第28話 街へ行く パスタ&スパイス編
乾物屋で鰹節を手に入れた僕は喜んで店のお婆さんにお礼を言うと他にもたくさんの品を購入して店を後にした。
「魔法使い様のお役に立てて良かったですよ。ぜひ、またいらっしゃってくださいな。」
そう言うとお婆さんはホクホク顔でおまけに魚の干物を付けてくれた。
支払いはクローディア任せで貨幣価値が分からないけど、きっと鰹節は高価なものだったに違いない。
その後も色々な店を回って食材を調達して回った。
パスタの専門店を見つけた時は思わず声が出た。
「う、わ~!」
麺類を家庭ではあまり食べないと聞いていたから。きっと、そんなに種類もないと思っていた。
でも、王都では違ったらしい。
その店は店先に色々な種類のショートパスタが山積みになり量り売りをしてくれるようになっていた。
いったい全部で何種類くらいあるんだろう。見たこともない形の物もたくさんある。
店の中に入ると他にも細めから太い平麺タイプまでロングパスタが壁一面にぎっしりと並べてあった。
もし、乾燥タイプのものが見つからなかったら自分で手打ちパスタを作ろうと思っていたけど、これだけ種類があればその必要はなさそうだ。
よし、手打ちで作るのはまずはうどんにしよう。手に入れた鰹節も使ってみたい。
やはりこの世界は西洋よりの食材の方が手に入りやすい。
パスタ料理に使うドライトマトや瓶詰のピクルスなども一緒に棚に並んでいる。
う~ん、イタリア料理を極めるのもありか?そうだ、イタリア料理ならピザだ。厨房に使っていないオーブンはあった。あれを使いこなせれば、ピザなら簡単に作れるじゃないか。となると、ハーブも欲しいけどハーブくらいなら育てられるかな自分で。種を売っている店はあるかな?
僕はウキウキしながらパスタの種類を選ぶと大量に購入した。この店もぜひまた来たいと思いながら。
クローディアは僕の買い出しに、文句ひとつ言わず付き合ってくれていた。もちろん、要所要所で買い食いはしっかりしながら。
「あとはスパイスの店だな?」
さっき屋台で買ったじゃがいもを潰してカリっと焼いたコロッケのようなものを頬張りながらクローディアが言った。
馬車の荷台はさっき買った何種類かの粉を積んで既に山盛りになっていた。
「スパイスの店はこの先だが、途中にルーの店がある。顔を出さないとうるさいからな。先に寄って行こう。」
馬車は城下町でも王都の壁に近い通りを走っていく。城下町の通りは石畳が敷かれていて、馬車も走りやすいようになっている。
ルー?青の魔法使いの?そういえば、王都の城下町で占いの店をやっていると言っていた。
クローディアが一軒の小綺麗な店の前に馬車を寄せて停めた。ファサードはブルーの綺麗なタイル張り、明るくてお洒落なカフェといった感じの趣だ。
占いの店なんて言うから、ちょっと暗くて怪しい感じを想像していたのに。
馬車を降りてクローディアの後について店を覗くと、中からルーの声が聞こえて来る。どうやらお客が来ているらしい。
「だから~、今はここの生活が気に入っているわけ!」
ルーが誰かに怒っているような声が聞こえる。
「それはもちろん分かっておりますが、わが国としてはぜひ青の魔法使い様のお力をお借りしたいと。わざわざこうして遠方より参ったのですから、お話だけでも一度聞いて頂けないかと!」
明らかに町の人達とは違う立派な恰好をした男が3人、ルーの前に跪いていた。
「もう、しつこいなぁ。100年後くらいならまた気が変わっているかもしれないから、その頃にまた来てみたら?」
「そんな!その頃には私共は生きてはおりません。お願い致します!魔法使い様より良いお返事が頂けなければ国へ帰ることができません。」
話の内容からして、他国からの使者と言ったところだろうか。立派な恰好の3人が子供の姿をしたルーに必死に頭を下げている。
「そおかな?じゃあ俺が帰してあげるよ。」
そういうとルーは手をひらりと振り上げる。手の中で小さな風が巻き起こり、それが少しずつ大きくなると跪いていた男達を巻き込んで持ち上げる。そしてそのまま空に飛ばしてしまった。
魔法使い様~、という声だけが遠くの空から聞こえてきた。
「あれ、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。きちんと送り返してあげたことだろう。」
クローディアが冷静に答える。
「あ、ディア~。来てくれたんだ!」
入口から覗いていた僕たちを見つけると、そう言ってルーがクローディアに抱きつく。
