第56話 御曹司は思春期


放課後、美鈴ちゃん達は家からの迎えの車が来てそのまま帰って行った。

俺達も誘われたけど、人数的に厳しそうなので遠慮させてもらった。


自宅に帰ると、何故か美鈴ちゃん達が居てお茶を飲んでる。

美里さんは、桜子婆さんがいるせいか大人しく隅っこで縮こまっていた。


「お帰りなさい」


そう言われたけど、俺の頭は混乱している。


「うん、ただいま。美鈴ちゃん達は家に帰らなかったの?」

「いいえ、帰りましたよ。そのあとこちらにお邪魔させてもらいました」


ますます、わからない。

美鈴ちゃんの家は都内にあり、この家に来るにしても時間的におかしい。


「あの〜〜言ってることはわかるんだけど、家に帰ってからうちに来るって時間的におかしくない?」


「そんなことはありませんよ。私のお家は隣ですから」


隣ですから……隣ですから……隣ですから……


あれ、聞き間違いかな?

でも、頭の中でリピートしてるし……


「因みに智恵さんのお家は真向かいですよ」


「はあ!?もしかして、引っ越して来たの?」


「ええ、そうですけど、それが何か?」


マジ、ありえへんわ〜〜

どういうことですの?


という事は、あの急ピッチで家が出来上がったのはそのせい?

お向かいのリフォームが早く済んだのも同じ理由?


「あ〜〜何か頭痛くなってきた」


「光彦様、大丈夫ですか?」


心配してくれるのは楓さんだ。

でも、楓さんはその事を知ってたはず。


「楓さんは知ってたんだよね?」

「はい、嘉信様に『光彦君には黙ってて驚かせてあげよう』と言われてましたのでそのように致しました」


あの親バカめ〜〜!!


まあ、セキュリティーに関して言えば安全かもしれない。

だがしかし、ほんのちょっとでも事前に教えてくれたら良かったのに〜〜


「光彦様が事前に知ったら反対するかもしれないとも言われてました」


楓さんがそう言うと悲しそうな目でこちらを見つめる美鈴ちゃん。

少し怒った風の智恵さん。

怒り狂った目を向ける美里さん。


「そんな事を言うはずがないでしょう。勿論、大歓迎だよ」


何故か安堵する元朱雀学園の女子メンバー。


はあ〜〜俺の平穏な日常はどこへ行った?





あれから美鈴ちゃん達の歓迎会が開かれて盛大に盛り上がった。

事前に用意してくれた浩子さんには感謝しかない。


その浩子さんに美幸さんの父親の件を聞いてみた。

楓さんから聞いていたようで、申し訳なさそうに謝罪されてしまった。


今は離婚しているので関係はないけど、血の繋がりのある子供達(美幸、和樹)には少なからず関係性はある。だから、それを聞いて悩んでいたとも告白された。


勿論、2人には言うつもりはないが、どこかで噂話を聞きつけてしまったらと、俺も悩んでしまう。


まあ、サイン色紙は取り返したし、中にあったサイン入りラノベは惜しいけど仕方がないと諦めた。勿論、バッグもね。

だから、この件はおしまいにしようと思う。


それと楓さんから明日の近藤商事に行く件について相談された。

午前中は学校に行き、午後から本社のある日本橋に行く事になった。

会社で社長の近藤剛志氏と会談して今後の方針を相談することになる。


おそらく、その日は遅くなるだろうし、この間のマンションに泊まる事になるだろう。


その旨をみんなに伝えて、自室に戻って休む事になった。


「はあ〜〜今日は何か疲れたなあ〜〜」


「そうですか?主人も大変ですね。ニンニン」


お昼の時も歓迎会の時も姿を見せなかったルナがベッドに横になった俺の隣で寝ながらそう話す。


「ルナ、俺もう眠いんだけど」

「拙者も今日は動き疲れました。でも、おかげである情報が手に入りました」


「それは聞いた方はいい?」

「できれば……」

「わかった」


ルナの情報は「蛇」の件だった。

『蛇』という組織は、正式には『ブレード・スネーク』と言いこの間、日本に来た構成員をはじめ、あと数人の者がいるようだ。

この『蛇』という組織は実行部隊のようで、とある組織の下位組織に当たる。


そのとある組織というのが、ミルスト教が過去において別れた一派であるらしくエランダムという組織らしい。


このエランダムは、闇を信奉する教派らしく歴史の中で暗躍していた者達らしい。


「じゃあ、そのエランダムという組織が血を欲しがっていたわけ?」

「そのようです。イタリアにてその構成員のひとりを捕獲して口を割らせた結果、そう答えたそうです」


「その組織は何がしたいんだ?」

「世界の変革、つまりこの世界の混沌を望んでいるようです」


「そういう奴らなんだね。で、その混沌を望んで何を得ようとしてるんだ?」


「古き光の血の粛清と新たな光の誕生だそうです」


「つまり、自分達が新たな光になりたいって事だよね。勝手になればいいと思うけど、最初に言った古き血の粛清は、今この世界で生きてる俺達って事だとすると放っておけないよね」


「ええ、その通りです。どうしますか?」


「そう言われて俺が何かをしなければいけないというわけではない。むしろ、関わりたくないし、対処すべき専門家がいるだろうからその人達に任せればいいんじゃないか?」


「主人、おそらく敵は主人を狙ってくると思いますが」


「その時は全力で対抗するよ」


「それが聞けて安心しました。では、ルナはもう寝ます。おやすみなさいグ〜〜グ〜〜」


「寝るの早っ!」


本当にルナは疲れていたようだ。

マジで寝てる。

仕方なく、俺もそのまま寝ることにした。


寝れるかな?





