第22話 御曹司と霧峰


あれから、警察が来て事情を聞かれた。

ルナが持っていた証拠映像や裏情報の書かれた資料を渡すと警察は驚いていた。


一応、警察署に連れて行かれて、事情聴取の様なことをされたが、そのうち担当していた警察官がこの警察の署長と一緒に来て手を握られて感謝されてしまった。


態度が豹変したのには、おおよその見当は付いている。

俺達は未成年なので保護者に連絡がいくのである。

その過程で、俺の名前が知られたのだろう。


迎えに来た楓さんと担任の権藤先生は、周りの警官に敬礼されながら入って来た。


「それでは、帰りましょう」


楓さんは言葉少なに、一方、角太は、


「若、ずるいですぞ。そんな楽しいことしておいて私を呼ばないなんて、それに、如月、報告は大事だと教えたよな?如月は、明日から俺と訓練だ。わかったな」


「ひえ〜〜わかりました、教官!」


そう言って涼華は、警官に混じって敬礼しだした。



だが、大変だったのはこの後である。

クラスメイトが同じ学校の女生徒を拐ったのである。

マスコミが飛びつき、ネットの様々な情報が流れ出した。


選挙活動中の吉祥寺君の父親は、事件を重くみて候補を取り下げ、連日マスコミの餌食となった。


事件を起こした張本人吉祥寺君は、退学の上少年院送致される予定だ。

成人してた他の面々は余罪がたくさんあり、今も警察の檻の中にいる。

そして、学校側も慌てた。

学校外の事件だが、学校の生徒なのは変わりがない。

緊急職員会議を連日開いていた。

それでも決まったのは、吉祥寺君の退学と誘拐された木葉のフォロー。そして、マスコミ対策のみであった。


権藤がこんな会議は初めてだと、愚痴をこぼしていたのは珍しいことだ。


そんな騒ぎがあった週の土曜日。

今日は、午後から愛莉姉さんの会社のパーティーがある。

そして、もう一つのイベント『ニート転生〜異世界行ったらマジやるっきゃない〜』の作者のサイン会だ。


このダブルブッキングした予定を完璧にこなしてみせるぜ。


テンションアゲアゲの状態でこの日の朝を迎えた。


「今日はやってやるぞーー!」


朝の爽やかに澄んだ部屋の空気に俺の声が染み込んだ。

着替えを済ませて姿見の鏡の前に立つ。


はあ〜〜マジ、やばそう〜〜


俺を取り巻くオーラは正直真っ黒すぎていつ死んでもおかしくない状態だ。


うう、負けるか!絶対サインをもらってやる。

鞄に作者の本を数冊入れて準備をしておく。

因みに色紙も買った。色紙と本にサインをもらう予定だ。


気を取り直して一階に降りて行く。

すると、楓さんが出迎えてくれた。


「光彦様、おはようございます。例のものが出来上がりましたので、パーティーにはそちらを着てください」


リビングには、スーツと思われる服が掛かっていた。

新しく新調したのかな?

この間の誕生パーティーで着たグレーのスーツでよかったのに、と心で思ったがそんなことは言わない。


「ありがとう。さすが、仕事が早いね」

「ええ、今回は貴城院研究所の者達が、寝ずに頑張ったそうです。後で労いのお言葉でもかけてあげてください」


えっ、研究所?

研究所でスーツ作ったんだ。

畑の違う慣れない仕事だったので大変だったのだろう。


「わかった。後で連絡を入れておくよ」

「ええ、所員もきっと喜ぶと思います」


朝食をみんなで食べて、午後までの時間を各々が自由に過ごす。

今回、和樹君はパーティーに行かないようだ。

遠慮してるのかと思ったが、お母さんやお姉ちゃんが行かないのに僕だけ行くのはズルい気がする、と言ったのである。


まだ、小学2年生だよ。

ほんま、ええ子やわ〜〜


今日と明日は木葉の家に泊まるらしい。

そういえば源ジイとしばらく会ってないけど、元気かな?

木葉はお昼に和樹君を迎えに来るそうなので、その時にでも聞いてみよう。


すると、玄関のチャイムが鳴った。

誰か来たようだ。


楓さんが出迎えて応接室で待ってもらってるようだ。


「光彦様、霧峰の者がこちらに参りました」

「そういえば、来るって言ってたね。わかった応接室だね?」

「そうなのですが‥‥お茶をお入れしますね」


楓さんは慌てて台所に行ってしまった。

えっ、あんなに焦っている楓さんは見たことない。

もしかして、霧峰の人は変な人なのか?


応接室にノックして入るとソファーに正座してる女性がいる。


あれ、目がおかしくなったかな、俺?


「お〜〜そなたが光彦ボンかえ?」


そう、ソファーに正座して座っていたのは女性は女性でもかなりお歳を召した女性だった。


「ええと、貴城院光彦です。ここでは水瀬光彦と名乗っています」


「うむうむ、知っておるぞ。我は霧峰桜子じゃ、よろしゅうなあ〜」


霧峰の者らしい。

てか、護衛官が来るんだよね〜〜何でこんなお婆ちゃんが来るの?

