第34話 運命を変えた未来は……


復帰した涼華と共に家に帰る途中、木葉と会った公園で真っ黒なオーラに包まれた少女を見つけてしまった。

その少女は、ひとりでブランコに乗りゆっくり揺られている。


そういえば木葉は、美幸さんが退院してくると知っていた為、学校終わって一目散に家に帰ったようだ。涼華との話し合いがあるから、俺達が遅くなると考えたのだろう。


「どうしたものか……」


俺が公園で立ち止まって、その子のことを考えていると、涼華は不思議そうな顔して『どうしたの?』と、聞いて来た。


「あそこでブランコして遊んでる女の子がいるだろう。声をかけようか迷ってたんだ。変質者と間違われても困るし、もし誰かに見つかって通報されでもしたら言い訳も考えつかないし、どうしたものか……」


「光彦君ってロ、ロリコンだったの?」


涼華は、肩に背負ってるバッグを開けようとしている。


「ま、待てよ。落ち着くんだ涼華」


こんなところで日本刀を出されて斬りかかられたりしたら、今度はその件ですが通報されてしまう。


涼華には、俺の能力のことは知らない。

まあ、言うつもりもないけどね。


そうか、涼華がいたんだ。


「涼華、あの女の子に声をかけてみてくれ。きっと何か困ってるだろうし」


涼華は、俺の顔をこれでもかと言う感じで睨むように見つめている。


「わかった。理由はわからないけど光彦君は気になるのね?」


「まあ、そう言うことだ」


涼華は、今度はやれやれといった感じでその女の子のところに行き、声をかけて何か話し込んでいた。


俺は出入り口付近にあるベンチでその様子を伺っていた。


今夜か明日って感じの黒さだよなあ〜〜


どうみても女の子の纏っている黒いオーラは、確実に死を宣告している。

涼華との話を聞かないとわからないが、このまま見過ごしても目覚めが悪いし、きっと後悔してしまうだろう。


涼華とその女の子が話し始めて少し経つと、その女の子の黒いオーラは段々と薄くなり、そして最後には霧散していった。


「え〜〜こんなケースは初めてだ……」


涼華と話して未来が変わったのか?


すると、公園の別の入り口から同級生と思われる女の子が現れた。

どうやら、この公園で待ち合わせをしてたらしい。


ブランコに乗っていた女の子はその子と一緒に涼華に手を振りながらどこかに行ってしまった。


涼華が俺のところにやって来て


「光彦君、あの子美香ちゃんって言うのだけど、これからお友達とピアノ教室に行くみたいよ。特におかしなところは無かったわ」


「そうだね。涼華に頼んで正解だったよ」


「えっ、どういうこと?」


「いや、なんでもない。帰ろうか」


未来が変わる‥‥それは俺も体験したばかりのことだ。

あのまま、見過ごしていたら小さな命は消えてた。

だが、ひとつ疑問がある。


何故黒いオーラが消えたかだ。


俺は、周囲を見渡し違和感に気づいた。

先程まで感じていた人の気配が消えていたのだ。

目視はしてないが、恐らく涼華が現れたことによって目的を果たせなくなったのだろう。


そういうことか……


このままでは、終わらないかもな。





家に帰ると木崎家の人々がいて、リビングには手作りのパーティー装飾がなされていた。


「光彦さんですね。私は美幸の母で浩子と申します。この度は、美幸を助けてくれたばかりでなく、私達親子に親切にして下さってありがとうございます。なんとお礼を申して良いか言葉にできませんが、誠心誠意頑張らせてもらいます」


そう美幸さんの母親にお礼を言われてしまった。


「こちらこそ、よろしくお願いします。それで、引っ越しは終わりましたか?」


「はい、荷物は元々少なかったので業者の方も楽そうでした」


自虐気味の言葉に、返す言葉を探していると


「ミッチー、いろいろありがと」


美幸さんが木葉と一緒にやって来た。


「おい、ミッチーは勘弁してくれ」

「だって、ミッチーはミッチーでしょう?」


この呼び名が定着するのか?


