第72話 御曹司、お祓いを受ける


今日は土曜日。学校は休みだ。

美鈴ちゃんと智恵さん、それと美里さんは実家に帰るようだ。

朝、迎えの車が来て俺達に手を振りながら帰って行った。


「光彦君は今日は会社休みなんでしょう。何か予定あるの?」


涼華がそう尋ねてきた。


「特にしなくちゃいけないってわけじゃないけど、桜子さんから紹介された人にお祓いをしてもらおうと連絡を入れたら今日ならOKって返事をもらったんだ」


「お祓いするの?光彦君が、何で?」


それは、雑多な用事が押し寄せてきて、当初計画してたのんべんだらりとしたオタク生活が満喫できないからですけど、何か?

と、言えない俺は「一回してみたかった」と、ありふれた理由を話す。


「じゃあ、私もついて行くわ。一人じゃ危険だもの」


何が危険なのかは知らないが、涼華には護衛官としての責任があるのだろう。


「あっしも行くし〜〜」


美幸も行きたかったようだが、浩子さんに「あんたは引越しの準備があるでしょ!」と、言われて連れてかれた。


因みに、裏庭に建てたれた木崎家の家はほぼ完成している。

まだ、カーテンとか家具は揃ってないけど、充分住めるくらいには出来上がっていた。


「私がついて行ってあげてもいいわよ」


茜ちゃんがそう可愛く話すが「断ったらタダじゃおかねえ」みたいな顔している。


「じゃあ、3人で行こうか」


「「うん!」」


因みに木葉は家族でお出かけだそうだ。

母親の実家に一泊するらしい。





電車に乗り、学校に行くみたいにいつもの最寄駅で降りる。


「お兄さん、何でそのダサい格好なの?」


「茜ちゃん、これはダサいんじゃなくてイケてるって言うんだ」


俺的にはだけど……


「ウソだあ〜〜ダサいしキモい」


そんな茜ちゃんはホットパンツを履いて、可愛い花柄のテーシャツに無地で薄手のカーディガンを羽織っている。


「俺的にはイケてるんだよ。茜ちゃんだってあの赤ジャージ似合ってたのに、今日はオシャレしてどうしたんだよ」


「楓さんが揃えてくれたんだあ、どう、可愛いでしょう」


まあ、確かに可愛いが性格はアレなので迂闊なことは言えない。


「良く似合ってるわよ。私も子供の時、そんな服着たかったなあ」


そう言う涼華は、ジーパンにトレーナーという動きやすそうな格好だ。

肩には日本刀が入ったバッグを持ってるし……


「それで、光彦くん、場所はどの辺なの?」

「住所を調べたら学校近くの神社みたいだ」

「ああ、きっとあの神社ね。了解、わかったわ」

「それだけでわかるのか?」

「ええ、学校周辺の地理は頭に入ってるからね」


そうか、護衛の仕事で地理を把握してたのか……真面目だなあ〜〜


「ねえ、神社でお祓いするの?」

「そうだと思う。詳しくは聞いてないけど」


まあ、普通お祓いとかって神社だよね〜〜


電車を降りて、涼華の案内でその神社を目指す。

途中で喉が渇いたので、コンビニでジュースを買って飲んだ。


「多分、ここがその神社だと思う」


鳥居の脇に『水要神社」と石碑に書かれていた。


「そうみたいだ。住所もここであってるよ」


街中にある神社にしては、林のように木々が生えており、脇には児童公園もある。


「でも、隣には大きなマンションがあるんだね」


涼華の言う通り、神社の脇には高層のマンションが建てられていた。


鳥居を潜って参道を社のある方に向かう。

途中で手水舎があり、みんなで手を洗ってお参りを済ます。


社の隣の奥まった場所に大きな石があり注連縄が巻き付けられている。


社の反対側には、平家の家屋があり、そこではお札やお守りを売っているようだ。


「私、おみくじ引きたい」


茜ちゃんがそう言うので俺達もおみくじを引いた。


「私、大吉だって〜〜」


嬉しそうに喜ぶ茜ちゃん。


「私は、吉だわ」


涼華はそう言いながらおみくじに書いてある占いを読んでいた。


このパターンって……


何か言い知れない悪い予感が頭をよぎる。

俺はコソコソしながらおみくじを開けてみた。


「ガーーン……」

「光彦君はどうだったの?」

「お兄さん、みせて、みせて」


俺は力が抜けた状態でおみくじを茜ちゃんに託す。


「わあ、大凶って初めてみた〜〜」

「本当だ、私も初めてよ」


これってテンプレなのかな?


