第47話 御曹司はハメられる
楓さんに迎えに来てもらって自宅に帰るとリビングでお茶を飲んでる桜子婆さんがいた。
着物姿でお茶を飲んでる姿をみると縁側があれば似合いそうだと思ったが生憎この家には縁側はない。
「おや、ボン帰ったのかい?」
「うん、桜子さんもお帰り。梅子お婆さんのところに行ってたんだって?」
「そうじゃ、梅子様も息災でなによりじゃった。それでな、ボンには話しておこうと思ったのじゃが、見るとボンの死相が薄くなっとるし、また今度の機会にするわ」
何か話しがあったようだ。
「よくはわからないけど、この前話すとか言ってた話かな?」
「まあのう〜〜」
話をボカされてしまった。
本当にまだ、話す気はないようだ。
「そうだ、桜子さん、お祓いとかできる?」
「お祓い?なんでじゃ?」
「小さい頃から事件や事故に巻き込まれるし、お祓いでもしたら少しは良くなるんじゃないかと思ったんだけど?」
「ははは、まあ、紹介はできるがしてもらうかい?」
「うん、お願いするよ。最近、特に巻き込まれる回数が多くなってる気がしてね」
「わかった。連絡しとくでのう」
これで少しは、良くなるだろう。なるよね?
そのあと世間話をして、自室に戻った俺は女装の時の疲れが出たのかそのまま寝てしまった。
◆
ある繁華街近くにあるアパートの一室で、事件があった模様で周りには警察車両をはじめ救急車などで騒然とした雰囲気だった。
「砂川さん、良いのですか?私達、警視庁の所属ですよ」
「大丈夫だ、キララ。いつの間にか出向という形で県警に配置されたらしい」
「えっ、私、聞いてませんよ。それと岡泉です」
「そういえば言うの忘れてたな。わはは」
少しムッとした顔つきで砂川刑事のあとに続き事件のあったアパートの一室に向かう。
既に、所轄の警察官が来ており、いろいろ調べているようだ。
「おや、東京モンが何しに来たんだ?」
すると、先に来ていた背広姿の男が砂川刑事の方に向けて話しかけた。
言葉をかけた背は低いが筋肉質のこの男は、県警の刑事で名前を地美田伸雄と言う。
「そっちこそ身長は伸びたのか?チビ助」
「砂川、お前言ってはならない事を言ったな?表に出ろ!」
「そっちこそ表に出ろ!お前がいると空気が不味くなるんだよ」
二人のやり取りを見て岡泉刑事は、またか、という顔になる。
「何でそんなに仲が悪いんですか?」
「ああ、こいつとは、小、中、高校の柔道大会で何度も試合してんだが、俺の方が勝ってるんで悔しいだけなんだよ」
「何を言ってる。俺の方が勝ってるだろう!58勝57敗で」
「何を勘違いしてる。俺が58勝でチビ助が57敗の負けだ」
不毛な口争いが続いているので、岡泉刑事は、事件の現場を確認しに行く。
「えっ、何、これ、どういう状況?」
若い男性2人がテレビゲームをしてたのはわかる。
でも、男性達は身体が緑色に変色していた。
「どうした、キララ」
不毛な口争いは終わったようで砂川刑事も現場に現れた。
「なんじゃ、こいつは。埼玉には河童がいるのか?」
「砂川さん、河童じゃないと思いますよ。頭に皿がないし」
「でも、頭にゲームのコントローラが乗ってるじゃねえか。こいつは、新種のゲーム河童だろう?」
「おそらく、2人でゲームしてて勝敗を争ってたんじゃないですかね〜。マ◯オカートもマ◯オとル◯ージーですし。負けた方が頭に血が昇ってゲームのコントローラを頭に叩きつけて、お互い首を絞めあって亡くなったんじゃないですか?」
「埼玉じゃ河童どうしでゲームすんのかよ。やべーな、埼玉」
「とにかく、検死に回さないとわからないですよ。それより身元はわかってるんでしょうか?」
すると、チビの地美田刑事がやって来た。
「こいつらは、海梨組の若い奴だ。確か名前はジュンとキヨシだったかな。何度かしょっ引いたことがある」
「海梨組って、ここらへんのマル暴ですか?」
「ああ、ここいらの繁華街を仕切ってる。だが、何で緑色してんだ?刺青か?」
「いや、河童だろう!」
砂川刑事は河童と思い込んでるようだ。
「まあ、検死報告が来るまでは何も言えないですね。ほら、砂川刑事、付近の聞き込みするんでしょう?」
「ああ、そうだったな。キララも成長したな」
「ですから、岡泉です。行きますよ」
砂川刑事と岡泉刑事は、付近の聞き込みに行ったのであった。
◆
「日本、最高!」
極東の島国と思ってバカにしてたが、何、このサービスの良さ。
特に、夜、ひとりで街に出ても店は開いてるし、治安がいい。
俺はマルセル。ミルスト教の司祭をしている。
ソフィア司教様が国連の依頼を受けて調査に出ると聞いて、立候補したわけだが、最初に行った東南アジアの国には参った。
トイレは汚いし、水も飲めたものではない。
だから、日本もそうだと思っていたのだが、何ここ天国?
