第47話 番外編 街道を照らす光③

1ヶ月後、集落と城下町はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。

最初に僕たちが考えていた灯籠120体は予定通りハルディンさんが1週間で仕上げてくれ、集落の人達で既に設置してあった。


ただ、マーリーンさんが宣言した通り、追加で国からハルディンさんに発注があり、山から切り出した石材が船でハルディンさんの裏庭にドーンと運ばれてきた。

それと一緒に王都の石工職人がひとりハルディンさんのもとにやってきた。なんでも国でも著名な職人さんだそうで、何度かハルディンさんと一緒に店に夕飯を食べに来てくれたのだが、あの寡黙なハルディンさんが別人のように上機嫌で接待をしていた。


ハルディンさんとは違って小柄なおじいちゃんといった感じの人だったが、二人が競うように石柱を作っている現場を見た人は凄い速さに近づけなかったらしい。


出来上がった石柱は城から臨時に配属されてきた兵士達がどんどん運んで並べていく。それが終わったのが昨日。

今日は朝から王都の城下町とこの集落の子供達が貝殻をに入れていく最後の作業を行っていて昼過ぎにやっと終わったところだ。


四角い石柱の上部をハルディンさん達が格子状にくり貫いて、中に貝を置けるようにしてくれたのだが、子供たちの小さな手が格子の中に貝を押し込むのにちょうど良かった。


子供たちも楽しみながらやってくれていて、自分達が参加したと思えば灯籠を大事にしてくれるだろう。

そんな訳で、今日は初めて全ての灯籠に明かりが灯る夜なのだ。


王都側の街道の入口には縁日のように店が出るらしく、街道は今夜は灯籠が光るところを見ようと人の往来が多くなりそうだ。今日は朝から王都と集落を荷馬車が行き来していて、昼間は手伝いの子供たちを、これからの時間は灯篭を見に来る人達を乗せる予定になっていた。


集落の入口でも王都から明かりを見ながらやって来るお客さんが休めるように、ベンチと軽食が用意されていた。


これには、僕もお祭りらしく焼きうどんの屋台で参加することになっていて昼間から材料の準備に追われていた。簡易式の屋台は集落のみんなが協力して組み立ててくれた。鉄板が置ける台があって僕はカネルと灰を入れた鍋を持って来るだけで良かった。


鍋に入れられて連れてこられた時、カネルは恐々こわごわと鍋のふちに手をかけて外を覗いていた。

「俺、外に出たの久しぶり。」

「大丈夫?」

「ちょっと、怖いかも。雨降ってこないよなぁ?」

「うん、きれいに晴れているから大丈夫だと思うよ。もしかして、雨に濡れるとまずい?」

「う~ん、よっぽどびしょ濡れになって灰が全部流されたらさすがに消滅するかも。」

そうなのか、水を間違って掛けないように気をつけよう。


本当は僕としてはやっぱり焼きそばの方がお祭りの定番なのだけど、いわゆる中華麺を作るための製麺機を持っていなかった。細めのパスタが売っているのでそれを作る製麺機が売っているとは思うのだけどまだ手に入れられていなかったのだ。


うどんは何度か作ってみて上手くできるようになったので、今回は焼うどんにすることにした。ソースはお好み焼き用に作ったソースを少しアレンジして使っている。


待ちきれない集落の子供たちが数人、焼きうどんをねだりにやって来る。

「少しだけ待っていて。」

そう言うと僕は急いで木の皮でできた使い捨ての皿に焼うどんを載せて渡してやると、子供たちはそれを持って王都へ行く馬車へと走っていった。なんでも今日のお手伝いで友達になった城下町の子供たちと約束しているらしい。小さい子供達はいいな、直ぐに仲良くなって。


すこしずつ日が陰ってきて薄暗くなってくる。

店から持ってきた貝殻ランタンを屋台の軒下に吊るす。カネルが俺がいるのだからそんなの要らないだろうと鉄板の下からブツブツ言う声が聞こえるが鉄板の下ではあまり明るさに関しては役には立たなさそうだし、まあこういうのは雰囲気だ。


(そろそろかな?)