「なになに、このおみくじを引いたあなたは女性関係に悩まされるでしょうって書いてある。待ち人は来ないし、金運も思いがけない出費が出るって書いてある。恋愛は……。お兄さん、元気出してね」


茜ちゃんに同情されてしまった。


はあ〜〜早くお祓いしてもらおう。


俺は、お札を売ってる大学生らしき年齢の巫女さんに『神前桔梗さんはいますか?』と声をかけた。


「はい、居ますけどどちら様ですか?」

「霧峰桜子さんからの紹介で来ました貴城院光彦と言います」

「少々お待ちください」


巫女さんが奥に行って「お婆ちゃん、お客さんだよ〜〜」と声をかけていた。さっきの巫女さんは、桔梗さんのお孫さんらしい。


「おやおや、あなたが桜子さんの紹介の子かね?」


奥から出てきたお婆さんは80歳前後のお婆ちゃんでどこかで見たことがある人だった。


「はい、そうです」

「これは神様のお導きかねえ、あの時は本当に助かったよ。おかげで爺さんのところに行くのが伸びてしまったがね」


そうだ、このお婆さんは学校帰りに車に轢かれそうになっていたお婆さんだ。


「こちらこそ、塩昆布飴美味しかったです」


「え、どういうこと?」


俺がそう言うと巫女さんが驚いたように俺とお婆さんに目を行き来させていた。


お婆さんがその時のことを話している。

涼華や茜ちゃんも耳を澄ましてその話を聞いていた。


「そうだったの、あの時信号無視した車は捕まったって警察から連絡が来たのよ。お婆ちゃんを助けてくれて本当にありがとう」


巫女さんにまでお礼を言われてしまった。


「さすが光彦君ね」「お兄さん、やるじゃん」


涼華や茜ちゃんにもそう言われて少し照れてしまう。


「桜子さんから聞いているが、少年が梅子さんのお孫さんなのじゃな。梅子さんはお元気にしておられるか?」


どうやらうちのお婆ちゃんとも顔見知りらしい。


「ええ、元気で書を書いてますよ」

「そうかい、そうかい」


うちのお婆ちゃんは書道の高位段を持っている。

時間があれば、毎日のように筆を揮っている。


「それで今日はお祓いをしてもらおうと思ってここに来たのですが、できますか?」


「うむ、そうじゃったな。先にお祓いしてから話をしようか」


そう言ってお婆さんは俺達を社の中に招き入れ、厳かな雰囲気の元でお祓いをしてもらったのだった。





「何か気分が軽くなった感じがします」


お祓いを受けた俺の感想だ。


「そうか、なら良かった」


そう言って桔梗お婆さんは、俺達を社務所の中に招き入れてくれた。

先程、お札を売っていた巫女さんがお茶を持ってきてくれる。


「二人は高校生かな?」

「はい、今年入学したばかりですけど、そこの高校に通ってます」

「そうなんだ。じゃあ妹と一緒なんだ」


妹さんが同じ高校に通っているみたいだ。


「妹さんは何年生なのですか?」


涼華が質問する。


「高校2年生なんだけどね、ちょっといろいろあってね、学校に行けてないんだ」


すると、涼華は何か思い出したのか、


「もしかして、神前要さんですか?」

「あれ、何で知ってるの?」

「私と光彦君は同じクラスなんです。神前さんも同じクラスですよ」

「えっ、どういうこと?学年違うよね?」


巫女さんは、驚いたように質問し始めた。


「今年から特進クラスっていうのが出来まして、家の事情や落第生、不登校生など学年で少し事情がある人達が学年関係なく一緒のクラスになったんです。私はその特進クラスのクラス委員長です」


涼華がそう説明した。


「そういえば、母親からそんな話を聞いたかもしれないわ」

「先輩後輩の中も良いですし、妹さんも学校に来やすいと思います」

「そうなんだ、でも要はきっと行かないわ」


何か事情がありそうだ。


「涼華さん、無理強いは良くないんだよ。私のクラスにも学校来れなくなった子がいるけど、お母さんが無理矢理連れて来たら授業中に吐いちゃったし。きっと時間が必要なんだよ」


最近の小学生は賢いなあ〜〜


「そうだよね。無理強いは良くないよね」


涼華は、そう言われて落ち込んでる。


「みんな、心配してくれてありがとうね。妹の要は少し事情があってね。だけど、頑張って高校一年生までは行けてたんだよ。でも、今は症状が酷くて部屋から出てこないんだ」


「もし良ければ事情をお伺いしてもいいですか?」


聞いても教えてくれなかったら諦めよう。


「瑞希、教えてあげなさい」

「お婆ちゃん……そうね。これもきっと何かの縁だし。信じられないかもしれないけど、要はね、霊が見えてしまうのよ」


「そうなんですね」


そうきたか……これは、お金や権力で解決できる案件ではないな。


「凄い、それって怖いけど凄いことだよね?」


一方、茜ちゃんは凄いと本気で思ってるようだ。


「何となくわかります。私も小さい時は見えてたみたいです。その時の記憶はもうありませんが、怖かったことだけは記憶として残ってます。私の場合は大人になるに連れて見えなくなりましたけど」


涼華は、そういう経験があるようだ。

気を練って斬撃を飛ばせる程の剣の使い手だ。

今だってびっくり人間でテレビに出れそうだけどね。


「私は見たことないよ。一回くらい見てみたい」


俺も茜ちゃんと同じでそういう経験はないけど、見たいとは思わないなあ……


その時、お茶を飲んでるこの社務所の襖が突然開いた。


そして、


「やはり、あなたね!みんなから離れろ!この白鬼め!」


槍の穂先をこちらに向けて臨戦体制の青色のジャージを着た少女が俺を睨んでいた。

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