そうか、ルナみたいにきっと、どこかに隠れてたりしてるのか?


「それで、護衛官の方はどちらに?」


俺がキョロキョロ辺りを見回すと


「我じゃ。我がボンの護衛官じゃ」


「はい…………………!?」





突然の護衛官宣言に戸惑う俺。


「あの〜〜冗談じゃないですよね?」

「何を言っておる。我が嘘などつくはずもない。それに昔は梅子様の護衛官をしてたこともあるのじゃぞ」


梅子、おそらくこの婆さんは言ってるのは貴城院梅子、俺の祖母のことだ。


「久しく会っていないが、梅子様は息災かのう?」

「ええ、今は本宅近くの別邸で暮らしています」

「ほほう、あの家でのう」

「梅子お祖母さんは、洋式造りの本宅は気が進まないようで、別宅の平家の日本家屋が好みのようです」


「確かに梅子様らしいのう」


その時、楓さんがお茶を持ってきた。

持っているお盆がガタガタと少し震えていたけど……


緊張してる?

楓さんが?


「粗茶ですが……」


そう言ってお茶と煎餅をテーブルの上に置いて緊張しながら俺の後ろに控えた。


婆さんは、お茶を両手で持ちそのまま口に運んだ。


「うむ、美味いのう」


その言葉を聞いた楓さんは、ほっとしたようで少し緊張が緩んだ。


「さて、ボン。お主、死相が出ておる。もって今日か明日じゃ」


その言葉を聞いて楓さんの顔は真っ青になった。

俺も驚いたが、驚いたのはその事ではない。


「そうですか、困りましたね。楓さん、悪いけど席を外してくれるかな?少し桜子さんと混み入った話がしたいんだ」


「ですが‥‥わかりました。何か誤用があればおっしゃって下さい」


そう言って楓さんは部屋を出て行った。


「お主は驚いておらんのう、不思議じゃわい」


「ええ、十分驚いてますよ。死相と言うのはどういう風に見えるのですか?」


「顔に悪い相が浮かび上がっておる。そうさのう、靄がかかっているような状態じゃ」


うん、俺のオーラと少し違うが似ている。


「実は俺にも見えるんです。黒い靄のような物が俺の周りに纏わりついています。俺の予測でも今日か明日がタイムリミットです」


「ほほう、どうりで……さすが鬼の一族じゃのう」


鬼の一族?

なにそれ?


「聞いた事もない、という顔をしてるのう。ということは、宗貞様と梅子様から何も聞いておらんようじゃ」


「ええ、何も聞いていません」


「話せば長くなる話じゃ。我は若い頃、研究者だった。それも、歴史を主点とした研究をしておった」


「そうだったんですね。研究者でもあり護衛官でもあったわけですね」


「まあ、研究の方は趣味みたいな物じゃ。だが、のめり込む性質だったようで世界中のあちこちを飛び回ったものじゃ」


「それで何を研究してたのですか?」


「鬼じゃ、鬼の研究をしておった」


鬼か……


「それで鬼の一族とは?」


「その話は今は時期ではないようじゃ。お主が生きておったら聞かせてやろう」


そうか、気になったが仕方がない。


「わかりました。その時はお茶でも飲みながら話を聞かせてください」

「ほほほ、若いお茶友達ができたわい」


そう言って朗らかに笑った桜子婆さんの目は笑っていなかった。





みんなに桜子婆さんを紹介した。

涼華は、驚いていたが素直に受け入れた。

一方、ルナは「げっ、桜ババア」と、言って杖でポカポカ頭を殴られていた。


そしてお昼近くになって、楓さんにスーツを着させてもらった。

スーツの裏側に見慣れない紐が垂れ下がっていた。


「楓さん、これは?」

「それは、ご希望のものです。引っ張れば良いみたいですよ」


スーツに俺の希望なんて入れてたかな?

まあ、いいか……


女性陣も華やかなドレスに着替えている。

楓さんは、いつものメイド服だ。

涼華は、水色のドレスを着ていた。

ルナは、黒い大人っぽいドレスだ。背中が大胆に開いている。

そして、桜子婆さんは、ここに来た時の同じ和服だ。



駐車場には既に車が止まっている。

角太が、エンジンをかけて待機していた。

すると、桜子婆さんの見て角太は「げっ、桜ババア」と、声に出して言ってしまった。


「権藤の若倅!今、ババアと言ったな!」


ついていた杖で角太のポカポカ殴っている。


「す、すみませんでした。桜子さん」


角太は、涙目になりながら謝っている。


これ、さっき見た光景だな〜〜この婆さん、ある意味最強じゃね?


角太は、大急ぎで車のトランクを開けて、車椅子を用意する。

そして、桜子婆さんに車椅子を薦めた。


「目の前の車に乗るのに、この距離で今更出すんじゃない。このバカちんが!」


そう言ってまた、角太をポカポカと杖で殴っていた。


「すみませんでしたーー」


俺達は目の前で起きた光景に、しばし呆然としてたのであった。


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