第21話 御曹司の友人奪還


「さて、正面から行こうか」


俺と涼華は、プレハブ小屋の入り口に向かって歩き出した。

ルナは、既にどこかに行ったようだ。


涼華は、肩に担いでいたバッグを手に持つ。

中身の日本刀は出していない。


既に陽が沈みかけている。

辺りはうっすらと暗くなってきたが、小屋から漏れる灯りが周囲の雑草を照らしている。


涼華は、俺の前に出て『トントン』と、扉をノックした。


すると、小屋の中から『誰だ!』と、威勢の良い声が聞こえた。


「如月涼華よ。あなた方の言う通りに来てやったわ」


涼華が名乗ると扉が開いた。

扉を開けたのは見知らぬ鼻ピアスをしたヤンキー君だった。


「おい、一人で来いって言ったよなあ、誰だそいつは?」


俺を見て鼻ピアスヤンキー君は、バカにしたような顔をした。


「俺は従兄弟です」


「ぎゃははは、従兄弟だってよ〜〜、久我山さん、真司聞いたか?従兄弟が一緒に来たとよ〜〜」


鼻ピアスヤンキー君はどこか楽しそうだ。


「ああ、そいつは多分同じクラスの水瀬だ。従兄弟ってのは本当らしい」


吉祥寺君の声が聞こえた。


「じゃあ、入れ!くれぐれも変なことはするなよ。女がどうなるかわかってるよな?」


ヤンキーの案内でプレハブ小屋に入ると、乱雑に机と椅子が置かれており。その奥の方に椅子に縛られて木葉が座っていた。


俺と涼華は周囲の状況を確認する。


一番奥に椅子に縛られている木葉。

その前にガタイの良い腕に刺青をしている男。

そして中央にクラス委員長の吉祥寺君。

そして、俺達の側にさっきの鼻ピアスヤンキー君。


「3人だけなのか?」


「何、お前。誰が口を開いて良いって言った。はあん?」


近くいた鼻ピアスヤンキー君が恫喝してくる。

鼻にピアスって、ファッションセンスを疑うよ。

本人はカッコいいって思ってんだよね。


「すぐに他の者も集まる。大人しくしてた方がいいぞ。三鷹さんは、ボクシングをやってたんだからね」


吉祥寺君が鼻ピアスヤンキー君の紹介をしてくれた。


「じゃあ、如月さんだけこっちに来るんだ」


「貴方の言うことなど聞くつもりはないわ」


「ははは、君はこの状況がわかってないのかい?」


「吉祥寺君、ひとつ聞きたいことがあるんだが」


俺がそう言うと鼻ピアスヤンキー君が睨んでいたが、何かを言う前に吉祥寺君が口を開いた。


「同じクラスメイトとして最後の言葉くらい聞いてあげるよ。それで、僕に聞きたいことってなんだい?」


「いや〜〜君のお父さん、今選挙中だよね。選挙カーで吉祥寺豊をよろしくって授業中にもかかわらず大きな声を上げてるよね。正直うるさいんだよ。静かに選挙活動してくれるように頼んでくれないかな?」


「水瀬、何を言ってるんだ?お前はこの状況がわかってないのかい?」


「わかってないのは吉祥寺君の方じゃないかな?こんなことが世間に知られたら選挙中の父親に迷惑かかるんじゃないのかな?」


そう言うと吉祥寺君は怒ったようだ。


「水瀬、僕は君が気に食わない!オタクの底辺が気安く僕に話しかける事すら烏滸がましいのに、なんだい、さっきからその態度。土下座でもしたらどうなんだ。助けてくれってね」


