僕はまだ料理人ではないけれど、異世界でお食事処を開きます。

第7話 叔母さんは超レアケース

その後、どんどんお客さんがやって来て叔母さんは忙しそうに動き出した。

どうやら、厨房には料理人がいて叔母さんは注文を受けたり料理を運んだりするのが役目のようだった。

あれ？そういえば、どうして僕は他の人達の会話が聞き取れているんだろう？

日本語ではないと思うけど？今更ながらに気がつく。

「ねえ、クローディア。この国の言葉って...。」

「お前が勇者の剣の持ち主だから、言葉も通じる。」

クローディアがまるで僕の心を読んだように答える。

「へ～。剣を持っているだけで言葉が分かるなんて便利だね。」

「持っているだけではダメだ、剣に持ち主として認められたからだ。」

「認められた？」

「まあ、お前はこちらの世界の人間の血をひいているから、適正があったのだろう...。」

ふ～ん、適正。僕も色々難しい説明されても分からないし、まあいいか。

「クローディアはやっぱり魔女で長生きしているから物知りなの？」

「まあ、そうだろうな。普通の人間よりはだいぶ生きているからな。」

「へ～、すごいね。」

「...。たいていの人間は怖がるけどな。」

「怖がる？クローディアを？」

まあ、一般的に魔女には怖そうなイメージはあるけど。少なくともクローディアかなりの美少女だし、まあ愛想はないけど別に恐くはない。

「ああ、だからお前の叔母さんもこのテーブルには誰も来ないと言っていただろ？」

ああ、そういう意味だったのか。明らかに見知らぬ顔の僕が居るからかと思っていた。

「でも、叔母さんはクローディアと仲がいいんだよね？」

「仲が良い？」

「うん、普通に話していたし、母さんがこちらの世界に居ないか確認してくれたみたいだし。」

「...いや。ただの古い知り合いだ。」

ふ～ん、仲が良いのとは違うのか。

まあ、もともと叔母さんがこっちの生まれなら以前から知っていたとしても不思議ではないのか。

だいたい、なんで母さんと叔母さんはこの世界から現代の世界に来たのだろう。

「それより、良いのか？説明して欲しいんだろ？」

僕が考え込んでいるとクローディアの方から話を振ってきてくれた。

「え～と、何から聞いたら良いのか分からないんだけど。」

「まず、お前の叔母さんはお前の世界にはもう戻れない。」

「ええっ？！何で！」

一発目から衝撃的な事を言われても思わずテーブルに身を乗り出した。

てっきりこれで叔父さんも元気になると思っていたのに！

大声を出してしまい、気まずくなって回りを見渡す。

こちらを伺っていた他のテーブルの人達が一斉に目を反らした。

後で、聞いたところによると、

大丈夫か、あの子供。魔女に殺されるんじゃないか？

と言う話がなされていたらしい。

「まず、向こうの世界に戻っても体がない。」

クローディアは回りの気まずさも僕の驚きも綺麗にスルーして、淡々と説明を続けた。

仕方なく席に座り直して、大人しく聞くことにする。

「恐らくこちらの世界に飛ばされたのは霊的な部分、つまり魂だけだ。その証拠に、お前のいた世界で体は焼却したとさっき言っていた。」

確かに、お葬式は上げたけど叔父さんがお墓に納骨したくないとごねるから、まだ家の仏壇の前に骨壺もある。

「じゃあなんでこっちの世界では体があるの？」

「それは分からない。前例がないからな。だいたい、こちらの世界からあちらの世界に渡って、更に精神だけはね飛ばされて帰ってきた人間など聞いたこともないし、今後もあるとは思えん！」

まあ、確かに。なんというか、超レアケースというわけだ。

「なので、向こうの世界に戻ったとたんに消滅する可能性しかないな。」

「消滅…。」

それは、困る。

それにしても、クローディアも説明しようとすればできるじゃないか。やっぱり、さっきの話の通じなさはわざとか？！

う～ん、せっかく叔父さんが喜ぶと思ったのに。

「あ、じゃあせめて叔父さんをこっちに呼んで、叔母さんに会わせることはできるんじゃない？」

「ああ、できるな。」

そうか、良かった！取り敢えず、叔母さんが生きている事が分かれば叔父さんも元気になるはず。

じゃあ、叔父さんをこっちに連れてきて、叔母さんに会わせて、生きている？ことを信じてもらって...。

「お前、料理が得意なのか？」

今後のことを真剣に考えていた僕は、聞き違えたかと思った。

「えっ？」

「さっき料理が出来ると言っていた。」

やっぱり、聞き違いじゃなかったらしい。

なぜ、今その質問？