第8話慢心

 天下物の捜索に出発した凸凹コンビ、休憩をはさみながら目的地へと向かう。

ばあさんの助言で、最近は俺が先頭を歩くことが多くなった。道を覚えることと、

自分の判断でペース配分を作る為の訓練だ。なんとなくだが俺はばあさんの事を

死んだじいちゃんに重ねている節がある。体力(STR)等は年相応なのだが人間としての芯の太さというか、生命力(VIT)が格段に高い。知識(INT)も豊富で俺よりも確実に上位ランクに位置している。昔の人は苦労してきたとか、経験至上主義などの言葉には軽い拒否反応を起こしてしまう世代なのだが、ここに来てからは

いろいろ考えさせられてしまう。

 ふと、宇宙人グレイが頭に浮かぶ。文明が進歩して頭だけがどんどん肥大し、使わなくなった手足が退化してどんどん細く小さくなっていく。あれは宇宙人ではなく未来人グレイとはタイムリープで過去にやってきた未来人……来たか!? これ!?

いや少し待て、それでは持論である人間の技術は宇宙由来説を否定する事になってしまう…… ん? そもそも…… 嗚呼、妄想が止まらなくなってきた。

そもそも人間の体の構造は重力のある地球向きではない説、を聞いたことがある。

逆に重力ナシでも問題あるとも聞くが……持論まとめますと、人間は宇宙からやってきて、グレイは未来の人間の進化した姿、(退化?)である……もうキリがないので

妄想タイム終了。気が付けば目的地付近に到着していた。

「ついたぞ、アオ」

後ろに振り返りながら声をかける。

「あれ? アオ? 」

返事がない……というか本人がいない……

「なんだ、かくれんぼか? 早く天下物探さないと帰りが遅くなっちゃうぞ」

アオからの返事は無く、辺りには静寂と暗闇だけが広がっている。

「アオ ? 」

動いているのは自分だけ、他の全てが停止している世界に独り佇んでいる。頭が真っ白になる……何が起こった?…… 大声で何度声をかけてもこだまとなってむなしく返ってくるばかりだった。真面目な彼女がいきなりふざけるとは思えない……誰かに

攫われた?って誰に……熊とか獣に襲われた?いやそんな物音はしなかった……

まさか天然の落とし穴に…………

「クソッ !! 」

今来た道を引き返すことにした。違和感はあった、兆候はあった、休憩していた時の彼女はどこかぽ~っとしていて、いつもよりも汗をかいているのも気が付いていた。

それでもリーダーに頼りっきりで、萌え萌えご都合主義のおっさんはあえてその事に

触れないで来てしまった。

「クソッ !! クソッ !! 」

もう悪態しか出てこない。

「三十過ぎたおっさんがどんだけ甘えてんだ、どんだけ依存してんだ、クソッ!!」

唯々、平和ボケで危機感ゼロ、脳内お花畑な自分に腹が立つ。


 とりあえず、最後に休憩した場所まで戻ってみよう。

「アオ~、どこだぁ~、アオ~ 」

大声で叫びながら周囲に耳を澄ませる……しかし返って来るのはこだまばかりだ……

突然、聞き慣れない音が耳に飛び込んでくる……どう表現したものだろうか、ピキッ

いやミシッの方が近いだろうか……限りなく無音なのに圧力が物凄い。平凡に生きてきた自分にも押し寄せてくるイヤな予感…… 五感を総動員して状況把握に努める。 

微かにホコリっぽい、花火の様な匂いがする。とにかく今は自分で判断してどうするのか決めねばならない。


ザァ~~~~   カラカラカラ…………


突然、上から小石混じりの砂が落ちてきた……ココニイテハイケナイ……そう考えるよりも先に体が反応して全力で走り出していた。背中で地響きと轟音が響きわたる、

崩落だ……。後ろを振り返る余裕も無く必死で走り続ける、岩に蹴躓きよろけながら

どうにか大きな岩陰に潜り込む事が出来た。岩陰に潜み呼吸を整えているとまたイヤな考えが頭の中を巡り出す……俺の大声が崩落のきっかけなのだろうか、アオの事を

巻き込んではいないだろうか……誰もいなかったと思うが確証もない。小規模な崩落で収まってくれたのでなんとか生き残る事が出来た。とは言え、最悪な事態は継続中

……物事はあらゆる事態、当然最悪の事態も想定しておく、備えよ常に……

ふと、そんな言葉が頭をよぎる、まあ正しい考え方なのだろうが今の状況では、

……不幸は数珠つなぎでやって来る…… だな。

今はとにかく僅かでもいいから希望、安心がほしい。あまり大声は出さない様にして気持ち小声で呼びかけながら捜索を再開する。先ほどの大騒ぎとは打って変わって、辺りは静寂、無音の世界に戻っている。

