第77話 御曹司、怒る
放課後、俺は1人である場所に向かっている。
みんなには用事が出来たからと言って帰ってもらった。
相変わらずさした傘には、冷たい雨が降り注いでいる。
傘に当たる煩わしい雨音は、俺の心のように騒がしい。
電車に乗り3つ先の駅に行く。
ここの繁華街の一角にあるビルの地下に目的の店がある。
ルナからの情報は既に把握している。
その店は、地元では有名なヤンキー達が集まる店だ。
ビルの前にある外階段を降りると、一見さんには入りずらい雰囲気の扉があった。
俺は、傘を畳んでその扉を開いた。
紫煙が立ち込める部屋に薄暗い照明が照らしているのは馬鹿騒ぎしてる連中だ。それに、趣味の悪い音楽が大音量で流れている。
「何の用だ?ここはガキの来るとこじゃねえぞ」
スキンヘッドの人が俺を見て話しかける。
奇妙な刺青を顔の半分にまで刻んでいるその容姿は吐き気を催すほど気持ち悪い。
この人はおそらくこの店の店長なんだろう。
カウンター内でコップを布巾で磨いている。
本人は格好良いと思ってるんだろうな……
そんな感想を抱いた。
「そこで騒いでるゴミに用事があるんだが?」
「はあ!?お前、何言ってんのかわかってるのか?やめとけ、さっさと帰んな!」
顔に似合わず、優しいとこもあるようだ。
いや、店をメチャクチャにされたくないだけだろうな……
俺は店員の忠告を無視して、その連中のテーブルまで歩み寄る。
「何だあ、てめえは?」
「こいつ、何、邪魔なんだけどお〜〜」
主にようがあるのは、俺を邪魔だと言ったこの女だ。
「少し話がしたいんだけどさ、いいかな?」
「話だと、わはははは、笑わせてくれるぜ」
「ガキが何言ってんだか、わははは」
そう言って、グラスに入ったウイスキーを飲み干したヤンキ1号。
こんな時間から酒を飲んじゃダメでしょ!
しかも、未成年っぽいし……
「東西麻理さんだよね?」
「そうだけど、なんであたしの名前知ってんだ?それに気安く私の名前を呼ぶな!」
「おい、お前、俺のマリに何か用か、はあん?」
口を挟んできたのは、東西麻理の彼氏 南北隼人。
この2人は池上先輩の幼馴染でもあり、イジメの主犯でもある。
ルナの調べによると東西麻理と池上先輩の家は直ぐ近くにある。
幼稚園から中学まで同じ学校に通っていた。
小学低学年までは仲が良かった2人だが、池上先輩の体質のせいでいつも一緒に遊んでた麻里は、周りの友人に揶揄われ距離をおく。
中学時代、転校して来た南北隼人と出会う。
彼の無法行為に男の強さを感じて中学2年の時に付き合うようになる。
それだけなら良かったのだが、南北隼人は、東西麻理の幼馴染という存在である池上先輩の事を目の敵にする。
それに乗じて東西麻理も同じように池上先輩をイジメ出した。
どこにでもありそうな話だが、やられた本人は苦痛でしかない。
それも好きだった女の子なら尚更だ。
「あなたは南北隼人ですよね?」
「はあ、それがどうしたって?うるせーな、こいつ」
「池上直道さんのことは知ってますよね?」
「ギャハハハハ、何、お前あいつの知り合いなわけ?」
「ええ、大切な先輩です、それの何がおかしいんですか?」
「先輩、先輩だとよーーギャハハハハ」
俺の顔を見て何かを察したのか、南北隼人と東西麻理の他のヤンキー1号、2号、3号とヤンキー女子1号、2号が少し警戒感を持ったのがわかった。
「何かこいつヤバくない?普通じゃないよ」
そうヤンキー女子1号が話しかける。
「確かに頭がイってるよな?」
ヤンキー3号が馬鹿にしたように呟いた。
「おい、お前、話があんなら表にでな。きっちり身体に教えてやるよ」
「俺はどこでも構わない。そのかわりひとつ約束してくれ」
「約束?何だそりゃあ、するわけでねえだろう、ボケッ!」
そう言って南北隼人はグラスに入った酒を俺に浴びせたのだった。
「まあ、いいや。話し合いは無理そうだし」
そう言って俺は蹴りを南北隼人の顔面にぶち込んだ。
「「キャッーー!!」」
ヤンキ女子1号、2号が叫ぶ。
南北隼人は一撃で失神していた。
「テメエ、よくもやりやがったなあーー!」
ヤンキー1号、2号が襲いかかって来る。しかし、蝿の止まったようなパンチに当たってやるわけにはいかない。
ひとりは首に蹴りを、もうひとりは腹に拳を打ち込んだ。
その間ヤンキー3号はナイフを取り出して俺を威嚇している。
ナイフを持った手を左右に振って斬り刻もうと必死だ。
「なあ、ナイフの効率的な使い方は斬るんじゃないよ。こうやって刺すんだ」
俺はヤンキー3号の手を叩き落としたナイフで3号の太ももに刺してあげた。
「ギャーー痛えーーっ!」
