める。

道中少しずつだが人工物、人の手が入ったと思われる場所が増えてきた。

「○×△□※…… 」

先頭を行く阿さんの声が聞こえてきた。

「MASSA……キタ !! 」

「ついたかぁ~~~ 」

数日かけてようやく到着、さすがに疲れた……そういえばここ、温泉あるのかしら?


 竹の家とは良く言ったものである。家具はもちろん、壁、床、ありとあらゆる物が

竹で作られている…… 大モノから細工モノまで、まさに職人芸。

特に一番目を引いのが、ベットとしても使えるリクライニングチェアーだ。

竹のしなりを有効利用して、抜群のクッション性、ホールド性能が確保されている。

まさかこの地下深くにまで、ダメな人間になるグッズが存在していようとは……

人間の考えることはどこでも一緒ということか、ウチの姫様もお気に召したご様子で

満足げな表情でうつらうつらしている…… 竹や笹には殺菌作用があると聞いた事があるが、なかなか利にかなっているのではないだろうか。

次に驚いたのが竹炭が作られていた事、かつての天下人が持ち込んだ技術を代々  受け継がれているらしい。炊事は勿論、浄水器として水を濾過したり、部屋に置いておくことで空気清浄機としても使われている。これはあくまでも個人的感想であり、科学的に証明は出来ないが、あの独特な淀んだ空気感は軽減されている気がする。

住環境においては、こちらの家の方が格段に上であるが、食料事情はかなり厳しい

様だ。到着してから振る舞われた食事は、タケノコの水煮とメンマの中間の様なもの

わずかな燻製肉と青菜を塩もみしたもの……保存食メインである。

後で聞いた話なのだが、ここの天下物はほぼ竹と笹だけで獣などが落ちてくることは

ほとんどなく、竹でいろいろな物を作ってほかの家と物々交換することで食料を得ているらしい。出発時にばあさんが小エビの唐揚げや燻製肉を土産として渡していたがここではとても貴重な食材なのだろう……阿さん、吽さんがえらく興奮していたのを思い出す。甘い物も珍しいらしく、道中で、きなこ玉を口にした二人の満面の笑顔はまるで子供のように輝いていた。


 その阿さん、吽さん、そしてここの長とみられる三人が目の前で話込んでいる。

「アオ…… 起きろ、アオ」

リクライニングチェアーでウトウトしているアオの足をペシペシ叩く。

俺だって長がこちらをチラチラ見ていなければ一緒にくつろぎたいところなのだが

大人としてはそうもいかない。

「アオ…… アオってば」

「ン~~~~~?」

アオさんや、折角のリラックスタイムを邪魔して申し訳ないが頼むから起きておくれ

居心地が悪くて仕方がない。いまだにうつらうつらしているアオの手を引いて三人の

いる所に近づいていく。

「あのう、そろそろ例の………… 」

もちろん言葉が通じるはずもなくアオの通訳待ちなのだが、ただただ静寂だけが支配するのみの空間になってしまっている。

「おいアオ、通訳して………… 」

寝ている…… 見事な立ち寝、盛大に櫓を漕いでいる。たいへん可愛らしい光景なのだが俺の間がもたない。それを見ていた三人が笑いながらチェアーを指さす。

とりあえずは俺一人で話をしてみる事になった。

吽さんが少し離れた所にある部屋に案内してくれる。部屋の中は灯りもなく真っ暗だった……吽さんがノックをしても何の反応もない。

吽さんは小さくため息をつくと軽く頷きながら俺の肩をポンポンと叩いて部屋から

出て行ってしまう。


丸投げですか…… !? いやまあ、そのために来たのですけど…………

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