第38話 ルナの追跡と楓さんの怒り
「主人が怪しい……」
何故だか主人は午後の授業に出ず、どこかに行こうとしている。
これは、注意しなくては……
校門前でタクシーを拾うと言ったのに駅まで走っている。
ふむ、ふむ。ますます怪しい……
すると主人は駅近くの交差点で轢かれそうになっていたお婆さんを助けた。信号無視した車のナンバーを控えて、菅原の者に送信しておく。
「さすが、主人。お年寄りにも優しい。だけど、あの妙に馴れ馴れしい女は誰だ?チェックしておかないと……」
女性の写真を撮って、関係各所に見元紹介の手続きをしておく。
「主人に近づく不届きな女は排除しないと」
これは、貴城院の当主たる総督(貴城院宗貞様)から言われていることだ。『光彦に相応しくない女性が近づいてきたら排除せよ!』と、厳命されている。
「主人はモテるからなあ〜〜しかも天然入ってるし、鈍感系主人公を知らずのうちに演じてるし」
主人の最近の趣味であるラノベとかアニメを私も読んだり見たりしている。
確かに面白いがナ◯トほどではない。
うむ、主人が動き出した。
電車に乗りスマホをいじっている。
どこかに連絡を入れてるようだ。
すると、主人が向かった先は愛莉殿のところだったようだ。
会社の中に侵入するには容易いが、ここは向かいのマク◯ナルドで主人が出てくるまで待つとしよう。
大森ポテトとコーラを頼んで、窓際の席に座る。
うん、ここのはポテトの塩加減が絶妙だ。
待つこと数時間、やっと主人が愛莉殿の会社から出て来た。
いったい何をして来たのか気になる。
このまま真っ直ぐ家に帰るようで、電車に乗り込んで行った。
私も隣の車両の連結部分で主人の様子を伺う。
おや、主人はスマホを見ていない。
あれほど買ってもらった時は嬉しそうに眺めていたのに、もしかして充電切れ?
私のスマホで主人に電話をかけてみる。
お決まりの文句がスマホから聞こえてきた。
充電が切れてしまったようでありますな。
ふふふ、主人は暇そうにしてるでござる、ニンニン。
おや、主人が何かし出したぞ。
ふむふむ、盗撮犯を見つけたようでござるな。
あの程度なら拙者が出る場面はなさそうでありますな。
おや、中年サラリーマンが主人にやり過ぎだと文句を言ってる?
不届きな奴だ。
自分では何もしないくせに、口だけは一人前に喋り出す。
このような輩は、死あるのみ。
一応、関係者の写真を撮って関係各所に見元紹介を依頼する。すると、助けたはずの女子高生が意外な事を言い出した。
「あの女怪しいでござるな。あの制服の高校はこの電車を利用しないはず。この時間にこの電車に乗ってるのは不自然でござる。きっとどこかで油ぎった中年男性に股を開いてきたのであろう。清楚な雰囲気を出してるが、おそらくヤリマン女に違いないでござる」
主人の好意を台無しにする股の緩い女など生かしておく道理はない。
主人は男を拘束して電車を降りた。私も気づかれないように電車を降りる。
ふむふむ、駆けつけた駅員さんが来たようでござるな。
この後は警察に届けるはず。
楓殿に連絡を入れて迎えの準備をしないと。
私はスマホで関係各所に連絡を入れる。
既にいろいろな情報が私のスマホに送信されている。
それを流れ読みしながら、主人が向かった駅舎の近くで待機するのだった。
◆
「今日は最悪……」
私はいつものアカウントで相手を探していたら、良さそうなおじさんが引っ掛かった。
このご時世で5万も出す上客はなかなかいない。
待ち合わせの場所に行き、目当てのおじさんを待っていると腹の出たおじさんが声をかけてきた。
「もしかして、ウララちゃんかな?」
「そうです。え〜と、おじさんがあんころ餅男さんですか?」
「うん、そうだよ。ウララちゃん、写真よりすっごく可愛いね〜〜」
「ありがとうございます」
「じゃあ、行こうか」
初めはまともそうな人だと思ったけど、行為が終わった後、いきなり値切られた。その理由がゆるゆるだからだと!ふざけんな!
自分のが小さいのを人のせいにするなんてセコくて汚らしい親父め!
5万もらえるって思ったから付けないでやらせてやったのに、結局3万しか出さなかった。あのクソ親父!