その時後ろから銃声が聞こえた。威嚇発射のようで弾は床に当たったらしい。
俺は3号に刺さったナイフを剥きとり銃を発射した店長に向けて投げつけた。
そのナイフは店長の目に当たり、喚きながら悶絶してる。
俺は悶絶してる店長に近づいて銃を拾う。そして、その銃をあっさり分解した。
「これで少しは静かになったかな」
流れていた音楽を止めて、連中がいたテーブルに向かう。
「さて、話をしようか?」
「あああ、あんた、何者よ!」
「東西麻理、今お前は吃ったよな?」
「そ、それがどうかしたの?」
「びびって吃るって恥ずかしいことかな?」
「し、知らないわよ、そんなこと。自然に出ちゃったんだから」
「人は恐怖を感じると、そうなる人が多い。だから、別にびびって吃っても恥ずかしいことじゃない」
「何が言いたいのよ」
「池上先輩には、吃音障害がある。それって恥ずかしい事なのか?」
「はあ、あいつのことなんか知らないわよ」
「自分が吃ったくせに何で池上先輩の吃音を馬鹿にしたんだ?それに親も仲良しで幼馴染、そんな関係なのにどうしてイジメた?」
「うるさい!あんたなんかに関係ないでしょ!」
「俺は話をしに来た。話が通じないのならそこの男のようになるだけだが?」
そう言うと、ヤンキー女子1号、2号が「麻理やめな」と言って東西麻理を挟んで落ち着かせている。
「池上先輩はイジメられながらもあんたのことを心配して、そこで伸びている南北隼人との交際を止めるように説得してたんだろう。何故、話をきちんとしようと思わなかったんだ?」
「あんな奴の話を誰が聞くのよ。馬鹿じゃないの?」
そう東西麻理が叫ぶと隣に座っている女子1号、2号が麻理を止めた。
よほど痛い目に遭いたくないのだろう。
すると、腹に拳を受けたヤンキー2号が意識を取り戻した。俺はそいつの顔に思いっきり拳をぶち込んだ。
「ギャッーー!」
そう叫んでまた気絶する。
忙しい奴だ。
「なあ、頼むから病院に連れてってくれよ」
太ももから血を流すヤンキー3号は顔白い顔をして呟く。
「喧嘩した相手をお前は病院に連れてったことがあるのか?あるわけないよな。なら答えはNOだ」
俺は青白い顔をしたヤンキー3号の首めがけて蹴りを放つ。
『ゴキッ』っと鈍い音がしてそいつは椅子から崩れ落ちた。
「「「ひっーー!!!」」」
女子3人は、その光景を見て絶句した。
「俺は約束してほしいと最初に言った。そこに転がってる奴に無碍にされたけど、その約束はな、頼むから俺を怒らせないでくれって言おうとしたんだ」
「「「ひっ……!!!」」」
「女子供に手を出すのは俺の主義に反するが、どうする?」
「は、話します。ちゃんと話すから殺さないで……」
「それはお前たち次第だ。ゴミが社会から消えたって誰も気にしないだろう?」
「な、何故イジメたでしたよね?隼人が気に食わないって言ったから私もイジメました。吃音のことはウザかったからです」
「イジメて何とも思わなかったのか?」
「全く思いませんでした。むしろ楽しかった……です」
「最低だな、あんた」
「…………」
「幼稚園から一緒の幼馴染で親同士も仲がいい。そんな環境で普通、イジメとかしないだろう?」
「あいつ、弱っちくて男らしくないし、付き纏われるの迷惑だし、消えてしまえばいいって思ってました」
「これじゃあ、いくら池上先輩が説得しても言うことを聞くどころか逆に反抗するわな。それが土曜日の出来事だったってわけだ」
「…………」
「お前らさあ、こんなクズ達と連んで楽しかったのか?将来とか不安になったりしなかったのか?」
「遊べるのは若い時だけだし、今が良ければいいじゃんか」
「そうか、じゃあ、もう遊びは終わりだ。話す価値もない」
俺は東西麻理を始末しようとした。
だが、そう時俺の脇腹に激痛が走る。
「うっ……」
俺は後ろを振り向くと手に包丁を持った池上先輩がそこにいた。
「水瀬君、ごめん、でも麻理だけはダメなんだ。麻理だけは許してほしい。今はこんな奴らと連んで悪さばかりしてるけど、本当はとても優しい女の子なんだ。だから、水瀬君、ごめん……」
まさか、池上先輩がこんなとこまで来るなんて……
「池上先輩、少しも吃らなかったですよ」
包丁を突き立てられた部分から真っ赤な液体が滲み出ている。
「麻理とか言ったな。ひとつ言っておく。男の強さはその人を思う強さだ。格好や喧嘩が強いとかじゃないんだよ」
俺は震えている池上先輩の手から包丁を取り上げて、この店を出て行った。
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