第2話異世界?

「○×△□※……」

「○×△□※……」


 少し離れた所から人の話し声が聞こえてくる。

確か崩落に巻き込まれて……俺は助かったのか?

意識はあるが体は動かせない。なにしろ動こうとすると体中に激痛がはしる。

恐る恐る目を開いてみた。

先ず目に飛び込んできたのは、蛍光グリーンにほのかに輝く壁だった。

部屋全体が薄暗くてよく分からない。どうやら簡易ベッドに寝かされていたらしい。

人間の手が入っている場所ではあるが、自分が知る所の病院ではないのは確実。

例えるならダンジョン内の隠し部屋……

「異世界か !?」

「異世界転生キタか !?」

唯一稼働している脳をフル回転(暴走)させラノベ作家らしい結論に達する。

この展開は異世界転生モノの基本パターンである。体中の痛みも魔法の力で……

誰か近づいて来る、慌てて目を瞑り寝たふりをする。誰かが直ぐ傍まで近づいてきて

覗き込む様に様子を窺っているのが感じられる。

ここで目を開けるべきかどうか躊躇してしまう。傍に立っている者が何者なのか、助けてくれた理由もわからない。好意なのか悪意からなのか、そもそも人間かどうかさえわからないのだ。観られている、観察されている、眼圧が刺さってくる。

不意にわき腹あたりを撫でられた。

「フェッ !?」

驚きのあまり奇声とともに目を開けてしまう。

「可愛いぃぃぃぃ ♡」

他の言葉が見つからない。目の前に立っていたのは、透き通る白い肌、トルコ石の様に碧く輝く大きな瞳が白金色の髪と相まってなんとも可愛らしすぎる。

年の頃は幼稚園の年長さん位だろうか……異世界確定である。

その美少女はいきなり声を出されて驚いたのだろう、どうしていいのかわからずオロオロしている。その仕草もまたなんとも可愛らしい。


ムギュ  ♡


あまりの可愛さに本能の赴くままギュッっと抱きしめてしまう。誤解のないように宣言しておくが、自分はそういった趣味は持ち合わせていない。子犬や子猫を愛でる。

そういう感じである。念の為……

「イギャァァ※○×△□※……!!」

文字で表現出来ない悲鳴をあげながらバタバタと暴れ出す美少女。

ンモゥ ♡ ツンデレかぁ? ツンデレ属性なのかにゃ~?

「ウギィャャ※○×△□※……!!」

またもや文字で表現出来ない悲鳴が辺り一面に響きわたる。その声の主は俺だった。

暴れる美少女を抑えようとしていたら全身に激痛がはしったのである。

あまりもの痛さに再び気を失ってしまった……


 どれくらい気を失っていたのだろう。目がさめて先ず目に飛び込んできたのはやはりあの毒々しく光輝く壁だった。どうやら本当に異世界転生してしまったらしい。

「おう、やっと気がついたかい」

ん?かわいい顔に似合わず随分と太くしわがれた声だ。まるでおばあさんの様な……

近づいてきたのは……本当にばあさんでした……

それはもうイメージ通りの、紫色のスープ(おいしい)を作ってくれそうなばあさんが目の前に立っていた。

「中々目を覚まさんから、死んだかと思ったわ」

人間、顔ではないと言うけれどもやはり顔は重要だと思う。あの娘ではないとわかった瞬間、体中の痛みが倍増している。

「寝たままで構わん、話せるかい」

露骨にガッカリしている俺にはお構いなしにどんどん話しかけてくる。

「ア、ウン、エート……」

「口はきけそうじゃな、なにがあったか覚えているかい」

「ン、確か山を歩いていたら落とし穴、イヤ崩落に巻き込まれた……のか?」

「ウム、よく生きてたものじゃ、久々の天下人じゃ」

「先にいいかな、体が痛すぎて…… 回復魔法かけてほしいのだが……」

「回復魔法?なんじゃそれは?」

どうやらこの世界は魔法が存在しないのかもしれない。

「回復ポーションでもいい」

「ねーよ、そんなもん」

あれ?回復ポーションもないのか。

「ウーム、頭に外傷は見受けられんかったが……これは相当やられとるかの」

イヤ今どうにか稼働しているのは頭だけなのですが……回復魔法もポーションも

存在していない異世界って厳しくないか?コツコツレベル上げて特殊スキル獲得

パターンだろうか。

「聞いてもいいかな?」

「なんじゃ」

「ここは何処なんだ?」

「日本じゃな」

「ン?日本なの?」

「少なくともワシが知る限り日本じゃな、外国にのみ込まれていなければの」

「??? ああ日本という名の異世界なのか!パラレルワールドだったっけ?      

 それともタイムリープ……」

「お前さん、本当に大丈夫かい?」

魔法使いのばあさんに本気で心配されてしまった。

「聞いてもいいかな?」

「なんじゃ」

「ここは日本の何処なんだ?」

「お前さんがいた山の地下じゃな、坑道掘りすぎたせいで山がモロクなっておる」

「ばあさん鉱山の事知っているのか?」

「知ってるも何もワシは鉱山宿舎で働いておったからのう、山に山菜を採りに行って

 ここに落ちてきた」

先輩でした……

「ちょっと待ってくれ、鉱山はとっくの昔に閉山になってるぞ?」

「ああ、ワシはそのとっくの昔に落ちたのだよ、ohモウレツ美人と呼ばれとった

 頃にの」

そういう時代小ネタ要らないから……

「そういえば、東京オリンピックはどうだった?楽しみにしておったのじゃが」

「ああコロナ……流行病で大変だったよ」

「それは残念じゃったな、あれはどうした?ほれ夢の超特急 !!」

リニア新幹線の事だろうか?

「あれはもう少しかかりそうだ」

「そうか、いろいろ大変なんじゃな」

この後、しばらく時代を超越した何故か話が噛み合う問答が続いたのだがキリがないのでこれにて終了。

 状況を整理しよう。

俺は山の崩落に巻き込まれて地下へ、そこで地下水脈に流されながら更に地下深くに

落ちてきたらしい。リュックに入れておいた空ペットボトルのおかげなのか、なんにせよよく生きていたものだ。つまりここは異世界でもなんでもなく、現代の日本、 じいちゃん家の裏山地下深くと言うことになる。魔法使いのばあさんは昭和三十年代に落ちてきたとのこと。おっさんと魔法使いばあさん、異世界ではなくしただけだった。全身打撲の体を治す治癒魔法やポーションが存在しないのも、まぁ納得である。

 ん? ちょっと待て……あの美少女は一体 ?

激痛に耐えきれなくなった俺のラノベ脳が現実逃避の為に作り出した幻影だったのだろうか。否、この手で抱きしめた感触はリアルに残っている。俺は激痛に耐えながら

体を起こし辺りを見回してみる、いた、確かに存在していた。

「オォォォ~ イタァァ~~~~タタタタ」

その娘はばあさんの後ろに隠れ顔半分だけ出してこちらを見ていた。怯えるような

怒っているような表情だったがそれもまたなんとも可愛らしい。

「ばあさん、その娘は一体 ?」

「ウム、アオの事か?アオは地底人じゃな」

名前はアオというのか。碧い瞳が印象に残るいい名前だ…… ん?

ばあさん今なんか変なこと言わなかったか?

「地底人?」

「ウム、アオはここで生まれ育った一族の者での、ワシやお前さんの様な地上から    

 落ちてきた者はと呼ばれておる」


森下真貴、じいちゃん家の裏山地下深くで天下人になりました。

  

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