「あ、お前も来てくれたの?よかったら茶でも飲んでってよ!」
僕も歓迎してくれているルーに文句は言えず我慢する。
「さっきの人は、他国の人なんですか?」
お茶が入ったカップが空中を浮いて運ばれてくると座っている僕とクローディアの手の中に納まった。
「ああ、何だっけ?西の方のマルべリアとかいう国の使者だって言ってた。」
自分の分は普通に手で運んで来るとルーも椅子に腰かける。
「何か頼みごとがあって来たんじゃないんですか?」
「うん、俺に自国の王族を助けて欲しいって。」
「王族?」
「うん、よく来るんだよねぇ、うるさいのが。ほら、マーリーンは今この国の王を虐めて楽しんでいるし、ディアはぜったい国に所属したりしないし、後の二人はどこに居るんだか分からないしで俺が一番頼みやすいわけ。店も構えて居場所も分かっているからね。」
なんか聞き捨てならないワードが出て来たけど、まあ聞かなかったことにしよう。
「魔法使いってそうやって普通は王族を助けたりするんですか?」
「まあね、俺たちが味方に付けば色んな意味でその国は繁栄すること間違いなしだから。例えば、自然の驚異から人を守ったり、後継ぎが産まれない王族に子宝を授けたり。一番多いのは隣の国を攻め落としたいってやつだけどね。まあ、その国が気に入ればね。それだけの見返りは貰うし、何やっても良いんだけどさ。」
そう言ってルーはニヤニヤ笑った。
「ディアはそういうのやらないんだ?」
「興味ない。」クローディアがそっけなく答える。
「あ~、もうディアのそういう無欲なところが好きなんだよなぁ。」
ルーが今にもディアにまた抱き着きそうな勢いで身を乗り出したので慌てて話をそらす。
「魔法を使える人ってあなた達魔法使い以外本当にいないんですか?」
「いや、いるよ。例えばこの城下町にも占いの店は何個かあるし、魔法で薬を調合して売っているやつとかもいるね。」
そうなのか。
「でも、俺たちから見たら子供の遊びみたいなもんだけどね。ちょっとだけ魔力があるただの人間だし。」
どうやら、魔法使い達とは全然違うらしい。
「薬の調合っていえば、マーリーンがさあ、この前から城の自分の仕事部屋に籠って出てこないんだよね。そうかと思えば何日間か何処に行ったのか帰ってこない時もあるし。」
「また、何か新しい薬を作っているんじゃないのか?」
マーリーンは凝り性だから、色々研究するのが大好きなんだとクローディアが僕に説明をしてくれる。
「まあ、そうかもしれないけど...。この前ちらっと覗いてみたら、真っ黒い液体を何本も瓶詰めにしてブツブツいってたんだよなぁ。なんか鬼気迫る感じで怖かったから声かけないで帰ってきた。」
瓶詰め?そうだそれで思い出した。
「あの、空き瓶ってどこかで売っていますか?」荷馬車にまだ乗るだろうか。
「瓶?」ルーが不思議そうな顔をする。
「はい。」
瓶があれば保存食をまとめて作ることができる。ケチャップとかジャムとか。
集落にはガラス工房はなかった。
結局、ルーが案内してくれて瓶をいくつか無事手に入れることができ、その後に三人でスパイスの店まで行った。今までとは違って、クローディアとルーも真剣に商品を見ている。
「?二人もスパイスを買うの?」
料理に使うのだろうか?
「ああ、この店は料理用のスパイスだけじゃなくて薬を調合するのに必要な薬草も扱っているんだ。」
そうルーが教えてくれる。
「そうなんですね。魔法使いってみんな薬の調合をするんですか?」
クローディアもこの前三日三晩眠らないで薬を煎じていたと話していた。
「ああ、得意不得意はあるけど俺たちの大事な収入源だからな。ちなみに、俺の得意なのは惚れ薬!」
ルーがニヤニヤ顔で得意げに言う。
そんな物が本当にあるのか?そんな気持ちが思わず顔に出てしまったらしい。
「あ、疑っているな!占いに来る客にすげー人気があるんだぜ。」
「でも、本当にそんな薬をみんな使うんですか?」
人の気持ちを捻じ曲げるなんてちょっとどうかと思うけど。
「まあね。」からかう様にルーが言う。
「安心しろ。薬はあくまでも薬だ。効き目が切れたらそれまでだ。呪いとは違う。」
クローディアがボソっと教えてくれる。それは良かったけど、呪いはずっとなのか?
「キヒヒヒ...。まあ、惚れ薬は持っても1日くらいだ。欲しかったら分けてやるよ。」
ルーが僕の肩に手を回すと耳元に囁いた。
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