第11話日常

 数日が経過すると幸いにも腫れが引いてきた、心配していた他の症状もない。

ようやくアザラシ肌から人肌に戻り手指も動かせる様になってきたので、リハビリも兼ねて自分の身の回り、手仕事等を再開する。

同時にアオとの意思疎通、コミュニケーション作戦を実施する。これは一人でダラダラと寝ていた時に考えた事なのだが、蜂の巣取りの時の失敗を踏まえ、せめてアオとだけでも会話が出来る様にしておきたいと言う事、内訳は物の名称、俺の行動全てをアオに話掛けるといった完全一方通行、全て彼女頼みなのだが……俺の固まりかけた

脳より彼女の方が吸収が早い……そう判断したのであり、決して俺が面倒だからではない。実際小さい子供の吸収力は半端ない、日常よく使う単語会話はあっというまに

マスターしてしまった。徐々に、少しずつではあるが凸凹コンビでの活動も再開していく。片言だが会話も生まれ意思疎通も良い感じになってきた。

 

 そんな二人の様子を観ていたばあさんから声が掛かる、久々の調達任務だろうか。

「頼みたい事がある……たいまつに使う材料が寂しくなってきてのう二人で取って

 きて貰いたいのじゃが」

たいまつ……ここ地下生活では必須アイテムである。木の棒の先端に溝が彫ってありその溝に粘土状の着火剤を塗り込んで使用する。もちろんこの着火剤も手作り。

木屑と油を混ぜ合わせた物ではないかと勝手に思っていたが、正確にはわからない。

着火剤が塗ってあればわずかな火種で安定した火力(灯り)が得られる。

「大丈夫だ !! 歩く距離を増やしたいと思っていたから丁度いい」

「ウム、じゃがくれぐれも……わかっておるな !? 」

「わかっているよ、俺だって出かけるたびに死にかけたくはないよ」

「呵々……確かにの、それで今回頼みたいのは椿の種と松葉を取ってきて貰いたい」

「松葉は知ってるが、柿の種って……? 」

「椿の種な、ほれこれじゃ」

そう言いながら見せてくれた物は、ピンポン玉サイズの茶色い物体だった。

「これが椿の種……初めて見たよ」

「ここまで大きくなるのは稀だから残して置いたのじゃが、この中の種を蒸したり

 擂り潰したりして椿油を作る。そしてその絞りかすをたいまつに使う」

流石、ばあさん無駄がない。

「木がある場所はアオが知っておる、枯れた松葉と松ぼっくりも頼むぞ」

「了解だ」

「ああそれとな、青い松葉も少し取ってきておくれ、これを煎じて飲むと肌の具合が

 しっとりつやつやになるのじゃ…… 」

「………… 行ってきます……行こうか、アオ」

「ウン」


 目指すは中庭、今回は無事任務を達成して二人とも元気に戻ってこよう。

目印の光るキノコを経由してひたすら歩き続ける、体調も問題なさそうだ。

「アオ、疲れてない? 」

「ウン、MASSAは? 」

二人の会話、コミュニケーションも順調である。因みに正確な名前は真貴(マサタカ)なのだがどうも発音し難いらしく、マッサ、マッサと呼ばれている。

やがて前方の明るさがどんどん増してくる、久々に太陽の光を全身に浴びる。

「やっぱり外の空気は違うよなぁ……って、あそこの崩れ方半端ないな」

ここに来るたびに何処かが新しく崩れている、いずれは全て埋まってしまうのかもしれない。

「MASSA……アッチ」

アオが進行方向を指さしながら声を掛けてくれる。今回の目標は椿の種と松ぼっくりだったな。かなり歩くのだろうか……崖崩れには注意しないと。

「MASSA……コレ……ニク ♡ 」

「????? 」

道中、アオが指さしたのは一本の木だった……これが肉 ?

「????? 」

俺が理解出来ていない事を察したアオはその木に近づき、ピョンピョン跳びはねながら彼女の身長よりはるかに上を指さしてくれる。指さす先を見てみると大きな爪痕が

あり、木の表皮がむしり取られてある……大型獣、熊だろうか?