上客だと思って午後の授業ふけてきたのに最悪だよ。
そして、帰りの電車で盗撮されたらしくって、陰気な男が正義感振りかざして盗撮魔を捕まえたのは良いけど、警察まで行くことになったら両親に言い訳できないし、迷惑なのよ。
まあ、イケメンなら許してあげるけど、陰キャのくせに一丁前にカッコつけて馬鹿みたい。
パンツを撮られたことには腹が立つけど、事態をあんまり大きくしてもらっては困るんだよね。
途中であの陰キャと盗撮魔は降りたけど、本当迷惑だわ。
いっそ死んでほしい。
「はあ〜〜本当最悪な日だわ」
◇
「はあ〜〜本当最悪だ」
駅舎で捕まえた男は、スマホのロックを外さないし、警察が来て警察署まで俺も連れて行かれた。
結局、警察官の元でスマホのロックを外すことになったら、出るわ出るわ女性の盗撮写真が……
それで、俺は警察官に褒められもせず、ほぼ軟禁状態の取り調べ室でまるで犯人扱いされてしまった。
確かにスマホを取り上げたが、証拠が消されたらどうするつもりなのか、こっちが聞きたい。
拘束した男のスマホから多くの証拠が出てきたので、それ以上のことはされなかったが、危ないことはしないようにと厳重注意され、おまけに『余計な仕事を増やしやがって』と聞き捨てならないことも言い出すしまつ。
「あ〜〜本当最悪」
そこに、楓さんが迎えにやってきた。
「悪いね、こんなところまで来てもらって」
「問題ありません。光彦様、お怪我とかありませんか?」
「大丈夫だよ。警察官に注意されたし今度は少し気をつけるよ」
「光彦様、どの警察官に何を注意されたのですか?こちらとしては、きちんと状況を把握しています。何故、光彦様が注意される必要があるのですか?」
いかん、楓さんが怒ってる。
状況を把握っておそらくルナだな。
俺のあとを付けてるのは知ってたけど、楓さんが暴走すればここの警察署は終わる。
「楓さん、俺は大丈夫だからもう行こう。早く楓さんの料理が食べたいし」
「ですが、このままというわけには……」
「今回の件は俺も勉強になったし、これからは無茶はしないよ」
「いいえ、光彦様はやりたいことをお好きなようにされて下さい。ですが、危険な真似や悪事はいけませんよ」
「わかってる。そうするよ」
すると、楓さんは少し穏やかな顔になった。
纏っているオーラも落ち着いてるようだ。
そもそも、このオーラが見えるのなら特定の人物ではなく全ての人のが見えれば今回のようなことは起きなかったはずだ。
すると、そこに俺を尋問した少し意地悪そうな警察官が俺達の話を聞いていたのか、口を挟んできた。
「小僧は随分と甘やかされているようだな。そんなんじゃろくな大人にならねえな〜〜」
あ〜〜終わった……
楓さんは、その警察官に思いっきり蹴りを入れた。
壁の端まで吹き飛び警察官。
それを聞きつけた多くの警察官が集まって来た。
「なんだ!何があった?」
俺達の周りを囲む警察官達。
そこにここの署長と思われる人物がやってきた。
「これはどういう状況だ?」
「貴方が、ここの責任者ですか?」
「そうだが、そこに横たわっている警察官をやったのはお前達か?」
「このお方に失礼な事を言ったので蹴り飛ばしただけです」
「はあ?それは公務執行妨害だぞ。こいつらを確保しろ!」
その署長がそう言うと警察官は俺達の周りを取り囲んだ。
そこに一本の電話がかかった。
電話にでた府警さんが慌てて署長を呼んでいる。
署長がその電話に出ると、
「はい、……………………」
その間、俺達を捕まえようとしていた警察官達は楓さんによって床に転がされている。銃を取り出して『撃つぞ!』と威嚇している者もいる。
『やめろーー!!』と、大声を上げて、顔を真っ青にした署長がやってきていきなり土下座された。
「こ、この度はうちの署員が無礼を働きまして申し訳ありません」
土下座している署長を見て、他の警察官達や事務員達は呆気に取られている。
「よく確かめもせず、良い事を行った光彦様にこのような仕打ちをした者達を許せと?」
「何かの手違いです。何とぞ寛大な処置を……」
「署長、何を言ってるのですか、れっきとした公務執行妨害です。早く逮捕しないと」
拳銃を俺達に向けたまま、空気を読めない警察官が署長に苦言をいう。
だが、署長は、頭を下げたまま震えているだけだった。
「貴方、名前は?」
楓さん、拳銃を向けている警察官に向かって問いかける。
「何を偉そうに言ってんだ。この女は?」
「じゃあ、その名無しの権兵衛さんは光彦様に拳銃を向けた罪で死んでもらいましょう。それと、ここにいる人達もただでは済まないと思いなさい!」
警察署の上からヘリコプターの音が聞こえ出しだんだんとその音が大きくなる。
そして、そのヘリコプターから何人ものエージェントがロープを伝って降りてきてこの警察署に入り込んだ。
次々と拘束されていく警察官達。
発砲する者達もいたが、みんな取り押さえられて警察署の前にいつの間にか止めてあった大型のトラックに警察官達は押し込まれていった。
未だ土下座したままの署長はブルブル震えながら失禁までしている。
そんな署長の前で楓さんは、
「貴方の罪は何ですか?」
「は、はい、よく調べもせずに状況だけで判断した事です」
「いいえ、貴方の罪は怠惰です。部下の教育を怠った罪。警察官は偉いのだと勘違いして権力に胡座をかいた罪。それら怠惰の罪によって光彦様に無礼を働いたことは許せません。死ぬか生きるかここで選びなさい」
「生きます。死にたくありません。家族がいるんです。どうか生かせて下さい」
このままでは、この署長さんが……楓さんを止めないと……
「楓さん、もう十分だよ。帰ろう」
「光彦様がそう言うのなら、ですが、こんな警察署はいりませんね」
楓さんが手を上げてどこかに合図している。
マズい、このままだと……
「楓さん、ほら署長さんも早く」
俺は動けなくなった署長を抱えて警察署を飛び出した。
勿論、楓さんも一緒だが、『そんな豚など焼き豚にしてしまった方が社会の為です』とか言ってる。
建物から離れた場所で抱えていた署長を下すと同時に、天から光の柱が降り立った。
大きな爆音と共にコンクリートでできた建物は一瞬で瓦礫に変わった。
「ああ、警察署が……」
署長さんは、震えながらその光景を見ている。
そして、サングラスをかけたエージェント達がその署長を両脇に抱えて連れ去って行った。
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