トイレは、綺麗だし、夜中にお腹が空いても店が開いてる。
それに、店員のサービスがとても良い。
俺、ここに住もうかな……
そんなわけで、今はホテルのそばにある繁華街にひとり来てるわけだが、前からヒョロリとしたスーツ姿の男がスマホを見ながら歩いて来た。
当然、俺とぶつかったのだが気にする風も無しでそのまま行ってしまった。
まさかスリ!
俺は慌てて服のポケットを探したが、何も撮られていなかった。
日本ってのは、あんなボケた男がいるのかよ。
今度会ったら殴ってやる。
そう思ってた次の日、ソフィア様達とハラジュクという若者が行き交う場所に出向いた。
確かに煌びやかな店が多く並んでおり、若い女性がたくさんいた。
そして、運良く昨日ぶつかったあの男を見つけたのだ。
日本人の顔は見ても判断がつかない場合が多いが、あの男だけは別だ。
あの情けない姿は、間違いようがない。
すると、なぜだかその男はなんとソフィア様に話しかけて来たのだ。
不届き者め!
思わず殴ってしまったが、その男は一目散に逃げて行った。
本当、情けないぜ。
日本はいいところだが、平和すぎてあんな男が育ってしまったのだろうと思った。
◇
「光彦様、起きて下さい」
楓さんに声をかけられて、寝てた自分に気づく。
「寝ちゃったのか……」
「ソファーではなくベッドでお休みになられた方がよろしいですよ」
「そうだね。今日は意外と疲れてたようだ。今、何時かな?」
「夜の9時過ぎたところです。お食事はどうされますか?」
「軽くでいいから、何かあるかなぁ?」
「ええ、夕食を温め直しますね。それと、報告があります。今大丈夫ですか?」
「ああ、目が覚めたから」
「昨夜の近藤商事の件ですが、光彦様の口座から100億、貴城院家の口座から100億、合計200億の振込が完了しました」
えっ……2本って言ってたから20億かと思ったが、桁がひとつ多い。
「20億かと思ったよ」
「近藤グループは関連企業も多いですし、その桁では子会社1社しか救えませんね。それで近藤グループのCEOである近藤喜三郎氏が今回の責任を受けて辞任するそうです。新たなCEOを光彦様に引き継いでほしいと言っております」
はあ!?何それ……
「昨夜言ったよね。近藤さんがいるから融資するって」
「ですので、近藤剛志さんは近藤商事の社長のままです。その上の会長職に光彦さんが就任されます」
くっ……これでは俺が望むのんびり平穏な生活がなくなってしまう。
「いや、なんで俺かな?嘉信叔父さんやお祖父さんでよくない?」
「いいえ、光彦様が資金を提供したのです。ですので、それは無理です」
何とかならないのか?
このままでは愛莉姉さんのように仕事漬けの生活を余儀なくされる。
「楓さん、就任しない良い方法はないかな?」
「申し訳ありません。光彦様が資金を提供しなければ今回の話はありませんでした。行為にはそれなりの責任が付き纏います。受けて頂くしか方法はありません」
「………嫌だって言ったら?」
「無理です。諦めて下さい」
ああああああ、どうしてこうなった!
確かに俺がお金を出したのが悪いのかあ。
嘉信叔父さんだって出してるはずだ。
なのに……もしかして、ハメられた?
「桜宮コンツェルンは、いくら出したの?」
「10億円だそうです」
「マジか〜〜俺ってハメられたのかな?」
「元々15歳の時に会社経営されるはずでしたので、ほんの少しだけ期間が遅くなっただけです」
「俺、近藤商事のこと何も知らないのだけど?」
「今回、光彦様がCEOに就任するにあたって近藤喜三郎氏からお話があるそうです。明日のお昼に会食をしながら話したいそうです。午前11時ごろ学校にお迎えに行きますので、その時までに資料を用意しておきます」
ああ、これ逃げれないやつだ……
この時、嘉信叔父さんとうちの祖父さんのニヤついた顔が頭に浮かんだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます