第26話 御曹司達の戦い(1)
如月涼華 VS 赤い服の女(蛇)
涼華は、鞘から剣を抜く。
その剣先を赤い服の女に向けた。
「あらあら、古風な武器を使うのね」
「貴女の組織は、誰の命令を受けてるの?」
「じゃあ、小娘さんはなんでそんな物を持っているのかしら?」
「聞いても無駄ってことね、オバさん」
「ふふふ、ははは〜。気に入ったわ貴女。特別にこれで相手してあげるわ」
赤い女が取り出したのは、丸く整えられた鞭だった。
それを解くと、床に『ビシンッ』と、打ち付ける。
打ち付けられた床は、凹みコクリートの破片が周囲に飛び散った。
涼華は、握っていた柄に力を込めた。
◇
貴城院光彦 霧峰桜子 VS 眼鏡の優男(蛇) ?
「涼華は、大丈夫か?」
「ボン、護衛官ならばやらねばならぬ時がある。見たところ相手の女も相当な手練れだ。良い勝負じゃろう」
「それより、いつまで逃げてるのさ」
「相手が飛び道具なのじゃ、仕方があるまい」
俺は婆さんの車椅子を押しながら屋上をはしりまわっていた。
眼鏡の優男が取り出したのは、スナイパー用のライフル銃。
銃弾が、時折間近を掠める。
「ほら、ボン、左じゃ」
婆さんのいう通り、左に舵を取ると、俺達の居た場所に銃弾が走った。
この婆さん、予知能力でもあるのか?
「取り敢えず、あそこに身を隠すぞ」
目の前には大型の室外機が置かれてある。
確かに身を隠すのには良いが、ヘリまで距離があり銃弾を避けながら近づくには適さない場所だ。
大型の室外機に身を隠すと、銃声は止んだ。
眼鏡の優男は、ヘリの手前におり動こうとしていない。
「ボンは銃弾が恐ろしくないのか?」
「一度撃たれて意識不明になってるけど、それがトラウマにはなってないみたいだ。今日、気づいたけど」
「ふむ、では、大丈夫そうじゃのう、ボン1人で特攻じゃ」
婆さん、俺の護衛官だよね?
それ、おかしくね?
「まあ、ヘリまで行かないと美鈴ちゃん達が心配だし、行けって言われたら行くけどさあ〜〜」
「文句を言うな、みみっちいことにうるさい男はモテんぞ」
婆さんに何言っても無駄そうだ。
角太は、大丈夫だろうけど、涼華は心配だ。
ケリをつけるにも早い方がいい。
「わかったよ。死んだら化けてでるからな」
「幽霊とお茶を飲むのも悪くは無いわい」
そして、その場からヘリに向かおうとした時、室外機の上から声がかかった。
「見つけた、お兄さんとお婆さん。かくれんぼならお終いだよ」
そこには、人形を抱いた少女が立っていた。
◇
菅原月菜(ルナ) 霧峰美里 人質救出作戦
「ヘリコプターの中には、運転手、美鈴様、智恵さん、近藤家のご令嬢がいますね」
「それぐらいわかってたでござる、ニンニン」
「だから、ルナ!その馬鹿みたいな喋りやめろと前から言ってるだろう?」
「ふふふ、羨ましいでござるか?拙者は本物の忍び、忍びたる者このキャラに憧れないはずはないでござるしな〜〜」
「全然、羨ましくなんかないわ!それより、どうする?」
「どうするもくそもない。主人の期待に応えて頭ナデナデの褒美をもらうまで」
「それなら私だって美鈴様から、その〜〜ご褒美を……」
「美里、キモ」
主人から言われた美鈴様奪還の任務。
意外にも囚われた人が多い。
今の私では気づかれずに救えるのは1人だけ。
美里は忍びの一族でも表の霧峰。
武術は優れているが、気配を消すのはそれほど上手くはない。
「とにかく、美鈴様と智恵さんは保護しないと。こうなったのも私がトイレに行ってたせいだし」
「では、余力があれば近藤家のご令嬢を、という判断で参るか」
こうして表の霧峰と裏の菅原は、一時的に連携を組むのであった。
◇
権藤 角太 VS スキンヘッドの男(蛇)
『おら、おら、おら〜〜!なんだ、でかい口叩いて避けてばっかか?』
スキンヘッドの男は、ナイフで角太を攻撃する。
しかし、角太はその攻撃を全て避けていた。
『ハゲのナイフってのは滑るようだな。攻撃が全然当たらんわ』
『殺す、お前が俺をハゲと言った分だけ斬り裂いてやる』
『多分、滑るから無理だぞ。お前、ツルツルだし』
頭に血が上ったスキンヘッドの攻撃は苛烈さを増していく。
今まで当たらなかったナイフは、角太の服を斬り裂いていった。
そんな角太は冷静に相手の行動を見ていた。
言うだけあって力技だけではなく技術も高い。