「熊 ? 」

両手を挙げてガオーとやってみるとコクリと頷く、熊かよ…… 以前聞いていた大型動物用のトラップの存在を思い出す。アオはトラップの位置把握しているのかしら。


「MASSA……アレ」

「お~~着いたか……でどれ? 」

樹木診断士の資格は持っていないので、正直全て一緒に見える。花が咲いていたら

わかったのかもしれないが、目の前に広がっているのは藪、緑の葉っぱがついた只の

木である。あっ、松はわかりますよ、特徴あるから……

「ん ?」

小首を傾げてアオを見ていると、彼女はその藪の中に潜り込みしばらくガサゴソしていたがやがて小さい手に茶色いピンポン玉を持って戻って来た。

「お~~とれたな !! 」

「ウフフ」

只の藪だと思っていたところにこんなお宝が転がっていたとは……早速お宝の回収を始める。地面に落ちている物をアオが、まだ木に着いている物は俺が担当する。

木に着いている状態だとまだ青い実もあるのだが、今回は枯れた茶色、ばあさん色を

選んで回収していく。アオは小さい体を活かしてあちこちに潜り込み、二人合せると

大収穫となった。アオが何時ぞやゲットしたコンビニ袋に入りきれないくらいだ。

「これくらいでいいんじゃないか? 」

「ウン」

少し離れた所にこれまた立派な松の木が数本あった。そこで茶色く枯れ落ちた松葉と

松ぼっくりを拾う。それとばあさんご所望の青い松葉も少々頂く。つやつや……


「戻ったぞ、ばあさん」

「おう、おかえり、首尾は……良さそうじゃの」

早速、本日の戦果を見せびらかせるアオをイイコイイコしながら出迎えてくれた。

「どうじゃ、体の具合は? 」

「ああ、問題ない……と思う」

「それは何よりじゃ、とにかくここは体が資本じゃからの」

「他に何かやる事あるかい?」

「ウム、それじゃ一休みしたらこの椿の実から種を取り出しておいてもらえるかの」

「椿油作るのかい? 」

「ここから一手間、二手間じゃよ……種を取り出したらしばらく乾燥せんと…… 」


 過酷な洞窟生活だが、食料探しは多岐にわたる。数は少ないが洞窟内を流れる川にも生物は存在している。小さなサンショウウオや、エビ、カニの類、それらを求めて

魚が入り込んでくることもある。エビ、カニなどは全体的に白っぽい感じがするが、

茹でると赤くなり大好物になってしまった。見た目はグロイがサンショウウオも焼いて食べるとなかなか美味である。と言っても、今の判断基準は食べられるかどうかで

あり旨い、不味いは二の次になってしまっている。

 さて今日の獲物はエビ狙い……名付けて、かんちゃ棒による追い込み漁。

説明しよう……まず、かんちゃ棒とは竹竿の先端に金属を括り付けた物で、それで

水底の岩などを叩くとエビ達にとってイヤな音がする(らしい?)そうして獲物を

可能な限り細かく編み込んだ網に追い込む漁法だ。だがここでも網の目の粗さ問題が顔を出してくる。漁に使える大きさとなると流石にあのばあさんでも大変だろう。

かんちゃ棒は俺、網はアオが担当する事になった。

「アオ、ココ」

川の本流から逸れた流れの緩いポイントを見つけ、アオが網を構える。

「MASSA…… アッチ」

少し離れた所を指さす、あそこから追い込めという事だろう。

「おう、まかせろ !! 」

指示されたポイントに移動して竹竿を構える、追い込み漁開始だ !!

「 ♫ かんちゃかんちゃ ♪ かんちゃかんちゃ ♩ 」

珍妙な節で唄いながら水底をかき回していく……水底の岩に竿先がカンカン当たっているのが手に伝わってくる。

「ウフフ…… 」

少し離れた所にいるアオの笑い声を聞きながら、エビを追い込んでいく。

満遍なく、隙間を作らず、リズムよく……

「 ♫ かんちゃかんちゃ ♪ かんちゃかんちゃ ♩ 」

「ウフフ……」

「よし !! 網を持ち上げよう !! 」

「ウン」

網の縁まで追い込みをかけて、扇状に広げて設置してある網を二人がかりで持ち上げる。

「ウオ~~~ ♡ 」

「ああぁ…… 逃げてる、逃げてる…… 」

やはりここで予想通りの展開となる。網の目が粗すぎてニゲルニゲル……

網ですくい上げたというよりエビが自分でしがみついてくれている様な感じだ。

「早く捕まえなくっちゃ !! 逃げる……逃げてる !! 」

「オ~~~ ウフフ ♡ 」

マズマズの戦果にご機嫌なアオをせかしながらエビを確保していく、半分くらい

逃げられた……とはいえ、何ヶ所か追い込みを掛けるとそれなりの量を確保する事が

出来た、十分だ。

「これくらいでいいかな……そろそろ帰ろうか」

「ウン、ムフゥ~~~ 」

大漁に満足しているのだろう、小鼻を膨らませて仁王立ちするアオさんでした。

「網戸ほしいな~網戸」

「アミド ? 」

「網戸っていうのはな…… 」

などと取り留めのない話をしながら帰途につく。実はカニ籠を作りたいと思っているのだ。カニ籠なら設置しておいて定期的に引き上げるだけでいい……

しかし自作となるとどうしても網がネックになってしまう。小エビも逃がさない目の細かさが欲しい……嗚呼マジで網戸落ちてこないかな……

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