第23話 御曹司の家族と再会


車に乗り、これからの予定を頭の中で再考する。

まず、パーティーに行く。

ひと通りの挨拶を済ませてから、ホテルの部屋に直行。

そこでウェッグと伊達眼鏡をつけてから、サイン会に向かう。

移動はタクシーだ。

車なら10〜20分でサイン会のある書店に着くはずだ。


そこでサインをもらい、待たせてあるタクシーでパーティー会場に戻る。

パーティーでいなくなってた時間は1時間。

どうにか誤魔化せるだろう。


パーティー会場は俺は誕生日パーティーを開いたホテルだった。

このホテルは、貴城院の子会社が経営するホテルであり、全国展開もしている。


車をロビーにつけると、ホテルのドアマンが車のドアを開けてくれる。

角太は、トランクを開けて車椅子を桜子婆さんのために用意していた。

車の鍵をドアマンに渡して、ホテルのロビーに入ると既に見知った顔がチラホラとロビーで談話していた。


すると、満面の笑みを浮かべて何人もの人が俺の前に現れる。


「光彦さん、お久しぶりです」

「ええ、こちらこそ、先日の私のパーティーにお越し頂きましてありがとうございます」


恰幅の良いこの紳士は、貴城院グループの経営すると子会社の社長だ。


「光彦様、この間のパーティーは素敵でしたわ。今回も素敵なスーツですわね」

「これは奥様、お綺麗なのは相変わらずですね。そのドレスも素敵です。とてもよくお似合いですよ」


この女性は先程の紳士の奥さんだったはず。

うん、間違いない。


こんな状況は前はいつものことだったので特に気にしてはいない。

疲れるけど……


ひと通りの挨拶を終えて、一旦ホテルの部屋に入る。

勿論、VIP専用の最上階にある一室だ。

隣の部屋は、おそらく母さん達の部屋だろう。


部屋に入って少し休んでから、隣の部屋のドアをノックする。


「光彦です」

「えっ、お兄様?」


ドアを開けて出てきたのは、俺の妹の可憐だ。

淡いブロンドの髪が綺麗に整えられている。

しばらく会えなかった可憐は、随分と綺麗になったものだ


「可憐、綺麗になったなあ。お兄ちゃん、見惚れちゃったよ」

「わ〜〜っ、お兄様、お兄様だあ。可憐ずっとずっと会いたかったです」


うん、うん、いくつになっても妹は可愛いねぇ〜〜


「光彦、中に入りなさい。ドアのところでお話はできないでしょう?」


そう言ったのは、俺の母親、貴城院クリスティーナだ。


「母さんお久しぶりです。お元気そうで何よりです」

「あら、光彦は大人ぶっちゃって、おかしいわね」


母親の部屋に入って待機していた護衛官と侍女の方に挨拶をする。

すると、母さんが急に抱きついてきた。


「光彦はもう、すっかり大人になっちゃったみたいね。なんだか寂しいわ」

「そんなことないよ。久しぶりだったから話し方が変になってただけなんだ。元気で良かった、母さん……」


母さんは、父さんを亡くしたショックで塞ぎ込んでいた。

回復を促すために故郷のフランスに里帰りをしていたのだ。

その時、妹の可憐を連れて行った。

姉は、1年前に高校卒業してからフランスに渡っている。

留学としてフランスの大学に通っているが、会社の経営の方が忙しいらしい。


「ママだけズルいです。可憐もお兄様に抱っこされたいです」


そう言って可憐も抱きついてきた。

大きくなった可憐は今は13歳のはず。

中学2年生のはずだ。


久しぶりの家族の再会で嬉しいはずなのだが、少し心が痛んだ俺だった。





穏やかな家族の再会に会話が尽きることはない。

そんな中で、ここにいない人物がいる。


「そういえば愛莉姉さんは?」

「愛莉はパーティーの段取りがあるから会社の人と忙しそうに動き回っているわ」

「そうだよね。今日の主催だものね」

「あら、光彦は愛莉に早く会いたくて仕方ないのね」


そうじゃないけど、気になるのは本当だ。

何せ、口を開けばどんな無理難題を押し付けてくるのか気が気ではない。


「母さん達は、しばらく日本にいるの?」

「ええと、言ってなかったかしら。可憐の学校があるからこのまま日本で暮らすつもりよ」

「えっ、母さん、もう大丈夫なの?」

「大丈夫よ。優一郎さんがいないのは寂しいけど、私にはみんながついてるしね」


『チクッ』と針が刺さったように心が痛む。


う……このまま死ねないよね〜〜。

このまま俺がいなくなったら、母さんはどうなってしまうのだろう……


「そういえば光彦は、家を出て別の場所で暮らしてるんですって?」

「うん、学校の近くだよ」