 動いているのは自分だけ……物理的にも精神的にも完全ボッチだ。自己判断では

ボッチ属性などと考えていたがとんでもない。属性云々などというものは比較対象が

あってこそ成り立つ代物であって、完全ボッチになってしまうとまったくの無意味。

言葉も不要、何をしてもしなくても自由……いや、そもそも完全ボッチに自由とか 束縛とかの言葉は当てはまらなくなる。気楽と言えば気楽なのだが、同時にいままで人類が築き上げてきた文明は手放さねばならなくなる、所詮人間は独りでは生きられないと言うことか……  

「マズイな、マイナスループし始めた…… 」

完全ボッチ論を掘り進めるのを中止する。今の精神状態ではとことん墜ちてしまう。

大体、妄想していてアオとはぐれてしまったのだ、今は合流する事だけを考えよう。

気が付けば最後に休憩した場所に着いてしまっていた。

「どうしたもんだ、これ…… 」

このまま一人でアオを探すか、一度家に戻って応援を求めるか……いつまでも迷って

いる時間はない。一番気になっているのが、先程の崩落に巻き込まれていないだろうかということだ、最早ふざけているとは考えられない。二人で最後に休憩したこの 場所周辺を探してみたが何処にもいなかった、崩落のあった場所まで戻ってみよう。

この場所から二人で出発したのは間違いない、何か痕跡が残っているかもしれない。

「集中だ……集中しろ俺 !! 」

自分に言い聞かせるように呟き続ける。大声は……出さないことにした、これ以上の

崩落は状況が悪くなるばかりだ。

 僅かな灯りを頼りに捜索を続ける、足跡や落とし物でも見つかればなどと考えていたのだが、そうそう都合良くはいかない。大小の岩がゴロゴロしていてアオが潜めそうな所は無数にある。

「これは一人じゃ厳しいか…… 」

助けを呼んで多人数で捜索したほうが正解かもしれない、無駄に時間ばかり浪費している。そんな事を考えながら腰に手を当てて軽くのびをする。足跡を探すため、腰を曲げ前屈みの姿勢で居つづけたため首から腰にかけて突っ張ってしまっている。上を向いて体全体を伸ばすような姿勢を取る。

……スンスン……スンスン……

この場には相応しくない匂い、いや香りに気付く。俺はこの香りを知っている……

思い出した……この微かに甘みを感じる香りは椿油の香りだ……と同時に出発前に

アオとギンが椿油でお肌の手入れをしている光景がありありと浮かんでくる。最も

その椿油は勝手に持ち出した物で、後でばあさんに見つかり説教されていたが……

近くにいるのかも知れない……

「アオ ? 」

小声で声をかけてみる。

「………………」

返事はない。

「アオ !? 」

少し声量を上げて呼びかける。

「………………」

やはり反応なし……嗚呼焦れったい、大声で呼びかけたい所だが崩落は勘弁だ。

どうしたら……思わず天を仰いでしまう俺。

「ん ? 」

そこになんと!! アオが持っていた竹水筒が岩に引っ掛かっているではないか!!

そこは頑丈そうな大きな岩場の上部でこの危険エリアでは比較的安全地帯と言える。

水筒がある場所まで登ってみると……いた……アオを発見した!! 足跡ばかり気にして下を向いていたので素通りしてしまったのだろう。

「……って雪国の落とし物かよ !! 」

よほど混乱していたのだろう、訳のわからないツッコミが出てしまったが、ピクリともしないアオを見て我に返る。

「アオ、どうした? 大丈夫か? 」

大きな怪我はしていなそうだが明らかに顔色が悪い。

「熱ッ !! 」

額に手をあててみて思わず叫んでしまう。高熱にうなされ声も出せないアオを呆然と

見つめる……どうしたらいいのかわからない……一体どうしたら……

薬? なんて持っていない、救急車……来るわけがない……

「落ち着け、俺 !! 」

深呼吸しながら考えをまとめにかかる、ここには俺しかいない、他の誰にも頼れない

俺が決断して行動しないと……

「最善手は……最善手は…… 」

治癒魔法も回復ポーションも持っていない俺は唯々オロオロするばかりだった。

 家につれて帰ろう、それしか出来る事がなかった。

「アオ、家に帰ろう」

熱にうなされ呼吸もままならないアオをオンブして歩き出す。軽い……十歳にもならない女の子だ。

「俺はこんな娘に頼り切っていたのか…… 」

改めて自分自身に腹が立つ、そして己の無力さ加減に打ちのめされる。涙がぽろぽろ溢れ出てくる……悔しいのか、悲しいのか、様々な感情が入り交じって唯々、涙が

溢れ出てくるばかりだった。

「一緒に家に帰ろうな」

すでに意識朦朧、背中でくったりしているアオに話かけながら帰途につく。

「もう少しだからな、頑張れよ」

最早、自分に言い聞かせているもかも知れない独り言を呟きながら歩き続けた。

家の灯りが見えてくる……


 

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