異世界?の天下人
まさりん
第1話はじまり
〃 告 〃
ここはゲームの世界でも夢の国でもありません死にます
○×役場
「スゴイ看板だな」
少し離れた場所にもうひとつ看板がある
〃 注意 〃
森のクマさんとはお友達になれませんあなたはエサです
○×狩猟会
このギリギリまで攻めた文言に思わずニヤリとしてしまった。必死さはヒシヒシと伝わってくる。ここは限界集落といわれる場所より更に奥、人が住まなくなって数年たった山奥である。この辺りは昔、鉱山として栄えていたそうな。
いろいろな種類の鉱石が取れたそうで昭和の中ごろまではフル操業していたらしい。
徹底的に掘り尽くしたらしく危険すぎて人が人間が入れれなくなり閉山。
辺り一帯が立ち入り禁止になった今もあちこちで崩落しているという話だ。
そんな人々から忘れかけられた場所であったが、現代の一部若者に脚光を浴びる事となった。
〈坑道〉 〈鉱石〉 〈野生動物〉
このワードでピンときた人、やりすぎには注意しましょう。少し変換しますと
〈ダンジョン〉 〈お宝〉 〈モンスター〉
いかがでしょうか、あの音楽が聞こえてきたのでは?
イメージそのままとネットで拡がり、たくさんの人が記念写真を撮りに殺到したとか。〈復活の呪文〉や〈特殊スキル〉を持ち合わせていない現代の冒険者達は
やはりというか案の定というか、ケガ人、遭難者続出、行方不明者もいるらしい。
挙げ句の果てに山火事を出した時点で地元がキレた。山の入口にフェンスがはられ
冒頭の看板が出現した次第である。
「まぁそうなるか」
「よいしょっと」
フェンスを少しずらして山に立ち入る。
お前はいいのか?と言われそうだがすでに役場でなかなか物騒な申請書にサイン済。
実はこの先に先祖代々の家があり数年前までじいさんが一人で住んでいた。
そのじいさんが亡くなり定期的に様子を見に来ている。なにしろ限界集落のさらに先
ライフラインが寸断されているので買い手などある訳もなく放置プレイ状態である。
野生動物達が我が物顔でうろつき人間を見付けても逃げも隠れしない。
自己紹介がおくれました。
私、森下真貴と申します。おっさんと呼ばれる年齢、独身、職業自由業。あえて言うのであれば売れないラノベ作家(週末コンビニバイト)。
学生時代になんとなく書いたラノベ小説がプチヒット!!これはいけると就職活動も
せずに作家宣言!!出版業界ではよく聞く話だそうだが二作目以降はもうグダグダで
最初は応援してくれていた友達や家族も今ではあきれ気味……
それでも諦めきれずで気がついたら巷で言うところの子供部屋おじさんになってました……
こんな状況なので
「じいちゃん家の様子見てきて」
「よろこんで!!」
そんな訳で今、ここにいます……
「こんなもんかな」
家の雨戸を開けホコリと湿り気が入り混じった室内の空気を外に追い出す。
まさかこんな所にと言うような場所にまで雑草が生い茂っている。
庭一面に黒い防草シートが敷き詰めてあるのだが、そのスキマからも雑草が……
すざまじき生命力である。
ここには小さい頃、よく遊びにきていた。
じいちゃんが大好きで、この場所も大好きだった。
魚釣りに昆虫採集、キノコに山菜採り、全てはっきりと覚えている訳ではないが
自然との向き合い方はここで学んだと思う。
あの時迄は……
小学校低学年ぐらいの頃だっただろうか、じいちゃんが庭で飼っていたニワトリを
絞めている姿を見てしまったのだ。
可愛い孫にご馳走をとゆう優しさからなのだが。子供の自分には到底理解出来る光景ではなかった。
「じいちゃんが……じいちゃんが……」
涙が止まらなかった。ひたすら泣き続けた。
じいちゃんは只、さみしそうに笑っているだけだった。
それ以来ここには来ることはなくなった。
今でも時々さみしそうに笑うじいちゃんの顔を思い出す事がある。
もうどうにもならない事なのだけれども……
辺りを見回すと見事な夕焼け空が広がっていた。山の日暮れは早い、直ぐに真っ暗になってしまうだろう。
「メシにするか」
自由業のヒマ……いや作家としての取材のため二泊分の食料、寝袋等キャンプ用品は
持参してきている。お湯を沸かしながら明日の行動予定を検討する。
「どうしたもんかな?」
ラノベと言えば異世界モノ、現代の迷宮に入ってみようか。
いやいや、ミイラ取りになったらシャレにならんし、今の自分の立ち位置からすると
自殺扱いされかねない。
お湯をカプ麺に注ぎながら菓子パンにかぶりつく。カプ麺はどこで食べてもウマイ!
「キャンプ物とかサバイバル物とかどうよ?」
ウームどこかで見たような聞いたような感じがする。投稿サイトの容赦ないコメントが頭の中を駆け巡る。まだ一行も書いていないのだが……
「美少女が山奥で自給自足ってのは……」
ウン今日はもう寝よう、ここには気分転換に来たのだから。
「あれ? 動画配信企画としてはありかも…………zzz」
朝がきたようだ……全く眠れなかった。
昨日は相当疲れていたし、キャンプ経験もありどこでも寝られる自信はあったのだが
天井裏を走り回るネズミ?家の外をうろつく大型生物?(確認はしていない)あの鼻息を聞いてしまったらもう寝られなくなってしまった。
もうここは人間の土地ではないと再確認させられる。ふいに昔じいちゃんが言っていた言葉を思い出す。
「人間、一人でやれる事はたかが知れてる」
「道具を使わない人間は最弱だ」
至言です、じいちゃん。
本日の予定だが付近を散策する事にした。現代のダンジョンも気にはかかるのだが
安全第一で行動しようと思っている。ビタミン剤を忘れてしまったので食べられる山菜、葉物でも探してみようか。スマホの図鑑アプリで調べれば……無理だった。
「まあそうだよな……どうしたもんかね」
正直食べられる草はヨモギくらいしか知らない。
「オオバコも食えたっけかな?」
ソロ行動ではあまりリスクは取りたくない。
取りあえず昔行ったことのある滝を目指すことにした。
キツイ……キツスギル!!
ろくに運動もしていないおじさんには未整備の山道はキツすぎた。
さらに寝不足も加わって自分の体力低下に驚くばかり。
ヒザが笑うの初めて見た……
「あっ !? でえェェェ……」
唐突な話で恐縮なのだが、犬の糞を踏んだことのある人ってどれ位いるのだろうか。
足裏から伝わる想定外の感触に脳は軽いパニックを起こし、軽い目眩さえ覚えるあの瞬間。今まさにそんな感じ……足に地面の感触が伝わってこない。
どうやら自然に出来た落とし穴、いや崩落に巻き込まれてしまった。
「エ?エェェェェ?」
「アダダダダ……」
砂と岩で出来た天然滑り台、自然のアトラクションは命懸け。
「これヤバッッ!?死ッ!!ウアァァァァ……」
森下真貴、死の間際に考えた事は……犬の糞でした……
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