第35話 御曹司は激おこ?


今朝の目覚めは最悪だった。

原因は、あの公園の件だ。


女の子の死因をイジメや虐待などを疑っていた俺は、うっかり茂みに隠れる赤黒いオーラを見過ごしてしまったのだ。


涼華が話し終えて帰ってきて話を聞いた時に気づいたがもう遅かった。


やはり、この能力はクソだ。

自分と関係のない第三者がどうなろうと知ったことではない。

だが、わかってしまったら、もうそれは関係してるのと同義なんじゃないか?


神は何故俺にこんな能力を授けたんだ。

俺に何をさせようとしてるのか?


危険な状態を見過ごしてしまった結果が、今朝の目覚めの憂鬱さだ。


「はあ〜…しんど」


大きな溜息を吐くと、いきなり部屋のドアが開いた。


「おは〜〜、ミッチー起きてる?」


朝からハイテンションをかます美幸さんは、俺とは逆に絶好調のようだ。


「おはよう、てか、いきなり入ってくるのはマズいだろう?」


「はは、ツッコミウケる〜〜、て、ミッチーって白髪だったんだね〜〜絶対、そっちの方がいいよ。でも、何でジミ変するの?」


ジミ変より陰キャと言ってほしい。


「いろいろあるんだよ。そっちこそ何でメイド服なんだ?これから制服に着替えるの面倒だろう?」


「楓さんが貸してくれたんだ。マジ、サンキューって感じ。それより、早く起きなよ。今朝はママの手作りだよ。ママ、給食センターに勤めてたから飯ウマは保証するよ」


「そうか、着替えるから出てってくれよ」


「手伝おうか〜〜ウシシ」


「お構いなく、ひとりできます」


「何だ、残念」と、言って美幸さんは部屋を出て行った。


毎朝、このテンションはキツいなあ。

まあ、明るくなった美幸さんを見るのは良いけど……


俺は、癒しを求めて窓辺に置いてある盆栽を見つめる。


あれ、鉢が増えてる???


よく見ると鉢の中に緑色の苔が植えてある。


木葉、いつの間に……


俺はその苔を見ながら、苔も悪くないなと少し思ったりした。





登校するに俺は気づいてしまった。

涼華、木葉、美幸さん、そして俺。


女子の中の俺ひとりって、疎外感半端ない。


女性達は、俺の後ろで楽しそうにおしゃべりしながら歩いている。

話題はネット・ライジング社の件やこの近くで起こった殺人事件。

そんなニュースの話題をきっかけに化粧品のことやファッション関係のことなど話題は尽きないようだ。


主に美幸さん主導で会話が流れている。


まあ、木葉はいつも言葉が少ないから相槌したりするだけだが。


そんな楽しそうな彼女達に爆弾を落としてやろう、ウシシ……


「今日、実力テストがあるのわかってるの?」


「知ってるけどそれがどうしたの?」by涼華

「パス……」by 木葉

「よゆ〜〜しょ!」by美幸


えっ、そんな反応なの?

恐るべし、普通の学生……


「そういう光彦君はどうなの?」

「まあ、特に何もしてないよ」


実は夜寝る前に、復習していた。

普通、するよね?


結局、俺の落とした爆弾は不発弾に終わってしまった。





教室に入り、しばらくすると、血相を変えて山川君が登校するなり俺の席に近づいて来た。


「ねえ、水瀬君。知ってる?」

「実力テストのこと?」

「違うよ。今掲示板とSNSで話題になってるアレだよ」


アレと言われても……???


「もう、これだよ。見てよ」


山川君は自分のスマホを操作してとあるオークションサイトを開いた。

そこに出品されていたのは……


「マジかよ!!」


「水瀬君、声大きいよ!」


クラスメイトがまたか、という目でこちらを見ている。


そんな事より、これは一大事だ。

何せ『ニート転生〜異世界行ったらマジやるっきゃない〜』の作者様のサイン色紙が出店されていたからだ。

しかも、作者のサインの脇に『ミツ子さんへ』と書かれている。


これ、俺のサイン色紙やんけ〜〜

誰だあああ、警察に届けないで出品した奴は!!!


「凄いよね〜価格が186600円で落札されたんだよ。しかも、そのサイン、僕と一緒に写真撮ったあの超美人さんのだよ。同志かと思ったら転売目的の人だったんだね。ガッカリだよ」


ガッカリなのはこちらの方ですが、何か?

