第12話隣人

「ただいま」

「おう、戻ったか」

いつもどうりにばあさんが出迎えてくれる……が今日は少し様子が違う。

ばあさんの傍らに見慣れない二人の男が立っていた。

誰だろう……年は俺と同じくらい、初めて見る顔だ。その二人組は悪意こそ感じられないが警戒している……とも違う、値踏み、品定めをするかの様な視線を送り続けて

くる……大人の男二人に凝視されてどうにも居心地が悪い。

「あの……え~っと……ばあさん?」

ばあさんは本日の戦果を見せびらかしているアオをイイコイイコしながら早速、調理する様に指示を出していた。とてとて歩き出すアオを見送りながら再び話しかける。

「ばあさん ? 」

「ウム、沢山捕れたの、唐揚げにしたい所じゃが鍋にしとくか」

「あ~~油残り少ないもんな……じゃなくて !! 」

「何じゃ、お前さんも唐揚げ派かい? 確かにヤメラレナイトマラナイよのう」

全くもって話が進まない、ワザとか? ツッコミ待ちなのか? ばあさん。

例の二人は話の内容は全く通じていなさそうだが、老孫漫才を黙って見ている。

「いや、エビの話ではなく、こちらの二人初めましてなんだけど……」

「おう、そうじゃったな、ワシも会うのは久しぶりじゃよ」

「ド、ユ、コト ? 」

洞窟マップを作成している旅人さんなのだろうか…… それともまさかまさかのガチ !! 新章突入 !? ついに俺にも未知なるスキルが…… !?

「隣に住んどる連中じゃ」

「ん? 今なんと ? 」

「じゃから、隣に住んどる奴らじゃよ、名前はよう知らん…… まあ隣といっても

 足の強い者で三日はかかるがの」

「ん~~~ お隣さん……ですか…… 」

困った…… 新展開といえば新展開なのだが新キャラがおっさん二人組、しかもお隣さんときたもんだ……回覧板でも持って来たのか ?

「そういえば、お前さんにはその辺の話はしてなかったかの」

「はい、全くです」

「ウム、別に隠していた訳ではないがの……この家の様な場所が幾つかあるのじゃよ

 実際何ヶ所在るのか、正直ワシも知らん」

そんなにいたのか地底人……

「こやつらは隣の家に住む者達じゃ、お前さんに用があるらしい」

「俺に? っていうかさっきから睨まれ続けて少し恐いのですが、一体何用……?」

「ウム、初見でやたら親しくしてくる者は気をつけた方がよいぞ、絶対何かを隠して

 おるよ…… 呵々 !! 」

その一方的な決め付けはどうかと思うが、まあ間違ってはいないのかもしれないな。

「詳しい話は長が戻って来てからにしよう……さあメシにするか !! 仲良くなる

 には同じ釜のメシを喰えと昔からいうしの !! 」


 

 早々に長が戻ってきたので食事もそこそこに緊急会議が開催された。メンバーは長、ばあさん、お隣二人組、そして俺とアオ。俺に用があると言っていたがなぜか アオも呼ばれていた。しばらくの間、俺とアオを外した四人で話し込んでいる。

話をしながらも時折こちらをチラチラ見ているのが非常に気になる。話ている内容が

わからないので余計にもどかしく感じる。

話が煮詰まってしまったのだろう、長が腕を組み大きなため息をついたのを合図に

皆黙ってしまった……長の判断待ちといったところだろうか。この沈黙を利用して

ばあさんに話掛ける。

「ばあさん、一体何事だい ? 」

「おう、スマンスマン、少々難儀な話なもんでな、さてどうしたものか…… 」

そう言ったきり、また黙り込んでしまう……だから何事なんだよ !!

