第6話ギン
鹿解体メンバーは我々凸凹コンビにギン、それと現地に二人残っているそうだ。
ギンは年は若いがもう一人前として扱われていて、チームのリーダーを努めている。
長い手足を華麗に使ってかなりのハイペースで進んでいく、俺はもちろんだがアオにとっても速いペースの様だ。アオが今まで俺にペースをあわせてくれていたのだと
再認識する……優しいリーダーである。とは言え、置いてけぼりにする訳でもなく
ついて行けない速さでもない。どうやら厳しく育てるタイプらしい。
しばらく歩くと少し開けた場所に出た。暗くて確認は出来ないが水の流れる音が聞こえる……音の感じからして滝でもあるのだろう。ここで小休憩となった。怪我も治り体力もついてきたという自負はあったのだが甘かった、というよりも基礎体力ではなく、コツがあるのだろう。実際アオにもおいて行かれるのだから。
「○×△□※…………」
「○×△□※…………」
アオとギンが何か話込んでいるのだがやはりちんぷんかんぷん、所在無くなったので
辺りを捜索してみるとすぐ傍に川があった。川の流れを眺めながら休憩とするか。
川の上流を見ると、三メートルはあろうかという見事な滝がある。昔、ライトアップ
された鍾乳洞に行ったことを思い出す。
「MASSA……」
アオが声を掛けてくる、加えて彼女のジェスチャートーク……お前、ここ、寝る……
要約すると俺はここらへんで発見されたらしい。
「そういえば地下水脈で流れ着いたとか言われたっけ……」
あの滝とか落ちてきたのか……よく生きてたものだ……。自分や川を指さしながら ジェスチャートークを続ける……俺寝る、川をドンブラコ、滝でア~レ~…… 特に
ア~レ~のゼスチャーがツボに入ったらしくケラケラ笑っている。
傍にいたギンを見るとそんなアオの様子に少し驚いている。確かにここでの会話はまさに業務連絡、小声で話し無駄話ましてや冗談を言い合う様な状況はお目に掛かった事がない。安全面、危険回避などを考えると大声とかドタバタは控えた方がいいのかもしれない。ふと、ギンの腰元に目がとまる、実はギンは男の娘だった…………
などというとんでも展開ではなく、ギンの腰に俺が長に献上したペットボトルがぶら下がっているのに気がついたのだ。
あれは初めて長に会ったとき、俺の処遇会議の直前の事だ。自分のリュックに入っていた七徳ナイフと空ペットボトルを長に献上しておいたのだ。賄賂、袖の下、否!会議を円滑に進めるための重要アイテムである。実際それらの献上品を長から見せられた時、皆の中での俺の評価が確実に二段階UPした。
ツルで編み込まれたであろうペットボトルホルダーは自作だろうか。ざっくり網目状に編んでありなかなかの出来だ。
「あの……それ……」
ペットボトルホルダーを指さしながらギンに声を掛けてみる。……それいい感じだね
似合ってるよ……どう表現したらいいのか解らず後が続かない。ギンはちょっとバツ
が悪そうに何処かに行ってしまった。後から聞いた話なのだがギンは天下物に興味
津々との事、残念……仲良くなれそうだったのに……
そんな事を考えながら俺が流されて来たという川をボンヤリと眺めていた。
今は水量も少なく人間が流されてくるイメージにはたどり着かないが一旦大雨などで
増水するとこの辺り一面が…………
「ん?」
滝の上部が薄ボンヤリと眺めていた。光っている。光る苔かなにかだろうか?いや、
もっと人工的な反射テープの様な…………
「ん~~~~~~?」
目を細めて見てもよくわからない。
「アオ! アオ!」
何事かと近づいてきたアオと並んで怪しく光る物体を見つめる。
「ん~~~~~~?」 ×2
アオもよくわからなかったらしく
「ギン! ギン!」
ギンを呼んでいる。何事かと近づいてきたギンと三人仲良く並んで目を細める。
「ん~~~~~~?」 ×3
マズイ……次がいない……そんなアホな事を考えていると、ギンが滝に向かって動き出していた。軽快な足取りで滝に近づき様子を窺っていたが、すぐにピョンピョンと跳びはねるように戻って来てアオと何やら話し込んでいる。
「MASSA……」
アオが俺の服を引っ張り歩き出した、どうやら回収するつもりらしい。二人から大幅に遅れて滝の下に到着して滝の上部にライトを照らしてみる。箱?、アタッシュケース型の工具箱の様な、カメラマンが持っているハードケースにも見える。怪しく光っていた正体は箱に貼られていたステッカーの文字だった。比較的新しい物でこの箱の持ち主の安否が気になるところだが、我々にとっては天下物、宝箱発見である。
中には一体どんなお宝が……いや、あまり過度な期待はやめておく。中身は
三人並んで腕を組みながら滝上にある箱を眺めている。ジャンプして届く高さではなく、滝上に登る足場も無くてさすがのギンでも厳しいだろう。
ギンが俺の方をチラチラと見ている……大丈夫!!わかっていますって!!これは俗にいう肩車イベントですね!? まあギンの方からはいいにくいだろうし、ここは
俺がリードさせて頂きましょう。手頃な石で岩肌に絵を描き出す……ギンは上、俺下
……身振り手振りで説明する俺、なぜかいつもより熱がこもっている。
ギンはコクリと頷き、俺の手を引き箱の真下にしゃがませた……遂に美少女ラノベの
お約束と言ってもいい肩車イベントが始まる!!