これ、もう終了してるから今更入札できないよね。

どうしよう?


「それよりも、作者さんの「呟いたー」のコメントが問題なんだよ」


作者の「呟いたー」を山川君に見せてもらった。


『僕の作品が転売されてるようですが、非常に残念です。このようなことがあるのならこの先サイン会はもうしないです』


「ほら、添付されてる写真にオークションの写真が掲載されているでしょう。作者さん、激おこみたいなんだ」


激おこなのは俺ですけど、何か?


マジ、許せない!

俺の大事なサインをーー!!


それにしても作者様に誤解されたままなのは嫌だ。

どうにかして誤解を解かないと。


「それで掲示板で出品者が何処の誰だか特定班が探してるんだよ。あの超美人さんの情報も募ってるみたいなんだ」


「…………」


「それでね、出品者はあの美人さんじゃ無いって話もあるんだよ。どうも入札するにあたって出品者に質問を入れた人がいたんだけど、その返答が男の口調で書かれてたって話なんだ」


「…………ねえ、山川君」


「どうしたらそのサイン色紙を取り戻せるかな?」

「取り戻す!?」

「間違えた。そのサイン色紙が欲しいのでどうにかして買えないかな?」

「う〜〜ん、僕もオークションは詳しくないので何とも言えないけど運営に相談してみるとか?」

「それだ!」


俺はそのオークションサイトの運営会社にメールを送ったのだった。





「よしっ!」


最近の俺はついてる。

やっと時代が俺に追いついてきた感じだ。


この間拾ったバッグをリサイクルショップに持ち込んだら何と20万という大金を手に入れた。

肩紐が切れてたんで、二束三文しかならないと思ったがラッキーだったぜ。

それにリサイクルショップの店員が中に入ってたサインを見て『これはオークションの方が高くなりますよ』と、気前の良い兄ちゃんが教えてくれた。


家に帰り明美のパソコンでオークションに出品したらアレよアレよと値段が上がって186600円という値段がついた。


元はただの字の書かれた紙切れなのによ〜〜マジついてるぜ。


この資金で大穴の馬券を買えば、数千万、いや数億になるかも知れねえ。

俺は競馬新聞を手に取り、今週土曜日に行われるG1桜花賞に狙いを定めた。


今の俺なら、3連単も夢じゃねえ!

やってやるぜ!


俺は、缶ビールを飲み干して煙草に火をつけた。





「砂川さん、何で埼玉くんだりまで来なくちゃいけないのですか?」


「我儘言うな!埼玉県警の奴ら新人歓迎会でノロウィルスに罹っちまったんだからしょうがないねえだろう」


「普通、同県の警察署員に応援を頼みませんか?それに私は歓迎会してもらってません。できれば、フランス料理‥‥イタリア料理でもいいです」


「この間、おでん奢ってやっただろう。それに警視庁で今仕事ねえのは俺とキララだけだ。バラバラ事件は公安預かりになっちまったし、こっちのバラバラ事件もバラバラ繋がりで上から言われたんだよ」


「岡泉ですってば!それよりバラバラバラバラ煩いです。運転中なので静かにして下さい」


『ボカッ』『痛っ!』


「何で殴るんですか!今度こそパワハラアンドセクハラダブルパンチで課長に報告しますからね!」


「カタカナ多いな!読みずれえだろう?」

「は!?何言ってるのか理解できません」


「まあ、こっちの話だ。それで埼玉さんのところの犯人は小学6年生って話じゃねえか。終わってんな、日本」


「勝手に終わらせないで下さい。私はやっと運命の人に出会えたんですから。連絡がもうすぐくるはずです」


「いつもスマホ握りしめて何やってんだよって思ってたら連絡待ちだったのかよ。まあ、くるといいな」


「ええ、まるで天使のような男性でした……」


「天使って、普通女性のイメージじゃねえか?」


「それは男性目線だからです。天使はイケメン男性と決まってるんです」


「決まってねえだろう。それより、信号赤だぞ!」


「大丈夫です。変わりめだったので余裕です!」


『ボカッ!』『痛っ』


「もう、殴るの勘弁してください。頭の形が悪くなったらモテなくなります」


「そんな事より、警察官が信号無視しちゃダメだろう?それにスピード出し過ぎだ。もう一度教習所からやり直せ!」


それから女性刑事の運転する車は、法定速度で走るようになった。

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