セリカ先輩と原宿デート


桜子婆さんから鬼のルーツの話を聞いた翌日、俺はセリカ先輩と待ち合わせの為、学校最寄駅の改札口付近で待っていた。


先輩の指示通り、貴城院スタイルで待っている。

でも、この格好だと目立つし居心地が悪い。

道行く女性達から隠れて写真を何枚も撮られている。


「しかし、遅いなあ。俺時間間違えたかな?」


約束の時間は10時、今は10時半になろうとしてる。

デートということで俺は約束の時間の1時間前から待ってるので長く感じていた。


すると、春らしい装いの服を着こなしたセリカ先輩が「ごめんね〜〜遅くなっちゃって」と謝りながら近づいて来た。


ここは、ラブコメのラノベで読んだ定番のセリフを言わなければならない。


「俺も今来たところだから」


すると、セリカ先輩は自分が遅れたことを棚に上げて、


「酷い。初デートなのに30分も遅刻したの?」


と、怒られた。


「セリカ先輩、それあまりにも理不尽すぎます」


「だって、光彦くん、ラノベの定番セリフを言うもんだからついからかいたくなっちゃったのよ。ごめんね」


さすが、セリカ先輩。

わかってらっしゃる……


「じゃあ、行きましょうか?」


そうして電車に乗り、目的地の原宿までラノベのことをメインに会話した。


「ここが原宿かあ、一度来たかったんだ」

「来たことなかったんですか?」

「渋谷には何度も行ってるわよ。でも、ここって一人で降りて歩くには少しキツいのよね〜〜」


それは人それぞれだと思うけど……


「とにかくどこかのお店に入りましょう。朝食べてこなかったからお腹が空いたわ」


「その先に美味しいパンケーキの店があるみたいですけど、行きますか?」


「もち、行くわよ」


駅近くにあるお店に入り、パンケーキを注文する。

生クリームたっぷりのパンケーキを頬張っているセリカ先輩を見てると、胸焼けがして来た。


「あら、光彦くん、甘いのは苦手なの?」

「そう言うわけではないですけど、今日は見てるだけでお腹がいっぱいになったというべきか何というか……」

「もう、はっきりしないわね。私が食べてあげるよ」


残っていた俺のパンケーキまで美味しそうに食べる先輩。

この栄養分は一体どこに行くのだろう。


「光彦くんってエッチだよね。さっきから私の胸ばかり見てるし」

「否定はしませんけど、栄養って人それぞれ行き渡る部分が違うのかなって考えてただけです」

「なにそれ、私の場合は胸だと言いたいわけね」

「ご明察です」


そんな会話をしながらオヤツのような昼食を済ませて先輩と竹下通りを歩く。


ここに並んでいるお店は可愛いものが多いので先輩も引っ切り無しに首を左右に振っていた。


「光彦くん、このお店入っていい?」

「いいですけど俺はここで待ってますよ」

「もう、仕方ないわね〜〜」


そう言って入って行ったお店は下着店だった。

この間、涼華も下着ショップに俺を連れて行ったけど、女性は下着を買う時男子を連れて買いに行くのか?

謎だ……


お店の前で待っていると中学生らしき女性の団体さんから声をかけられた。


「すみません、写真を一緒に撮ってもいいですか?」

「えっ、俺ですか?俺は芸能人とかじゃないですよ?」

「そんなのは関係ありません。是非ともお願いします」


中学生女子に頭を下げられたら断ることはできない。

そうして、数人の中学生女子と写真を撮ったのだった。


「「「「「ありがとうございました」」」」」


そうお礼を言われて「きゃーやったね」「みんなに自慢しよう」とか言いながら去って行った。


全く台風のような一団だったな……


「光彦く〜〜ん」


下着ショップから出てきた先輩は何だか怒ってらっしゃる。


「普通、彼女とデートしてる時、他の女性にうつつを抜かして良いと思ってるの?」


それはわかるのだが、俺にも言いたいことがある。


「わかりますけど、道の真ん中で女子中学生に頭を下げられてお願いされたら断れますか?結構、恥ずかしくってシンドイんですよ。早く終わらせる方法は穏便に済ませることなんです」