「呼び名はともかく、身体は大丈夫?」

「うん、もう平気」

「そうか、学校には盲腸ってことになってるから、無理はするなよ」

「うん、いろいろ助かる」


美幸さんは、前より少ししおらしくなったようだ。


「あ〜〜光彦お兄ちゃんだあ〜〜」


そこに和樹君がやってきた。


「おー和樹君。大輝先輩と野球したんだって?」

「うん、面白かった」


うん、うん、可愛いなあ〜〜


「さあ、そろそろ始めますよ」


楓さんがそういうとみんなは準備の為に忙しく動き回り始めた。

でも、食事の用意はできてるようで、テーブルに料理を並べるだけなのだが。


人数も増えて賑やかになりそうだ。


パーティーは遅くまで続き、盛り上がって解散となる。

つけてたテレビを見て、俺は驚いた。


まさか、こんな形で……


運命は悪戯好きの妖精のように悪と認識できない行為を平気でするものらしい。





今日は、絶好のカモを見つけた。

公園でひとりでいる女の子だ。

兼ねてから頭に描いていた実験を試せる。


茂みの中に隠れて様子を伺っていると、高校生らしきカップルの女の方が、僕が目をつけた女の子に話しかけ始めた。


「クソッ、これじゃあ、実行できないじゃないか!」


それでも様子を伺っていると、なかなか話を終える気配がない。

僕はイライラしながら成り行きを見守っていた。

ふと足元にカードゲーム用のカードが落ちていた。


「へ〜〜そういえば教室で誰かがこんなのをやってたな」


僕はそのカードをポケットにしまって、また様子を見る。


「ダメだ。ケチがついた。今日は帰るか」


僕は、そっと茂みを抜け出して家に帰った。


「ただいま」


「おかえり、遅かったわね。手を洗ってうがいしてからお勉強を始めるのよ。後で部屋にオヤツを持っていくわ」


うるさいママだ。

こいつは僕の成績にしか興味はない。

パパのような立派な医者になりなさいと、事あるごとに言われている。


ははは、当たり前じゃないか。

僕はパパ以上の医者になってやる。


だから、今日実験ができなかったことが悔しい。

本からの知識だけでは、身体の構造などわからない。


腹を切り裂いて、中身を見なくちゃいけない。

頭を割って脳みそがどんな感じなのか確かめなければいけない。

身体を切ると、どんな風に血が出るのか見なければいけない。


僕は立派な医者になって多くの人を救う英雄になるんだ。

だから、僕の犠牲者に選ばれることは光栄なことなんだ。


自分の部屋に戻って教科書を開く。

見慣れた数式をパズルを解くように答えを導く。

もう、中学の問題も簡単に解ける。


そうだ、僕は天才なんだ。

英雄になるんだ。

だから、早く実験をしなければいけない。


「蒼都ちゃん、おやつですよ」


「そこ置いといて」


「わかったわ。それと蒼都ちゃん、これは何かしら?」


勉強してたら、ポケットにしまったカードが床に落ちてたようだ。


「公園で拾ったんだよ」


「ウソおっしゃい!そんな都合よくカードが落ちてるわけないでしょう?蒼都ちゃんは立派な医者にならないといけないの。こんな物で遊んでる隙はないのよ!どこの誰よりも勉強しないといけないの。わかるでしょう?だから、どこでこれを買って遊んでいたのか正直に答えなさい」


「うるさいなあ!本当に公園で拾ったんだよ。勉強の邪魔だから出て行って」


「そんなはずはないと言ってるでしょう。だから……………」


うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!


僕は引き出しに入れてあったカッターナイフを取り出した。


その後のことはよく覚えていない。


だけど、身近なところに実験材料があったのだと気付けて良かった。

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