「ババ、アオとMASSAいく」

ばあさんの横にちょこんと座っていたアオが突然声を出した。アオは他の大人達の

会話がわかっているので、それに対する返事なのだろう。それにしても俺の扱いが

ヒドすぎではないだろうか。

「ばあさん少しは俺にも説明してくれ !? なにがなんだかサッパリだよ !?」 

「おう、そうじゃった、スマンスマン……当人の意見を聞くのが一番先よのう」


 ばあさんが話してくれたのはこんな内容だった……

少し前に隣の家の傍に天下人が落ちてきたそうだ。その天下人は足をケガしているが命に別状はないらしいのだががここで一つ問題が発生してしまった。現在隣の家には天下人と会話出来る者がおらず、全くコミュニケーションが取れずにいた。加えて

その天下人は極度の興奮状態で拒否反応もひどく食事もろくに取っていないらしい。

ほとほと困り果ててばあさんに相談に来てみたら、もう一人天下人(俺)がいたと

いう訳だ。

「ワシが行けたら良かったのじゃがの、道中の厳しさを考えるとちと厳しくての……

 そこでお前さん達というわけじゃ」

確かに俺たち二人が行けばそれなりに役に立てそうな話だ……それに現代の地上人と

会って話がしたい気もする。

「お前さん達も慣れて来たとはいえ、今までとは比べものにならん位危険なのじゃよ

 アオも出来れば行かせたくない位だからの」

「そこまでか……」

「ああ、考えてみい、真っ暗闇の中で崖を登り降りするところが何ヶ所もある、真に

 命懸けじゃ……この二人も相当の覚悟でここに来ておるのじゃよ」

「ん~~~~~? 」

アオでも行かせたくない、その言葉だけで充分危険なのがわかる。長の苦虫を噛みしめた様な顔は、アオ(と俺)の事を心配してくれているのだろう。ここははったりや

見栄でどうにかなる場所ではない。無謀と勇気は別物だ。

「ババ…… いく」

そんな大人達の心配をよそに行く気マンマンのアオ……最大のお荷物は俺なのだろうが俺が行かないと始まらないし……どうしたものだろうか……


 !!

「エッ !? 何 ?♡ 」

突然お隣さんの内の一人が俺の手を握りしめてきた。念の為、言っておくがこちらの

趣向も持ち合わせてはいない。いきなりすぎてビックリしただけだ……念の為。

「○×△□※…………」

……落ちてきた天下人を助けてやりたい……言葉は通じなくても気持ちは伝わって くる。自分が彼の立場だったらここまでするだろうか……とにかく今までは表面的な

薄っぺらい人間関係しか築いてこなかった。人ギライとまでは言わないが人と深く

関わるのは避けてきたと思う、それは身内ですらだ…… 見ず知らずの人間のために危険を冒すことなど絶対にしない、そうここに来るまでは……


 !!

「ウフォゥ ♡ 」

今の奇声はお隣さん、今度は俺の方から手を握り返したのだ……驚き顔のおっさんに

コクリと一つ頷いて見せてから長とばあさんに話かける。

「長、ばあさん……行かせてもらえないだろうか。俺と同じ状況だからな、出来れば

 助けてやりたい」

「ん~~~~~~」   ×2

腕を組み、しかめっ面のままの二人に更に言葉を重ねる。

「俺もアオも決して無理はしないと約束する、途中で厳しいと思ったらあきらめて

 もらって引き返すよ」

そこからしばらくの間、大人四人での話が続いた。所在なさげにしていたアオが、 うつらうつらし始めた頃ようやく話がまとまり、ばあさんが話かけてきた。

「あまり行かせたくはないのじゃが……よいか !! 無理だけはするなよ !!」

「わかった、約束するよ」


 !! !!

