第41話 御曹司は少し興奮する


昼休み、地学準備室で角太の話を聞いたところ、蛇の行方は太平洋沖から消息を絶ち、その後東南アジアの海域でそれらしき大型の潜水艦を見かけたらしいのだが、蛇の組織の物かは確証はないらしい。


それより、ここ1週間の間に緑色した未確認の生命体に襲われる被害が各国で報告されているらしい。

国連も独自で調査隊を結成したようなので、日本にも調査対象国として来日する予定だと話があった。


「その未確認の生命体って何なの?」


「それが、情報が錯綜している状態でして、ある者は宇宙人だとか、ある者はゴブリンだとか話しているようです」


ゴ、ゴブリンだって〜〜キターーッ!!


「そうなんだ。ゴブリンなんだあ〜〜」


「若、まだゴブリンとは確定してません。それに何でそんなに嬉しそうなのですか?」


だって、ゴブリンだよ。

あのファンタジー世界の定番のモンスターだよ。


「教官、それって、日本でも被害が出てるんですか?」


涼華は、角太に問いかける。


「いや、今のところ未確認の生命体による被害はないようだ」


「それなのに調査隊が来るんですか?」


「どうも蛇絡みの件で調査するらしい。調査隊も蛇との関係を疑っているようだ」


日本で蛇が行動したのはつい最近の事だ。

調査するのに最もな理由だ。


「そうですか、では私達も話を聞かれるのですね」


「まあ、それは避けられないだろうな。別に隠す必要はないが何か有れば本部に連絡してくれ」


「はっ!了解しました。教官」


「如月、学校では先生だ。間違えるなよ。というわけなので、若も注意……若?顔がニヤけてますよ」


おっと、いけない。

ゴブリンと聞いて興奮してしまった。

実際被害に合った人がいるんだ。

不謹慎なのはわかってる。

でも‥‥自然と顔がニヤけるんだから仕方ないだろう?


「若は特に注意して下さいよ。巻き込まれる可能性が高いのですから。それに昨日のことを聞きましたよ。何で私がいない時におもしろ‥‥危険な事をしてるのですか!とにかく何かあれば直ぐに私を呼んで下さいね。絶対ですよ」


なんか必死になってる角太を見てると、ハブられて拗ねてる小さな子供を連想させるな。


「わかったよ。何かあれば角太を呼ぶから」


そういうと「絶対ですよ」と言いながら角太は部屋を出て行った。


うん、絶対角太は面白がってるな……間違いない。


「ねえ、光彦君、ゴブリンって血は緑色なのかしら」

「物語ではそういう話もあるみたいだね〜〜」

「斬ってみないとわからないわよね。うん」


涼華さんや、君も違う意味で俺と同じ楽しみなんだ。

剣士としては、動いてるものを斬りたいのだろうが、流石に人間を斬るわけにもいかないので、ゴブリンならって思ってそう。


ゴブリンか〜〜見てみたいなあ〜〜





都内にあるとある会社の事務所では、デスクに座った30代の女性がパソコンを見ながら、スマホで連絡を入れていた。


「社長、お呼びですか?」


入ってきたのは痩せている20代後半の男性だった。


「ああ、永福。呼び出したのは他でもない。この少女を何としても見つけ出してスカウトしろ!」


その女社長は、パソコン画面を呼び出した社員に向けた。


「へ〜〜今話題のミッチーですか。確かに美少女だし話題性もあります。ですが、うちみたいな貧乏事務所に来てくれますかね〜〜?」


社長はその言葉を聞いて、デスクの上にあった雑誌をその社員に投げつけた。


「痛っ、酷いじゃないですか、社長」


「煩い!確かにうちは貧乏事務所だ。独立したのは良いが引き抜いたモデルはどこかのボンボンに薬を使われて使い物にならなくなるし、そのおかげで評判も業界内では最悪になっている。それもこれも永福、お前がきちんとモデル達の教育をしてないからだ。きちんときめ細かに管理してればこんなことにはならなかったんだぞ」


「酷っ!全部僕のせいだというんですか?社長だって毎晩、お付き合いだと称して高いお酒を飲んでるのを知ってるんですよ。たまには僕にも飲ませて下さい」


「バカもの。本当に接待なんだぞ。テレビ局のいやらしいオッサンとか大手出版社のしつこい中年男を仕事の為と思って接待してるんだ。誰が好んでそんなおっさん達とお酒を飲まなきゃならないんだ。おかげで誘いを断る技術ばかり上がってしまった。本来ならこんな接待などする必要はないんだ。売れっ子がいれば問題なかったのに!」


