第86話 御曹司、屋上に呼び出される

 

金曜日


いつも通り学校に行くと、特別棟にある下駄箱で先に到着していた美鈴ちゃん達が集まっていた。


「どうしたの?」


「あ、光彦君、美鈴ちゃんの下駄箱見てよ。それに智恵さんと美里ちゃんのも」


涼華がそういうので、彼女達の下駄箱を見ると溢れんばかりの手紙が詰め込まれていた。


「わあ、すごいね。もしかしてラブレターとか?」


「光彦くん、どうしましょう?」


美鈴ちゃんは困った顔をして聞いてきた。


「取り敢えず邪魔だから地学準備室に運んでおこうか」


そう言った手前、手伝わなくてはならないので段ボール箱2〜3個はありそうな量の手紙を抱えて何往復かするハメになった。


「全く、この学校はどうなってるのですか?手紙を下駄箱に入れるなんて相手に失礼だと思わないのですか!」


そう怒っているのは三条智恵さんだ。

大事な手紙ならお付きの人に渡すか、直接手渡すのが当たり前だと思っている。


確かの朱雀学園ならそうだったろう。

だが、ここは普通の学校だ。

その当たり前は通用しない。


「一方的に送りつけてくる迷惑メールと同じです。全てゴミ箱行きですね」


楓さんと同じような発想をする霧峰美里さん。

確かの全部目を通すのは大変そうだ。


「ねえ、お昼休みにでも相談しよう。そろそろホームルーム始まりそうだし」


涼華の提案にみんな賛成する。

そして、教室に行くとセリカ先輩が話しかけてきた。


「おはよう、桜宮さん達は大変そうね」

「下北沢先輩、おはようございます」


美鈴ちゃんは綺麗なおじぎをして挨拶した。

俺達もそれぞれ挨拶をする。


「それにしても、何で急に手紙をくれるようになったのかしら。私達が転校してきて見にくることはあっても接点を持とうとしたのはこれが初めてです」


智恵さんがそう話すとセリカ先輩が、


「あら、知らなかったの?君達3人は転校当初からそれぞれファンクラブができたのよ。これまで、眺めるだけで牽制しあっていたのだけど、ある男子がそれは健全ではない、とか言い出して一部の男子生徒がそれに賛同して接触を試みることになったようなの」


ファンクラブって……


「下北沢先輩、詳しいのですね?」


「三条さん達は知らないと思うけど学内の情報をやり取りする掲示板があるのよ。そこに書かれてたわ」


「えっ、そうなんですか?」


そういえば熊坂さんもそんな事を言ってた気がする。

あれ、熊坂さん、まだ来てないのか、昨日も休みだったみたいだし風邪でも引いたのかな?

それに、駒場先輩も来てない。


「今はどこの学校もあるみたいよ。中には会員限定の秘密の掲示板もあるらしいから」


まるで秘密結社のようだ。

でも、そんなのがあるのなら知らないところで何を言われているかわかったもんじゃない。

それに、情報を交換するだけにとどまらず、イジメの温床になってしまうだろう。


「おはよ〜〜う」


そこに、熊坂さんが息を切らして入ってきた。


「あれ、みんなどうしたの?」


集まっていたので気になったようだ。

説明をしようとしたが始まりのチャイムがなってしまった。


続きはお昼休みになりそうだ。





お昼休み、今日休みの駒場先輩を除いて特進クラスの面々がお弁当を持って地学準備室に集まった。

 

色とりどりのお弁当がテーブルに並ぶ中、菓子パンを取り出したのはセリカ先輩だ。


「あら、みんな美味しそうね。それにここ地学準備室だっけ、初めて入ったわ」


セリカ先輩は、もの珍しそうに部屋を見渡している。


「下北沢先輩っちは、ミッチーとデートしたんですよねー、その時の話を聞かせてもらってもいいっすか?」


美幸がそんな事を言うもんだから、みんなが身を乗り出して話を聞きたくてウズウズしてる。


俺は、何を言われるか気がきじゃないのでジュースを買いに部屋を出たのだった。


「ふう〜〜、女子ばっかりだと落ち着かないよ」


誰かに贅沢言うな!と、怒られそうだが実際、この環境に身をおけば理解できると思う。まあ、喜ぶ男子も中にはいるだろうけど……


渡り廊下を歩いて食堂にある自動販売機を目指す。

すると、スーツ姿の若い女性がウロウロしていた。


「あっ、君!職員室ってどこ?」


突然、声をかけられた。


「ここからだと反対方向ですね。良かったら案内しましょうか?」


「え、良いの?助かるわ」


迷っていたスーツ姿の女性を職員室に案内してる時、その女性は自分のスマホと俺の顔を交互に見始めた。そして、


「もしかして、ミッチー?」


は?何で知ってんの?


「え〜〜と、何かの間違いじゃ……」


「やはりそうだ!名簿を確認した時、もしかしてって思ってたの。あっ……ごめんなさい。少し興奮しちゃったわ」


周りの生徒の視線を感じ取ったらしい。


「あの〜〜失礼ですが、あなたは……?」


「そうね、初めに話すべきよね。私は神崎美冬、ベゼ・ランジュに勤めている城戸夏波の親友です」


ああ、それで……


「そうだ!もしかして夏波さんに変な事を吹き込んだ人ですか?」


「変な事って?」


「だから、妾とかわけわかんない事ですよ。夏波さんに誤解されて会社で服を脱ぎ始めるし大変だったんですからね?誤解が解けても泣き出したりして落ち着くまで随分かかったんですよ」


「あ、そう言えばそんなこと言ったかも……ごめんなさい。その節はご迷惑をおかけしました」


そう言って神崎さんは綺麗なお辞儀をした。

やはり、この人があの時夏波さんに余計な事を吹き込んだ人だ。


「それと、『呟いたー』で炎上した時、夏波を助けてくれてありがとう。あの時夏波はすごく焦ってたわ。私がすぐに駆けつければよかったんだけど、私も新入社員だからうまく時間が取れなくて行けなかったのよ」


「それは俺が悪かったので別に構いません、でも、何でこの姿でわかったんですか?」


「それは、夏波にメイクを教えたのよ。前の状態がわからないとメイクできないじゃない?だから、ミッチーの前の姿を見せてもらったの、ほら」


そう言って自分のスマホを俺に見せる。

そこには、水瀬スタイルの俺の写真が写っていた。


「ああ、これメイク室で撮った写真だ。それ」


「納得してくれた?この事は誰にも言わないから安心してね」


「助かります。それで、今日は何しにこの学校に?」


「そうだったわ。『特進クラス』の研修旅行の件で鹿内先生とお話があるの。私が今回担当する旅行会社の添乗員よ。よろしくね、ミツヒコ君」


そう言い終わると同時に職員室が見えてきた。

俺は、ここで神崎さんと別れたのだった。


偶然すぎだろ!これ……





学校の屋上に上がったのはこれが始めてだ。

結構、風が強いようで目の前でヒラヒラと布切れがはためいている。


そんな目の前には、腕組みしてこちらを睨む女子とその両脇には彼女の取り巻きのような女子がいた。


何故、こうなったのかは簡単だ。

神崎さんを職員室に案内した帰り、この女子達が俺の前に立ち塞がり「話があるからついて来て!」と、半ば強制的にこの屋上に連れてこられたのだ。


「それで話とは何でしょうか?」


すると、真ん中にいる髪の毛をドリル巻きにしようとして失敗したような萎れた巻き髪をしてる女子が威嚇するように話しかけた。


「あなた、桜宮さんと知り合いのようね」


要件とは美鈴ちゃん達のことらしい。


「同じ特進クラスですから」


相手の出方がわからないので従兄弟だとは言わないでおいた。


「桜宮さんに話があるんだけど、段取りしてくれないかしら」


そんなの直接本人に言えばいいのに……


「内容によります。話の内容が相応しくないようなら桜宮さんにご迷惑をお掛けしますので」


そう言うと、隣にいた女子が「あなた、生意気ね」とか「陰キャのくせに同じクラスだからって偉そうに」とか言ってる。


うん、この感じ、なんかいい。

特に陰キャって言った女子はポイントが高い。


「確かにあなたの言う通りだわ。お手紙を書いて渡そうとしたら今日に限って下駄箱いっぱいに手紙が入ってるじゃない?だから、まずこれを桜宮さんに渡してほしいのよ」


彼女の手には、綺麗な封筒に封をした手紙を持っていた。


「渡すだけなら問題ないですが、内容をお聞きしても?」


「私の父が経営する会社の30周年パーティーが今週の日曜日にあるの、その招待状よ」


そう言うことか……それにこのパターンは朱雀学園を思い出す。

手紙を直接渡さず、お付きの者に渡す習慣をこの子は心得ているみたいだ。


「そう言うことでしたらお預かりします。ですが、桜宮さんの予定もありますので必ず出席できるかは今、確約できませんよ」


「構わないわ。でも、その前にお返事だけはもらえるのよね?」


「ええ、それはお約束します」


「できれば放課後までに返事が欲しいのだけど、私は2年3組の小宮弥生よ」


「わかりました」


そう言ってその3人は、こちらを見ている。

さっきから風に煽られて目の前の3人の女子からピンクとか黒とか青とかの布地がチラチラと見えている。


「それとこれもお願い」


もう一枚手紙があるようだ。


「桜宮さんに渡してほしい。こちらは貴城院光彦様の分よ」


俺のかいっ!


そうツッコミを入れそうになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る