第50話 御曹司はネットニュースを見て驚く


会食を終えた俺は楓さんお車で帰るはずだったが、近藤商事の本社がある日本橋に寄ることになった。


ここにも、隅田川沿いに貴城院のマンションがある。

今後はここに来ることも多いので、下見がてらそのマンションを見ることになった。


「ここの最上階が貴城院家のスペースです」


楓さんが首を真上に向けてそう話す。

確かに真上を向かないと見えないよなあ〜〜


「高いね」

「ええ、50階建てですから」


車を専用の駐車スペースに置き、エレベーターで最上階まで一気に登る。

この駐車スペースからのエレベーターは、最上階専用らしい。


「よくもまあ、こんな建物建てれるよね。人間って凄いよね」

「そう言う感想は初めてですね」


楓さんは笑う事なく高速で上昇するエレベーターでも凛としてる。

俺は、どちらかと言うと少し怖いのだが……


「エレベーターを降りると玄関になっています。こちらで暗証番号を入力して頂ければドアが開くはずです。因みに暗証番号は光彦様の誕生日です」


そうなの?


「4桁だから1103かな」


入力し終わると、広い玄関スペースに広がる中廊下。

そして、内ドアを開けると面前に広がる壮大な景観。


「広いね〜〜」

「そうですか?このマンションは縦長ですので当家で所有するマンションでは、少し狭い方ですよ」


部屋の中には一切荷物はなく、全くの空き家状態だ。


「家具や家電の手配をしませんと」


楓さんはそう言いながらどこから出したのかメジャーを取り出して色々測り始めた。


俺はその間、この部屋を見て回る。

個室が6室に広いリビングとキッチン。それにトイレが2つある。

わ〜〜風呂場広いなあ〜〜ジャグジーまであるんだ。

風呂場の脇にサウナ室まであり至れり尽くせりの部屋だ。

ワンフロワー全てが部屋なのでひとつひとつの個室も広い。


小一時間ほどここで時間を潰して、帰宅することになった。


「光彦様、家具のご趣味はいつもの感じでよろしいですか?」

「うん、それでお願い。あまり派手なのは好きじゃないしね」

「畏まりました」


この部屋に泊まることもあるんだろうなあ〜〜


忙しくなるのは嫌だなあ〜〜

あの喜三郎さんは会長職を辞任した後、葉山にある別荘で奥さんと暮らすそうだ。正直、羨ましい。


楓さんは、あちこちに電話をしている。

俺はその間、スマホを眺めることにした。


Yaboo!のニュース欄を見ると『噂の美少女ミッチー、アイドルとしてデビューか』と書かれている。


えっ、どう言うこと???