「まあ、社長の貞操が守れて良かったですね。僕は興味ありませんけど」


「痛っ!」


女社長はさらに積んであった雑誌を投げつけた。


「とにかく、ミッチーを絶対スカウトしろ!これは社長命令だ」


「そんな〜〜社員が僕一人だからと言って横暴ですよ」


「煩い!この会社が潰れるかどうかの瀬戸際なんだぞ。男を見せろ!」


そう言われてなぜかズボンを脱ごうとする社員。


「痛っ!」


さらに雑誌が飛んできた。


「社長が男を見せろって言ったからそうしたのに」


「そういう意味じゃない!このバカものが」


狭い社長室の中は、この二人の怒鳴り声が溢れかえっていた。





ここは、東京都内の北方の区にある場末のスナックで、明美という女性が常連客に酒を注いでいた。


「どうですか、社長さん、最近の景気は?」


「う〜〜ん、どうもこうもないよ。ここら辺は職人がたくさんいたけど、今は製造は中国や東南アジアに持ってかれちゃったし、うちの六角ボルトも作る手間がかかるのに単価は安いからねえ。貧乏暇なしってやつさ」


「どこも景気悪いわよね〜〜この間、久しぶりに小脇さんが来たのよ。もう、工場を畳もうかと真剣に考えてたわ」


「へ〜〜でも小脇さんとこはドリル作ってたんじゃなかったかな。需要はあると思うんだけど」


「それがね、職人さん達が皆高齢でね、この先維持してくのが難しいみたいよ」


「そうなんだ。私のとこも同じだよ。若い人が育たなくてね。手に油はつくし汚れは落ちない。みんなやめてしまうんだよ。私達の時のように田舎から集団就職でこっちに来て、みんな必死で働いてた時代が懐かしいよ。まあ、田舎に残っても農作業を手伝うしかなかったから、働く場所があるだけ幸せだったのかもしれないねえ」


「時代だわね〜〜」


その時、スナックのドアが開いた。

珍しくスーツを来た一見さんのお客さんだ。


「あら、いらっしゃい。適当に空いてるとこに座っていいわよ」


すると、そのスーツの男性は、紙を取り出して明美に見せた。


「高田明美だな。貴様には拾得物横領、詐欺容疑で逮捕状が出ている。ちょっと、署まで来てもらうぞ」


「えっ、待ってよ!何かの間違いじゃないの?拾得物横領?詐欺罪?そんなの身に覚えがないわよ」


「そういう話は署で聞かせてもらう」


そう言ってスーツ姿の男性達は、明美に手錠をかけ連れて行かれた。





「やりーー!今日もついてたぜ!」


今日1日でパチンコで3万円稼いだその男は、同棲している女、明美のアパート近くまで来て、ふと不審な男達がいるのに気づいた。


「アレはマズいな……」


その男達を見た瞬間、危険を感じた男はアパートを素知らぬ顔で通りすぎていく。


案の定、振り返ると、その男達は明美の部屋のドアを叩いていた。


「ヤバいな。アレは警察か?明美の奴、何かしたのか?」


男の懐には数十万円という大金が入っている。

この間、リサイクルショップで鞄を売った代金とオークションで入金された金だ。


「しばらくほとぼりが冷めるまで、安いビジネスホテルにでも泊まるか」


男はそのまま駅の向かって歩き出した。





「わ〜〜すごい眺め。あの〜本当にここに住んで良いのですか?」


「ええ、光彦様からそう言われております」


昨夜はとても怖い思いをした。

見知らぬ男子が家の前を彷徨いてるし、部屋の外まで来てドアを叩く人もいた。


光彦様に助けを求めて直ぐに貴城院セキュリティーサービスの人達が駆けつけてくれて、豪華なホテルに案内された。


そして、今日、私はこのタワーマンションの最上階のひとつ下の階の部屋に案内される。


ここは光彦様用のお部屋らしいが、私に使って欲しいと言われたのだ。


「既に城戸さんの荷物は、全てこの部屋に運んでおります。今日から直ぐにお住みになれますよ」


貴城院セキュリティーサービスの若林さんがそう言うが、備え付けの家具やベッドまであって、私のワンルームで使ってた荷物はこの部屋の一番小さな部屋に入れてあるようだ。


「あの〜〜お家賃とかとてもじゃないですけど払える気がしないのですが……」


「その必要はありませんよ。光彦様の方で全て手続きは済んでいますから。所有者は城戸さんになってます。ただ、修繕積立金と管理費それと固定資産税他不動産取得税など全て光彦様がご負担してくれるそうです。ですので、何も心配しないでここにお住み下さい」


へっ……?

所有者が私?


「あの〜〜さっき所有者が私って聞こえたんですが、聞き間違いですよね?」


「いいえ、この部屋の所有者は、城戸さん名義になります。手続きに数週間要しますが、後ほど権利書が送られてくるはずです。それと、この階の隣の部屋なのですが、貴城院愛莉様のお部屋となっております。ここには忙しい時や気分を変えたい時にしか使わないようなので、実質空き家状態なのでお気軽にお使い下さい。それでは何かございましたら遠慮なく私かK・S・Sにご連絡下さい」


え〜〜愛莉社長のお部屋が隣なの〜〜〜!

う〜〜緊張する。

おしっこ漏れそう……


若林さんが帰ってすぐに、私はトイレに駆け込みながらスマホで美冬に電話をかけたのだった。

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