ドン!! ミシッ!?
ギンが俺の右肩に足を乗せてきた。あれぇ~? ギンさんちょっと違うよ~?
肩車っていうのはね~
ミシッ!!
「ハウッゥ !!」
右足に続き躊躇すること無く左足も俺の左肩に乗せてきた。想定外の体勢といきなりの全体重に体が軋む、さすがに重い。それにこれは肩車とは…………
「○× !! (立て!!) 」
そう言われた気がしてギンを肩立ち?させたまま立ち上がろうとする。
「フン! ヌヌヌヌヌ…… ダァァァ…… 」
アカン、足がプルプルするだけで全く持ち上げられる気がしない。
「アオ! ○×△□ 」
ギンがアオに何か声を掛けると、アオが駆け寄ってきて俺のベルトを掴み揚げてくれる、これは大きい。
「ンンンン…… ガァァァ~ 」
なんとか持ち上がったが足はガクガクブルブル……生まれたてのバンビ状態。年頃の
女性に対して失礼かもしれないが重い物は重い。ギンは何か引っ掛かってでもいるのか手間取っている。
「ギンさん? ギンさ~ん!? お早く~!!」
後ろで俺を支えてくれているアオは、俺の泣きそうな声とプルプル震える足を見て
クスクス笑っている。
「○× !! (座れ!!) 」
上から声を掛けられ、その場にヘナヘナと座り込んでしまう。そんな俺からヒラリと飛び跳ねたギンは、満面ノ笑みと宝箱を手にしていた。
宝箱、なんと素敵な響きなのだろう、まさか人生の中で宝箱を手にする日が来ようとは。まあ、実際の所は所有者不明の工具箱なんだけど……
その宝箱(ここでは宝箱で通す)は、アタッシュケース型でかなり頑丈な作りをしている。しっかりとした留め具が付いていて破損も無く、お陰でプカプカ漂いながら滝上まで流れ付いたのだろう。ギンがしばらく宝箱をいじっていたが開け方がわからないのだろう……
「ン!! 」
と、宝箱を差し出してくる。俺は二カ所のロックを外すと二人の顔を見回した。
二人のワクワクドキドキがこちらにまで伝わってくる。特にギンの食付きガスゴイ。
「ピロリロン ♪♩ ………… OPEN !!」
某ゲームの効果音を口ずさみながら箱を開ける。三人の視線が箱の中に集中する。
「オォ~~~~~ !! 」 ×3
三人の声が辺りに響き渡る。当然と言えば当然なのだが、金貨や宝石の類、ましてや
魔導書などの特殊アイテムなどは入っている訳もなく、全てこの世に存在する物だ。
まず手についたのがサバイバルナイフ、刃渡り二十センチはあろうかという本格派。
手の込んだ装飾がされている革製の鞘、かなりの高級品と観た。
「お!! これは良いぞ!! 」
刃の背部がギザギザになっていて、ノコギリとしても使えるタイプだ。数日間のキャンプならともかく生活を営むとなると、ノコギリ、ヤスリは必要不可欠となる。
竹や木の目に逆らって切ることがどれほど大変な事か……
「しかしこのサイズはおまわりさんに………… オゥ !? 」
ギンが目を輝かせながら早くよこせとツンツン突いて来る。ナイフを渡してやると
手慣れた手つきで刃の状態や握り具合をチェックしている。
次はロープ。ロープと言ってもガチ登山で使われるザイルと呼ばれる本気モードの
シロモノ、細い糸が綿密に編み込んであり見た目も綺麗だ。
「ホェ ~~~ ♡ 」
今度はアオが喰い付いてきた。いつも二人で作っているツルロープとは次元が違う。
カラフルな色合いのザイルは可愛らしいとも言える。しかし、アオが手にした物は
ザイルではなかった…… アオの琴線に触れた物とはザイルが入れてあった袋、そう
白いコンビニ袋だった。
「そっちか~~~ 」
うん、確かに今のアオの行動パターンからすると、なかなか魅力的なアイテムかも
知れない。ガサ張らずいろいろな物が入れられる。その気になれば水運搬も可能だ。
袋に空気で膨らますようにバサバサと振り回して遊んでいる。これからは袋を被って遊ばないように見張りを強化しないと……
最後が防水マッチとローソクが一箱。
「何故にローソク? 」
箱、ナイフ、ザイル(とコンビニ袋)どれも購入を躊躇ってしまいそうな高級品。
それでいて何故、光源にローソクを選択するのか?全く理解が及ばず、腕組みして
考え込んでしまう。その隣でナイフを眺めニヤニヤしているギン、少し離れた所で
コンビニ袋をバサバサ振り回しているアオ……異様な光景になってしまった。
「アッ…… 」
突然我に返ったギンが声をあげ、アオに話掛ける。
「○×△□※…… 」
コンビニ袋と戯れていたアオも我に返った様だ。そう、鹿の解体任務があったのを
すっかり忘れて呆けてしまっていた。我々は少し長めの休憩を終えて出発した。
かなり長めの休憩を取ってしまった三人組はさらにペースを上げて先に進む。
宝箱はばあさん謹製、竹編み背負い籠に収まっている。
「○×△□※…… 」
先頭を行くギンの声が聞こえてくる。顔を上げるとはるか前方にボンヤリと灯りが見える、あそこが現場なのだろう。
「到着 ~~~」
背負い籠を降ろしその場に座り込んでしまう、これからが本番なのだが……
「○×△□※…… 」
「○×△□※…… 」
ギンと現場に残っていた二人が話し込んでいる、遅くなった言い訳でもしているの
だろうか。呼吸を整えながら現状の把握を始める。まず目に飛び込んで来たのが、
崩れたてホヤホヤの土砂崩れ跡。そしてその横にその土砂と一緒に落ちてきたと思われる解体途中の鹿が横たわっていた。我々がなかなか来ないので解体を始めていたの
だろう。上を見てみるとぽっかり穴が開いている、穴の先は真っ暗で何も見えない。
ギンが近づいてきて宝箱を指さした、箱を開けてやるとナイフを取り出しニヤリと
笑うギン……そしてくるりと踵を返すと鹿の解体を始めた。とにかく新しいナイフを
試したくてたまらないのだろう、さっさと一人で解体を済ませてしまい俺とアオは只
後ろで観ているだけになってしまった。ギンは後ろで文句を言っているアオの事など
意にも介せずナイフの手入れを始めている。相当気に入ったらしい……このナイフを我が物にするには……などと企んでいそうな悪い顔をしている。
ギンと同組の二人はしばらくの間話し込んでいたが、やがてその二人は解体した 肉の一部を担いで何処かに消えてしまった。何処かに貯蔵庫でも在るのだろうか。
再び三人となった我々は残った肉や皮をまとめて帰る準備を始める。はじめての鹿の解体を楽しみにしていたアオは未だご機嫌ナナメのご様子でほっぺを膨らませてブツブツ言っている。人間の表情とはスゴイ物だと思う、言葉はわからなくても何を考えているのが手に取るようにわかる。まあこの娘の表情が多彩なだけかも知れないが。
ギンはギンで、そんなアオをからかう様にカラカラ笑っている。こちらもまたわかりやすい。よし!ここはダメ部下を演じて頼れるリーダーに戻ってもらうとしよう。
「アオ~~~ちょっと重いかも~~~」
「MASSA…… メッ !! 」
しくじった…………
各自荷作りも終わり帰途につく。背負った鹿の肉と宝箱の重みがどんどん肩に くい込んでくるが悪い気分ではない、達成感の方が勝っていたのだが……
家に到着する頃にはいつものヘロヘロボロゾーキンになっておりましたとさ。
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