「それって、愛莉や光彦が以前通ってた学園ではないわよね?」

「まあ〜〜う〜〜んと、色々事情があってさ。でも、今はとても楽しいよ」


「え〜〜!!これから可憐が通う学校はお兄様と一緒の学校じゃないの?可憐、お兄様がいなくちゃ嫌だ」


そうは言っても……


「まあ、そのことは後で考えましょう。それにもうじきパーティーが始まるわ。そろそろ支度しないといけないでしょう?」


そう言われて可憐は渋々引き下がった。


「じゃあ、俺も一旦部屋に戻るよ。母さんも可憐もパーティー会場で会おう」


そう言って俺は自分達の部屋に戻るのだった。





これから、パーティーに出席して愛莉姉にちょっとだけ挨拶を交わしてから、部屋にダッシュすればいいはずだ。


サイン会に行くために、頭の中でこの先の行動をシミュレートする。


すると、突然部屋のドアが開いた。


「光彦いる?」


「げっ、愛莉姉さんの声だ」


ドカドカと歩いて、俺の前に立つと、


「うんうん、身長は少し高いか〜〜でもこれなら許容範囲内ね」


久しぶりに会ったというのに挨拶も交わさずに、俺をジロジロ見つめている。


「愛莉姉さん、どうしたの?」

「ちょっと光彦、行くわよ」

「えっ、どこに?」

「ついて来ればわかるわ」


愛莉姉さんに腕を掴まれて、そのままどこかに拉致された。



そして、俺は……



「何でこんな格好をしてるんだ!」


「光彦、うるさい!化粧ができないでしょう」


連れてこられた場所は、若い女性が沢山いる部屋だった。

そして、俺はあれよあれよという間に女性用の服を着せられ長い茶髪のウェッグを被せられ、そして顔に化粧をさせられている。


「だから、何で俺が女装しなきゃいけないのさ」


「さっきも言ったでしょう?頼んでたモデルの子が来れなくなったのでその代わりよ」


「じゃあ、愛莉姉さんがモデルすればいいだろう!」


「主催者の私がモデルしてたら誰が接待するのよ。光彦、あんたバカなの?」


愛莉姉さんに化粧させられている間、周りの女性からジロジロと見られている。

ここにいるのはみんなモデルさんのようで容姿もスタイルも整ってる。


「ねえ、彼、カッコいいわね」

「うん、私お付き合いしたい」

「あんた、彼氏がいるでしょう。今、フリーな私はラッキーだったわ」


そんな女性達の会話が漏れ出して聞こえてくる。


「ふふふ、さすが光彦。モテるわね?」

「姉さん、それ嫌味にしか聞こえないから」


愛莉姉さんは、とにかくモテた。

それも男性から女性まで幅広くね。


「なあ、俺が女装しなくても可憐でよかったんじゃないか?」

「かわいい可憐にそんなことできるわけないでしょう!」


俺ならいいのか?


「とにかく、光彦。今からあなたはミツ子よ」

「はあ!?名前まで変える必要はないだろう?直ぐに着替えるし」

「パーティー終わるまでそのままよ。これは絶対だから、ヨロシク」

「…………」


開いた口が塞がらないとはこのことだ。


「パーティーが終わるまでこの格好なの?」

「そうよ。うちの商品のイメージ造りなんだから、その姿でサンプルを配ってちょうだい」


マジ、勘弁して〜〜サイン会が、サイン会があああああ。





パーティーが始まって周囲をキョロキョロしている女子がいた。

名前を桜宮美鈴。彼女はある男性をさっきから探しているのだ。


「いない、光彦さんがいないわ」


光彦さんのお付きの楓さんや新しく護衛官になられた如月さんと先程、お話しすることができた。


光彦さんは、愛莉様とどこかに行かれたようだ。


「お付きの方も知らないとなると、どこにいるのでしょうね?」


隣にいる三条智恵は、光彦を探すのを手伝っている。


「光彦さんはとても人気がありますから、どこかで誰かに捕まってお話をされているのかもしれません。それより、あちらで新商品のサンプルを配っているようです。愛莉様のご期待に応えるために頂きの参りましょうよ」


二人のそばにいた霧峰美里は、二人を新商品を配っているモデルさんのところに誘った。


(まさか、桜ババアがいるなんて‥‥早く、この場を離れなければ……)


美里は、ここに実の祖母である桜子が来ていることに驚いて腰を抜かしそうになっていた。


モデルさんが新商品を配布してる場所は桜ババアとは真逆の方向。

美里は、この場を離れたいがために、二人を誘ったのだった。








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