「太陽が眩しいぜ」


ルナの隣で寝ようと思ったのだが、子供の頃と違い思春期真っ只中の今、同じ布団の中にいるだけでまずい気持ちになり、結局ベッドから抜けだしてソファーに寝ることにした。


しかし、同じ部屋にいるというだけで心が落ち着かずモンモンとした時間を過ごしたのである。


「ルナなのになあ〜〜」


姉弟子でもあるルナにこんな気持ちになるなんて、思春期ってマジヤバい。


「私がどうかしましたか?」


「ルナ、起きたんだ?おはよー」


「おはよーであります。主人の布団だとぐっすり眠れました。おかげて疲れがとれました、ニンニン」


俺は逆に疲れたけどな!


「それは良かったよ。今日午後から楓さんと近藤商事に行くから、日本橋にあるマンションに泊まる予定だ」


「そうでありますか。ではルナもいろいろ用意しなければいけませんね、では、主人。また」


そう言ってルナは部屋を出て行った。


「ルナ、パジャマ着てなかったのかよ〜〜」


朝からいろいろ見てしまったのだった。



  


「う〜〜太陽が眩しいぜ」


「砂川さんも年には敵いませんか?」


「うるせーキララ。俺は、まだピチピチに若いんだよ」


「そういう表現は、女子に対して使うものです。それと岡泉です」


連日の繁華街の夜回りで夜明けの缶コーヒーを飲んでる2人の刑事。


お目当ての海梨組の構成員は見つからず、その代わりに酔っ払い同士の喧嘩や未成年の保護などに時間を取られていた。


「しかし、シマを放り出して海梨組の連中は何処行ったんだ?」


「連日探しても見つからないとすれば、どこか慰安旅行とか?」


そうぼやくのも無理はない。

2人の刑事は、海梨組の構成員を追って何日も徹夜していたのだから。


「なあ、キララ。今日はもう家に帰って休もうぜ。まあ、あの汚ねえ寮に帰るのは気が重いがな」


「岡泉です。女子寮はとても綺麗ですよ。個室も広いですし何と言っても食事が美味しいです」


「マジかよ。男子寮は共同トイレに共同便所だぞ。しかも個室は4畳半しかねえ」


「そうなんですか?女子寮は8畳はありますよ。勿論バストイレ付きです」


「それ、差別だろう!男女平等はどこいった?」


2人の刑事は、埼玉に出向している為県警の寮に住んでいる。

どうも男子寮と女子寮には格差があるようだ。


「砂川さん、あれはもしかして……」

「ああ、そのもしかしてだな」


2人が見つめる先には、ひと組の男女が警察署の廊下を歩いていた。


「よう、お前達。ここでの仕事はどうだ?」


スーツを着たナイスミドルな男性が2人に声をかけた。


「何で雨川本部長がここに来てんだ。しかも、晴宮まで連れて」


雨川本部長と呼ばれた人物は警視庁でこの2人の上司にあたる。

しかも、埼玉に出向を命じた人物でもある。


また、その隣にいる女性は晴宮静香。

公安所属の女性調査官だ。


「良いコンビですね。お二人は」


晴宮静香は、砂川刑事と岡泉刑事を見てそう呟く。


「どうも、でも仲は良くありませんので」


岡泉刑事はぶっきらぼうにそう言った。

どうやら砂川刑事と岡泉刑事にとって晴宮静香調査官とは因縁があるようだ。


「それより、2人揃ってこんな辺境に何しに来た?」


「おい、砂川。埼玉は辺境じゃねえぞ。まあ、ここにいたらそう思えなくもないか、ははは。それでだな、お二人には、もとの場所に戻ってもらおうと思ってな。それと、緑色の変死体の件は公安預かりとなった」


「はあ!?またかよ。何でこの件で公安が出張ってくるんだ?」


「それは丸秘事項ですのでお教えできません」


砂川刑事の問いにあっさりと晴宮静香が答えた。

砂川刑事の顔には怒りの様相が滲み出ている。


「砂川さん、行きましょう。明日からで良いですよね。警視庁に戻るのは?」


「ああ、構わねえぞ」


殴りかかりそうな勢いの砂川刑事を岡泉刑事が止めた形になった。

本部長もあっさりと返事を返した。


岡泉刑事は、砂川刑事の腕を引っ張ってその場を離れたのだった。

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