第29話 大根らしきものの種を蒔く
「何をやっている?」
「ディア!」
僕が裏庭で土いじりをしているとクローディアがやってきた。
「これ。この間、街で買ってきたこの種を裏庭にまこうと思って。」
街に買い物に行った時に買った種を試しに蒔いてみようと思ったのだ。商品説明にあったイラストは大根に似ていたけど、もしかしたら大きなかぶかもしれない。
まあ、どちらでもこの辺りでは手に入らなかったので育ってくれたら嬉しいな。
それで、家の裏庭を一生懸命耕していたのだ。
大根なら小学生の時に授業の一環で、近所の農家の畑を借りて作ったことがある。学年ごとに違う作物を育てるのだけど、大根の時は凄くたくさん取れて、みんな5本~6本くらい持たされて帰った覚えがある...。
「ほら、エマの家から肥料も分けてもらったし。あとは種をまくだけ。上手くいくか分からないけど。」
「エマ?」
「うん、ほらお隣のエマ。農家だから色々詳しいし教えてもらったんだ。土を耕す道具も借してもらって。本当はお隣りみたいに鶏とか牛も飼いたいけどね。僕も留守にすることがあるから生き物は難しくて。野菜なら何とか育てられないかと思ったんだけど...。」
「ディア?どうしたの?お腹すいた?」
お腹がすいているのに僕だけべらべら話過ぎて、機嫌が悪くなったかな?
「いや、今はそんなにすいていない。」
「そお?これまいたら直ぐにご飯にするからもう少し待っていてくれる?」
「...。それは何の種だ?」
「う~ん、この世界の野菜だから自信はないけどたぶん大根とか蕪の
「それで、どんな料理ができるんだ?」
クローディアは僕の隣にちょこんとしゃがむと手元を覗き込んでくる。
「そうだねぇ。例えば、大根と鶏肉の煮物とか、みそ汁にしても美味しいし。生のままおろして食べたり千切りにしてサラダとか?」
ちなみに味噌は手作り味噌を現在作成中だ。
「にもの...。さらだ...。」
「まあ、食べられるのはだいぶ先だけどね。」
「...。早く育てば直ぐに食べられる。」
「まあ、そうだけど。」
いくらこの辺りの気候が暖かくてもそれは無理じゃないだろうか。
「できるぞ。育ったらすぐに作ってくれるか?」
クローディアが目を輝かせて聞いて来る。
「それはもちろん構わないけど...。」
クローディアは僕が種を蒔き終えた畝の前に立つと、袖から杖を取り出して地面をトントンと叩いた。
目の前の土からぶわっと可愛い緑色の芽がたくさん生える。
もう一度クローディアが呪文を唱えて杖を上げる。
「ちょ、ちょっと待ってディア!」
振り上げた杖を止めてクローディアが不思議そうに振り返る。
「それ、全部早く育てるつもり?」
僕がまいた種はいったい何粒あっただろう。
本当だったら芽が生えた時点で間引いていくのだろうが、このまま魔法で育てたら全部大きくなってしまうのではないだろうか?
「?そのつもりだが。」
「いや、さすがにそれは一度に料理できないから、え~と。」
僕は生えてきた芽を5本だけ抜いて、少し離れたところに植えなおした。
「この芽の分だけお願いするよ。」
「それだけでいいのか?」
「うん、うん。後のはまた今度お願いするから。」
大根、何十本もあっても腐らせてしまうだけだ。
「分かった。」
そう言ってクローディアはもう一度僕が避けた芽に向って呪文を唱えるとまたトントンと杖で地面を叩いた。
今度は芽が更に伸びて葉がバサッと大きく成長した。
引っこ抜いてみると地面の下にちょっと太くて短めの大根が育っていた。
「おー、凄い!」
これって種さえあればほとんどの野菜は栽培可能じゃないか!もしかして米もいけるかも?
というのも、この辺りで食べられている米はいわゆる長米種といってカレーなどには合うけど、和食とはあまり合わなかったから。
魔法ってすごい。いや、魔法使いがすごいのか?
「...。腹減った。」クローディアがボソっと呟く。
「大丈夫?」
扉を作る魔法を使った時にお腹がすきすぎてふらふらになっていたクローディアを思い出し心配になる。
クローディアはこくんと頷く。
「大丈夫だ。今回は精霊たちの力を借りた魔法だからそれほど自分の魔力は使っていない。」
「へ~、魔法によって色々なんだね。」
「でも、腹減った。」
「はいはい、じゃあ家に入ろう。ご飯作るから。」
そう言うと僕は大根を抱えて家に入った。さて、何を作ろうか。
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