「ははは、真司も熱くなることってあるんだな。さて、お遊びは終わりだ。そこの女はこっちに来い。男は庄司、サンドバッグを欲しがってたろう。そいつを使え」


奥に控えていたガタイの良い男が声を上げた。


「サンキュー」とか言って、庄司と呼ばれた鼻ピアスヤンキーが、俺の前に来る。


そして、いきなり顔面めがけて殴りかかってきた。

俺は身体を斜めに移動してそのパンチを躱す。


「クソッ、この〜〜!」


更にジャブを繰り返してボディーに強烈な拳を繰り出した。

ボクシングをしてたのは本当のようだ。


それからは、怒った鼻ピアスヤンキー君がジャブやらフックやら繰り出してきた。

俺は何度も打ち出されるその拳を全て躱し、渾身のボディー狙いの拳を持っていた通学バッグで受け止めた。


バッグの中には、楓さんが作ってくれたお弁当箱が入っている。

俺のお弁当箱は金属製だ。


鈍い音が聞こえる。

鼻ピアスヤンキー君は、「痛たたたた」と言いながら自分の拳を片方の手で摩り始めた。


「てめ〜〜ちょこまかと動きやがって!」


あれだけパンチを繰り出して当たらなかったら少しは警戒するのが普通だと思うけど、頭に血が昇った人間は落ち着いて物事を考えられないらしい。


というか、バカじゃね?


俺は、手をさすっているヤンキー君に向かってその顎に思いっきり蹴りを入れた。一瞬、宙に浮いたヤンキー君は、そのまま崩れ去って床に横たわった。



一方、涼華はというと、一気に吉祥寺君のところに移動して刀をしまってあるバッグごとボディーを狙って打ち出した。


吉祥寺君は、そのまま腹を抱えてうずくまってしまう。

そして、ガタイの良い男のところに向かおうとして身体の動きを止めていた。


「ははは、少しナメてたわ。なかなかやるじゃねえか」


男の手には拳銃が握られており、その銃口は木葉に向けられている。

涼華は、静かにバッグを開けた。

そして、愛用の末國長を取り出す。


「なんだ、女。居合刀を取り出して何するつもりだ。そんなものがこれに勝てるわけねえだろう?」


ガタイの良い男は涼華に向かってバカにしたようににやけた。


「これは居合刀ではないわ。素人はそんな事もわからないのね」


「素人だと〜〜!!こちとら、本場でこいつを撃ってきたんだ。そんな物で何ができる」


「本場で?ただの訓練でしょう?バカじゃないの?」


「こいつーー!!後悔するなよ。生きてりゃ使えるしな」


ガタイの良い男は銃口を涼華に向けた。


「撃つ度胸もないくせに、カッコつけてそんな物持ってるなんてキモすぎるわ」


涼華の言葉を聞いてキレた男は、何も言わずに銃を涼華に向けて発射した。

拳銃の発射音と同時に『キーン!』とした金属音が建物の中に響いた。


「ば、バカな……」


「バカは貴方よ」


戸惑っているガタイの良い男は、そのまま気を失ってそのまま崩れるように横たわった。





俺達はその後、この場にいた3人を縛り上げて警察が来るのを待っていた。


「それで、涼華さんや、さっきは撃たれたよね?」


俺は、鼻ピアスヤンキー君を相手してたので涼華の行動の全ては把握していない。


「ええ、弾を斬っただけよ。ついでに斬撃も飛んじゃったけど威力は抑えてあるから死んでないわよ」


弾を斬った?

斬撃を飛ばした?


意味不明……


そんな女子高生がどこにいる!


「そうか、さすがだな、涼華は」

「そうでもないわよ」


そう言いながらも嬉しそうだ。


「今回、拙者、出番がなかったでござる。ニンニン」


「木葉の安全を考えてたんだろう。木葉の近くにルナの気配がしてたぞ」


「う〜〜、主人に悟られてしまうとは情けない」


「そんなことはないぞ。ルナがいたから安心して他の奴の対処ができたんだ。さすがルナだ」


「あ、主人はずるいであります!」


そう言ってルナは小屋の外に逃げる様に出て行ってしまった。


さて、問題は木葉なのだが……


こいつは誘拐されたにも関わらず、紙袋を被されてたからといってなんと、寝てたのである。


「木葉、普通寝ないから……」

「紙袋がゴワゴワして眠くなった」

「いや、それは無理があると思うぞ」

「そんなことはない。光彦も紙袋を被ればわかる。絶対眠くなる」


俺と木葉がそんなやりとりをしてると、涼華が、木葉に向かって誤り出した。


「木葉、ごめんね。私のせいで怖い思いさせて」

「大丈夫。それに涼華と光彦なら絶対助けに来るってわかってた」


まあ、そうなんだが……


「ううん、それでもちゃんと謝らせて、本当にごめんなさい」


そう言って涼華は木葉に頭を下げた。


「じゃあ、楓さんのお弁当を分けてくれたら許す」


木葉は、至って平常運転だった。


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