だが、付け入る隙はある。
スキンヘッドの男はただナイフを突き出しているわけではなかった。
突き出したナイフを引くときにその軌道を変えて相手の隙を窺っていたようだ。
角太が負った傷はその引き際の付けられた傷が多い。
『ほら、そろそろくたばりそうだぞ、泣いても許してはやらねえ〜けどな』
『ぬかせ!お前は技術は高そうだが、欠点がある」
『あははは、俺に欠点だと?笑わせてくれるぜ』
角太は、引くときに変える軌道を予測してナイフを持つ手に蹴りを放つ。
しかし、その蹴りは薄皮一枚掠っただけだった。
『おお、少しはマシな攻撃ができるじゃねえか』
『お前の欠点はその減らず口をたたくことだ!』
角太は、受けに回っていた防御を攻撃に転換した。
繰り出される拳と蹴りは、スキンヘッドの男に少なくない傷を負わせている。
『この野郎!』
その時、エレベーターのドアが開く。
角太は、中に見慣れた連中がいるのを確認する。
「権藤本部長!」
「こいつは蛇の1人だ。油断するな」
貴城院セキュリティーサービス。通称、K・S・S面々達だ。
「峯坂、神楽、お前達は、エレベーター前で待機。他の者は屋上に行くぞ」
30歳前後の好青年が、連れてきた者達に指示を出し。
『クソ、蠅どもめ。ブンブンと集まって来やがって!』
スキンヘッドの男は、後方に勢いよく下り角太と距離をとって懐に手を入れた。
取り出したのは手榴弾。
ピンを抜いてK・S・Sのいる場所の近くに投げた。
『またな!クソ野郎ども』
そう言葉を残して非常階段のドアを閉めた。
その後直ぐにエレベーターホールでは、大きな破壊音が炸裂した。
◆
「うわ〜〜沁みるなあ〜〜」
警視庁の刑事である砂川朔太郎は、今年入った新人岡泉綺羅楽を連れて屋台でおでんを摘んでいた。
「砂川さん、まだ就業時間内ですよ。おでん食べてて怒られませんか?」
「なあ、キララ。俺達は昼飯食ったか?」
「岡泉です。いいえ、食べてません」
「そう言うことだ。これは昼飯なんだよ。そう言うことで親父、一杯くれ。ぬる燗でな」
「店主さん、今のはキャンセルで。おでんはともかくお酒はダメです。規則違反です」
屋台の店主は、酒の一升瓶を脇に置いた。
「何、このまま食ってれば直ぐに5時になる。少しぐらい構わないだろう?」
今日の合同会議で、先日のバラバラ事件が公安預かりとなった為、捜査を進めていた砂川は、事件に関われなくなり少し荒れているようだ。
「それにしても、何で公安が出張ってくるかね〜?」
「公安が出てくるほどの組織が関係してるんじゃないですか。店主さん、大根追加で」
「おい、キララ。お前は悔しくてないのか?」
「岡泉です。勿論、悔しいですよ。この間大学の友人から結婚式の招待状をもらったんですよ。どこで、式を挙げると思いますか?そうです!目の前に立ちそびえるホテルですよ。こちとら、泊まる時間も相手もいないってのにやってられませんよ」
岡泉綺羅楽もいろいろストレスを抱えているようだ。
『ボカッ』「痛っ」
「だから、何でキララの結婚事情をここで話さなければならない。俺が言ってるのは事件のことだよ!」
「痛いです。パワハラ反対です。それと岡泉です。でも、それを言うなら所轄の人達の方が悔しいと思いますよ」
「まあ、確かにそうだが、俺は納得できねえ〜〜」
「私も納得できません。裕子がこんな素敵なホテルで結婚するなんて」
「だから、そう言うこと……」
砂川は、ホテルの方から発砲音を聞いた気がした。
「おい、今の音が聞こえたか?」
「あ〜〜羨ましい。いっそ、裕子諸共拳銃で撃ち殺しますか」
「キララ、お前闇深すぎだろう。そうじゃなくて、ホテルの方から発砲音が聞こえたんだが、キララには聞こえたか?」
「だから、岡泉ですって!発砲音ですか?どこかの馬鹿ップルの結婚式でクラッカーでも鳴らしてるんじゃないですか?」
「そんな音がここまで響いてくるはずはないだろう。おい、行くぞ。俺は気になったら調べないと気がすまないタチでな」
「あ〜〜あ、おでんもろくに食べれないなんて私転職しようかな?」
テーブルを挟んで会話する親子ほどの男女の会話を聞いて、おでんの屋台の店主は、脇に置いた酒を棚に戻したのだった。
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