おっさん二人が嬉しそうに手を握りしめてくる。握手も人類共通らしい……

こうして我ら凸凹コンビ、新しいミッションが始まることとなった訳だがコンビの 相棒はガチのスリープモードに突入してしまっていた……長い会議おつかれさん。


「こんなものかな」

出発に向けての支度を整える。前にゲットしたお宝……ザイルにナイフ、そしてあの手回し式懐中電灯まで持たせてくれている。道中、相当危険と言うことなのだろう。

傍らではギンとアオが膝をつき合わせて話し込んでいる。話をしているというより、

ギンが一方的に注意、アドバイスをしている。余程心配なのだろう……実際この話を

聞いた時、自分も行くと言い出したくらいなのだから。

「おう、これも持って行け」

ばあさんが笹の葉でくるんだ包みを差し出してきた。

「何、これ ? 」

差し出された包みを受け取り中を覗き込む。包みの中には薄茶色でビー玉サイズの 物体がいくつも入っていた……と同時にほんのり甘い香りが漂ってくる。

「ああ、木の実を擂り潰してハチミツで固めたものじゃ、行動食として重宝するぞ」

確か忍者の携帯食にこんな感じのものがあったような……駄菓子屋のきなこ棒みたいなものかな。

「しかしこんなにお宝持ち出していいのか? フル装備だぞ」

「じゃから何度も言っておるじゃろ、危険度が段違いじゃと…… ワシも昔、そう

 ピチピチの時分に一度しか行ったことがないが、道中を考えると二度とゴメンと

 いうのが正直な所じゃな」

ピチピチ …………

「とは言え、なかなか面白い所じゃよ、ワシは勝手に竹の家と呼んどる」

「竹の家 ? 」

「ああ、あそこはやたら竹だの笹だのが落ちてくる所でな、竹の加工が盛んなのじゃ 

 ほれ……そこらにあるのもそうじゃ」

普段、俺が愛用しているベッドを指さしてくれる。今回も二人はいろいろ持って来て

くれたそうだ。

「それにな、竹の根っこを植えてタケノコを育てていると聞いた事がある」

地底人、農業も初めていました……スゴイな 

「スゴイなそれ !! でも、どうしてこんなに離れて暮らしているんだ? 皆で

 固まっていた方が効率いい気がするのだが」

ばあさんは乾いた笑顔をこちらに向けてポツリと呟く。

「お前さん、今腹減ってないかい ? ここで腹一杯食べた事あるかい ? 」

「ああ……そうか…… 」

単純明快、その一言で充分だった。一カ所に集まれない理由……それは慢性的な食料不足だった。今でも限りある食料を分け合っている状態な訳で、充分な量を確保出来ているとは言い難い。ましてやこれ以上、人数が増えたら……

「生きていける土地を求めて移動したということか…… 」

「詳しくは知らんが自然とそういう流れになった様じゃな……」

などと話をしていると、竹の家二人組が近づいてきた。実は二人に勝手にだが名前を付けていた。いつも口が半開きなのが阿さん(アさん)、口を閉じているのが吽さん

(ウンさん)だ。このネーミングセンスには我ながら驚くばかりだ……イイ意味で。

阿、吽さんとばあさんはしばらく話し込んでいたが、

「準備が整ったら出発したいそうなのじゃが…… どうだい? 」

「ああ、俺は大丈夫だ」

アオもコクリと頷いてみせる。

「よし !!気を付けて行ってこい !! 」

意気揚々と出発 !! ……する筈だったのだが、ここでプチトラブル発生 !!

ギンがアオをギュッと抱きしめて離さない、今までずっと一緒にいて離ればなれに なった事がなかったのかもしれない……アオが優しく諭すようにイイコイイコして

あげている。ギンはやっと観念したのかアオから離れると俺に向かって近づいてくる

……次は俺の番かな ♡ 

「○×△□※…… 」

ギュッと手を握り(手かぁ……)早口で話掛けてくる……アオの事頼んだよ……

と勝手に解釈してコクリと頷いてみせる。ギンは、阿、吽さんの手も取ってアオの 事をお願いしていた。俺個人としては全身でギュッを期待していたのだが……

「よし、行こうかアオ !! 」

「ウン」

「よし !!気を付けて行ってこい !! 」

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