山川君の言う通り、世間の情報は目まぐるしく変わるようだ。

それが事実ではなくとも……



幾つもの資料を積み重ねた、整理整頓という言葉が似合わないデスクにイライラしながら指でデスクを叩いている女性が、片手に持ったスマホで誰かを呼び出していた。


「社長、ただいまもどりましたあ」


「遅い!このバカもの。何故、すぐに連絡を返さない。送ったメッセージに直ぐに返信する。社会人なら当然のことだろう?」


「えっ、返信しましたよ。ほら」


その情けない姿の男は永福繁生。

この貧乏芸能事務所の唯一の社員だ。


「誰が、マポリンだ!私には代田新子という名前がある。間違えて会社のメールを他人に送るな!機密が漏れたら大変なことになるんだぞ」


そう言って積んである雑誌を永福に投げつけた。


『痛っ』


「社長、暴力反対です。それにこれ俺が買ってきた雑誌ですよね。投げないで大切にして下さい」


「言われなくともわかってる。それで、ミチルとは連絡取れたのか?」


「はい、学校帰りに事務所に寄るそうですよ。言ってませんでしたっけ」


「聞いてないから聞いてるんだ。それでミッチーの件は?」


「さあ、本人に聞いてみて下さい」


「このアホ!何でちゃんと聞いておかない。担当のお前がどんな関係なのか知らなくてすむ話じゃないだろう。わかっているのか?」


「そんなに言うなら自分で連絡すればいいのに。それに血圧上がりますよ」


「誰のせいだと思っている。このバカものが〜〜」


そう言ってまた積んである雑誌を投げ付けた。

しかし、その雑誌は『失礼しま〜〜す』と入ってきたミチルの顔にヒットした。


「痛ーーい、何するんですかあ!」


少し気不味い気持ちになった社長は「すまん、手が滑った」と、取り敢えず謝罪するのだった。


「もう、酷い。私、謹慎中ですよね。何で呼んだんですか?」


「それはだな、おい、永福説明しろ」


女社長は、担当である永福に話を投げる。


「ええと、鼻赤くなってるよ。トナカイみたいだ」


「え〜〜嘘。もう〜〜」


そう言ってミチルはバッグから手鏡を出して自分の顔を見始めた。


「本当だ。酷い。アイドルは顔が命なのに〜〜」


「本当、酷いことするよね〜〜僕なんか毎回雑誌投げつけられてるんだよ。でもこれでトナカイ役が来ても大丈夫だね」


「そんな役あっても受けませんからね。それにしても酷いです」


「うんうんそうだよね〜〜」


社長は、しばらく机の上を指で叩いていたのだが、今は拳で叩いていた。


「お前ら〜〜!そんな話ではない。永福、貴様は何を言ってるんだ。ちゃんと説明しろ」


「だから、ミチルちゃんがトナカイになった話ですよね?」


「バカもの〜〜!ミッチーとの関係を聞くんじゃなかったのか?」


「ミッチーですか?ミッチーとはお友達になりました」


そう答えるミチル。

しかし、その答えだけでは満足できない女社長。


「そうじゃない。友達なのは見ればわかる。どういう経緯でそうなったか知りたいんだ」


「え〜〜とですね。女子中高生で人気のベゼ・ランジュって会社があるじゃないですか。そこに行ったらミッチーがいて友達になりました」


「ミチルは謹慎中にも関わらず何でその会社に行ったんだ?」


「それは、同級生の男子にお礼を言おうと思ってついて行ったらベゼ・ランジュでした」


「おい、永福、今の説明でわかったか?」


「ミチルちゃん、男子はマズイよ。アイドルとして噂になったら大変だよ。電話鳴りまくるし、マスコミ押しかけるし」


「そんなんじゃありませんよ。ただのクラスメイトです」


「いや〜〜火のないところに煙は立たないから。マスコミに見つかったら有る事無い事書かれちゃうよ。もう、マズイなあ〜〜」


すると、雑誌が永福めがけて飛んできた。

顔にクリーンヒットする。


『痛っ!』


「私が聞きたかったのはそういうことではない!もう、こうしてやる!」


社長はスマホに何か書き込んでいるようだった。



「えっ、何でそんな事になってんの?」


Yaboo!ニュースの一覧に、身に覚えのない記事が載ってる。


「なになに……噂の美少女ミッチー、親友のミチルの所属するヨーダ芸能事務所に所属か?今度はミチルと2人でアイドルとして活動する予定……」


全く、身に覚えがないんですがあ!


どうなってんのさ。もっと大事なニュースとかあるよね?

そういうの取材して載せようよ。


俺はどうしてその記事が載ったのか分からぬまま、スルーする事に決めた。


「光彦様、お待たせしました。では、帰りましょうか」


電話を終えた楓さんと一緒に家に帰る。

あたりは夜景が見え始めるほど暗くなり始めていた。





「絶対、ミッチー怒るよね〜〜」


赤い鼻を化粧で隠して帰りの電車内でスマホを眺めるミチル。

学校スタイルなので、周りに気づかれる心配はないが、こんなにネット界隈で騒がれると周囲が気になる。


「ちゃんと謝らないと、でも何で私?謝るなら社長でしょう!」


何故だかイライラしていた社長が突然スマホに有る事無い事書き込んでしまった。


それは、瞬く間に広がりYaboo!のネットニュース一覧にまで載ってしまっている。


「でも、ミッチーの個人的な連絡先は知らないからなあ〜〜。あの時交換しとけば良かった。何で忘れてんの、私」


仕方なく『呟いたー』から、DM(ダイレクトメッセージ)を送る事にした。


気づいてくれるといいけど……


ミッチーが『呟いたー』の通知をOFFにしてることは知ってる。

だから、気づかない可能性もある。


そうだ。愛莉社長なら知ってるかも。


名刺をもらっていたので、記載されているアドレスにこうなってしまった経緯と謝罪を書き込んで送る事にした。


そんな不安を抱えてミチルは家路に向かう電車内でため息を吐くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る