屋台は街道の始まりにあるのでずっと先でカーブしているところまで良く道が見えた。


人がだんだんと集まって来て、みんな街道の方を覗き込んでいる。

空を見ると、徐々に空が薄暗くなってきて地平線の先に向かって赤紫のグラデーションが綺麗に見える。


僕はこの時間がとても好きだ。

空の綺麗さはどこでも変わらないけど、遮る建物がないこの世界は空の広さが全然違う。


ザワザワと声がしてもう一度街道の方へ目をやると人並みの向こうに灯籠の明かりが浮かび上がっているのが見えた。


どんどん回りが暗くなってくるのに反比例して、灯籠の上部に子供達が置いた光虫貝が明かりを帯びていく。それは、とても幻想的で美しかった。


僕も料理の手を止めて思わず見入る。集まっていた人達からはため息のような感嘆の声が漏れてきた。

自分が言い出した計画だったので無地に終わってホッとしていると、今度はザワザワと驚きの声が聞こえて来る。


「何だ?」

「え?光が大きくなる?」

人々の山から戸惑いの声が聞こえて来る。


「?」

どうしたんだろう?


屋台を離れて街道を覗いている皆の所へと近づいていくと灯籠の明かりが王都の方から徐々に明るくなってくるのが見えた。それは明らかに甲虫貝の明かりではなく、どんどんスピードを上げると近づいてきて、最後の灯籠の上でぼわっと膨れ上がった。


きゃーという悲鳴が上がり、皆が後退って来るのと同時に近くの木の上からバサバサとルーが飛び降りてきた。


「やあやあ、皆さん今晩は!」


いや、これでまた魔法使い達が怖がられるだろう。ルー。


皆の恐怖にひきつった顔を気にすることもなくルーは僕の方を見ると続けた。

「これは、誰かさんのクローディアへの熱い思いに対する魔法使い達からの祝福だよ!」


「なっ!」何を言い出すんだ!


僕が焦って発した声は恐らく誰にも気づかれなかったと思う。

何故なら、そのあと直ぐにお城の方角に大きな音と共に花火が上がったからだ。


今度は人々から歓声が沸き上がった。


ふと、シャツの裾をツンツンと引っ張られて横を見るといつの間にかクローディアが立っていた。


空をスッと指差す。

「私が作った。」


ほぼ同時に空にいっそう大きい金色の花火が撃ち上がった。クローディアの瞳のように綺麗な金色の花火は最後にしだれ柳のように空から降って来るところが、ちょっと日本の花火に似ていた。


隣のクローディアを見ると何だか心配そうに僕の顔を覗き混んでいた。花火の出来がどうだったのか聞きたいのだろう。

「気に入ったか?」


思わずニッコリと微笑むとクローディアがちょっと気まずそうに目を反らす。


これは...可愛すぎる!

「うん、可愛い。」

そう言って、思わず隣のクローディアをぎゅっと抱き締める。


ビックリした彼女がバタバタと腕の中で暴れるが、拒絶の言葉は無かった。

皆は花火に夢中でそんな二人には全く気付いていない。唯一カネルだけが「あの光なんだ?すげ~綺麗だけど?」とぶつぶつ言っていた。


僕はそのまま更に力を込めてクローディアを抱き締めた。


------------------------------------------------------------------------------------------------

 

 お読みいただきありがとうございます。ここで一度終了となりますが、ヒルダ叔母さんと主人公の母親について、なぜヒルダが旅立ったのかなどなどまだ分かっていないところを書けたらいいなと思っています。その際はまたよろしくお願い致します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕はまだ料理人ではないけれど、異世界でお食事処を開きます。 佐間瀬 友 @samaseyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