「そうだけど、そうよね?私何でそんなこと気にしてたんだろう?」


先輩もよくわからないようだ。

何がわからないのか俺もわからないが……


「そういえばお目当てのものは買えたんですか?」

「うん、いろんな種類があって目移りしちゃったけど、可愛いのがたくさんあったわ」


そう言いながら微笑むセリカ先輩はとても可愛らしかった。

他にも雑貨屋さんとか目に付くお店に入り、楽しそうにショッピングを楽しむ。


俺も少し気になったお店があったので一人で入り、目的の物を買ってお店を出ると、セリカ先輩がくたびれたサラリーマンと話していた。

どうもナンパされてたみたいで軽くあしらっている。


「大丈夫でしたか?」

「うん、大丈夫よ。私、スカウトされちゃった」

「スカウトですか?」

「そう、でもどう見てもいやらしい関係のやつだよね。AVだわ、きっと」


そう言われて先ほどのくたびれたサラリーマンを探したが見当たらない。既に何処かに行ったようだ。


「あら、心配してくれたの?」

「まあね、でも先輩なら人気でるでしょうね?」

「嫌よ。AVなんて」

「違いますよ。普通のモデルとかタレントって意味です」


「そうかしら、ねえこの後、代々木公園の方に行ってみたいのだけど良いかしら?」

「構いませんよ。シートとジュースを買ってそこで少し休みましょうか?」

「賛成!」


公園グッズを買い込みいざ代々木公園へ。


恋人達やランニングしてる人、犬の散歩をしてる人など様々な人達が思い思いの休日を過ごしている。


俺達も適当なところに買ったばかりのシートを敷いて並んで座った。


「こういう休日もいいわね」

「セリカ先輩はいつも休日は何をして過ごしてるんですか?」

「そうね〜〜締切が……あ……普段開けてない締めっきった窓を開けて空気を入れ替えてるわ」


「窓を開けるだけですか?掃除もした方が良いと思いますよ」


「確かにそうね。でも、つい億劫になっちゃうのよね。掃除が嫌いってわけじゃないのよ。ただ、時間がなくてね〜〜」


「セリカ先輩、俺に何か隠してますよね?」


「女性には秘密が多いの。それを聞くなんて野暮なことはしないのがルールよ」


と、言いながらハンカチで汗を額の汗を拭いていた。


「それより、ほら、ここに来なさい」


自分の膝を『ポンポン』と軽く叩きながら、俺を促す。


「え〜〜と……」


膝枕してくれるみたいだが、少し戸惑う俺。


「何遠慮してるの?私が良いって言ってるのだから遠慮するなんて失礼よ」


そこまで言われてしまったらしないわけにはいかない。

俺は、ゆっくりと頭をセリカ先輩の膝に乗せた。


「彼氏に膝枕させるってこんな感じなのね」

「一日限定の彼氏ですけどね」


そういう約束だ。


「どう?膝枕の感想は?」

「う〜〜ん、寝るには少し枕が高いような、でも疲れてたらイケます」

「うん、率直な意見ありがとう」


少し冷めた感じで言われてしまった。

返答に問題があったのか?


「光彦くん」

「何ですか?」

「恋愛って難しいね」

「そうですね。頭で考える事ではないですからね」

「そうね、心から湧き出るものだもんね」


「セリカ先輩は恋愛が分かりましたか?」

「わかったようなわからないような、そんな感じ。このままだと私一生恋愛できそうもないわ」


「きっとできますよ。だって人ってそういう風に作られているから」

「誰に?」

「神様とかじゃないですか?よくは分かりませんけど」


「ふふふ、変なの?」

「そうですね。変でしたね」


こんな何気ない会話をしてると平和だなって思う。

こんな日がずっと続けばいいのに……


「今度のゴールデンウィークにスイスに行くでしょう。いつもの私なら断ってたのだけど、今回は参加しようと思うの」


「心境の変化でもあったのですか?」

「うん、まあね。特進クラスって学校の爪弾きものが集まった感じじゃない?」

「そうかもしれません」


「だけどね、今まで経験してきたどのクラスよりも楽しそうなの」

「そうなんですか?でも、楽しいのなら俺も良かったです」

「高校三年生になって今まで頑張ってきた私にプレゼントされたような気分なの」


「誰からのプレゼント何ですか?」

「それは神様的な何かかしら?」

「それ、俺がさっき言ったセリフと似てますよ。パクリは大罪ですからね?」


「ひーーっ、それだけは勘弁して下さ〜〜い」


何故かパクリという言葉に異常に反応するセリカ先輩だった。

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