第6話 芋とシチュー

「っ!クローディア!!」叔母が焦ったような顔で隣のクローディアを見た。


「どういうこと?」

叔母さんがこの世界の人間?


「身内なんだろう?何故隠す?」


クローディアが平然とした態度で叔母をチロリと横目で見ると、また残りの芋にかぶりついた。


「......。」

叔母さんは顔を歪めると、チッと舌打ちをした。


いやいや、舌打ちはちょっとどうなんだ?

なんか、死ぬ前より柄が悪くなったよ、叔母さん。


「身内だからだ...。」

叔母さんがボソッと呟く。


叔母さんがこの世界の人間?

と言うことは...。つまり...。


「僕の母さんも?この世界の人間?」


叔母さんと死んだ母は年の離れた姉妹だったけど、母の生前の写真と今の叔母の顔立ちはかなり似ていて、紛れもなく血が繋がっているはずだ。


叔母さんは僕の言葉に無言で頷いた。


僕はそれであっさりと納得してしまった。

というのは、叔母と母の二人は日本人にしては少し目鼻立ちがくっきりしていて、よくハーフなのかと聞かれていた。

ハーフではないが、何世代か前に日本人以外の血が混ざっているとか、お祖父さんのお祖父さんが北欧の生まれだったとか、そんなことを言っていが、あれはじゃあ適当にごまかすためだったのか。


あれ?僕の頭の中で何かがカチッと音を立てた。

叔母さんが生まれ故郷のこの異世界に戻って生きていた?とすると。

もしかして...。


期待を込めて叫ぶ。

「叔母さん!もしかして、母さんも?!」


でも叔母さんはぶつぶつとだから言いたくなかったんだと呟いたあと、バッサリと言った。

「それはない!」


眉間にシワがよっているのは、恐らく僕の気持ちが痛いほど分かったからだろう。


「期待させて悪いが、私も最初それを考えた。それで、こっちに来た時に魔法使いに調べてもらったんだ。でも、姉さんの存在はこの世界にはなかった。私は事故の衝撃で何かしらの作用が働いたんじゃないかと言うことだった。姉さんは病気だったし、普通に向こうの世界で亡くなったんだろう。」


叔母さんは一気に話すとすまなさそうに僕を見た。


「そっか。そうだよね。そんな上手い話があるわけないよね。でも、叔母さんが生きていて本当に良かったよ。叔父さんの落ち込みが半端なくて。」


「ああ~。」

恐らく叔父さんの落ち込み様に想像がついたのか頭を抱える。


「一応、仕事には行っているんだけど、それ以外は幽霊みたいなんだよね。」


「何となく想像はつく。で、お前はちゃんとご飯を食べているのか?」


「うん、大丈夫。最近、僕、前よりももっと料理にはまっていてかなり上手くなったんだよ。」


「へ~。それは良かった。私は今ここの宿で世話になっていてね。」


ああ、食堂だけじゃなくて宿もやっていたのか。だから、最初に泊まりか聞いていたんだ。

僕は改めて回りを見渡す。ここからは見えなかったけど、カウンターの奥が厨房になっているらしく、誰かが働いている音が聞こえる。


「そろそろ、仕事を終えた客が来る頃だから用意しないとね。」

そう言うと叔母さんはよいっしょと立ち上がる。


「それで、叔母さんはいつ帰ってくるの?」

生きていたなら、叔父さんの精神状態の為にもぜひ早く家に帰ってきて欲しい。


「...。」

だが、その質問に対して叔母さんは無言だった。その代わりクローディアに話し掛ける。


「クローディア、私はもう仕事に戻らなくちゃならないから、説明してやってくれないか?」


こくんとクローディアは頷くと、シチューの皿を叔母さんに差し出した。

お代わりか...。

いったいどんだけ食べるんだ。


僕も自分用に出された食事を少し食べてみる。

まあ、何というかあっさりしたビーフシチューといった感じで普通に美味しい。


芋には何も味がついていなかったのでバターがあるもっと美味しいのに。


「まあ、美味しいでしょ?」

クローディアのお代わりを運んできた叔母さんが微妙な表情で聞いてくる。


頷いた僕に叔母さんが続ける。


「食材は悪くないんだけど、とにかく料理のバリエーションが全く無いんだよねぇ...この国は。」


叔母さんのぼやきは、ドカドカと音を立てて食堂に入ってきた男たちの話し声にかき消された。


入口から入ってきた男たちは、僕たちを見ると一斉にギョッとした顔をしたが、叔母さんに僕たちとは離れた席を勧められて大人しくそちらに座ると、酒を頼んで自分達の仕事の話に夢中になっていった。


「こっちには誰も近付かないだろうから。仕事が落ち着いたら、また来るから。待っていてくれ。」

叔母さんはいったん僕たちのテーブルまで戻ってくると声を掛けてくれた。


「うん、分かった。」

仕事の邪魔をしてもいけないと思い大人しく頷いた。

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