第17話 御曹司の想定外


放課後、井の頭君が教室から出て行ったのを確認して俺も教室を出る。


2回目ともなれば体育館裏に行くのに慣れた感じがする。


俺がその場所に行くと井の頭君をはじめ見慣れない男子が2名いた。 


「おーー待ってたぞ」


やけにフレンドリーに話しかける井の頭君に少し残念な気持ちになる俺。

ここは、「遅せ〜〜んだよ!舐めてんのか?はあん?」とか言ってほしい。


「ええと、そちらの方はどなたですか?」


俺が尋ねると


「同中のやつだ、それよりお前に話がある!」


井の頭をはじめ男子2名は、俺を取り囲むように立ち位置を変えた。


「話ですか、そういえば昨日待ってたんですけど遅かったので帰りましたよ。何で遅かったのですか?」


俺が問いかけると、


「ああ、昨日は女子と一緒にカラオケ行ったんだわ、すっかり忘れてた」


マジか、約束を破るなんて怪しからん!


「なあ、広樹、本当にやるのか?」


そう話しはじめたのは、見慣れない男子の1人だった。


井の頭君は広樹って名前なんだ〜〜


「当たり前だろう!おい、水瀬!如月さんと一緒に住んでるんだろう?」


「そうですけど、家ではそれぞれ部屋にこもってますんでそれほど接点はないですよ」


「くそ〜〜羨ましいぞ、君」


見知らぬ男性が悔しがっている。

もうひとりの男性も「洗面所や浴室でバッタリとか、最高」と、妄想に身を委ねて独り言の声が大きい。


「水瀬、命令だ。如月さんのパンツ盗んでこい!」


あれ、俺の耳がおかしくなったかな?

井の頭君の言ったことが理解できない。


今、パンツとか言ってたけど……聞き間違いじゃないよね?


「俺は、ブラでもいいぜ。未使用品より使用感のあるヤツがいい」


「俺は、靴下でもOKだ。脱ぎたてなら最高だ」


見知らぬ男子から、続け様にそんなことを言われてしばし呆然とする、俺。


頭の思考が追いついていかない。

パンツ?ブラ?靴下?何それ?


「あの〜〜金出せよ!とか、金隠してんだろう?ほら、そこで跳ねてみろよ、とか言うんじゃないの?」


その為にポケットに少しばかりの小銭を入れてきた。


「はあ?カツアゲは犯罪だぞ。そんな事するわけねえだろう?」


井の頭君こそ何を言ってるのだろうか?


「あのさあ、俺はまだラノベ初心者なんだよね。ラブコメとかそんなに深く読み込んでないわけ。それに18禁のものは家ではなかなか読めないし、そんなハイレベルな要求されても、まだそこまで追いついていないんだよ!」


「何を訳のわからない事を言ってんだ?ラノベとか18禁のとか関係ねぇだろう!」


井の頭君は、頭にきたようだ。

だが、それよりも俺の方が頭にきてる。


せっかくのイベントを台無しにした罪は重いのだ。


「そっちこそ何言ってんのさ。欲しかったら自分で頼んでみればいいだろう?」


「そんなことできねえから、お前に盗んで来いって言ってんだ。頭おかしいんじゃねぇか?」


「ああ、何だったら1000円払ってもいい」


「脱ぎたての靴下なら3000円で買うよ」


側にいた男子達がお金を払うとまで言ってきた。


「なんだよ、もう〜〜!せっかくこのイベント楽しみにしてきたのにガッカリだよ。もう、いいや。じゃあ、そういうことで涼華さんや……」


俺は、涼華が隠れているのを知っていた。

おそらく、俺をつけてきたのだろう。


すると、涼華は両手を腰にかけ般若のような顔をして仁王立ちしていた。


「げっ、マジ……」「わあ〜〜如月さん」「聞かれたかな、聞かれたよね」


俺を取り囲んでいた男子3人は、突然の涼華の登場でパニクっていた。


「ねえ、君達……私の何が欲しいって?」


涼華のオーラは真っ赤だ。

それもこれ以上ないというほどに……


「え〜〜と、その……」「声も可愛いなあ〜〜」「ああ〜〜」


それから、しばらく涼華は素の暴力女に戻っていた。

涼華のシバキを受けて男子3人は……


「悪かった、勘弁してくれ〜〜」「わあ〜〜ごめんなさい」「あ〜〜足が、いい、そこ……」


ひとり変な事を言う奴がいたが、涼華が戻ってきた時は、3人は見るも無残な姿に変わっていた。


南無三……





俺は涼華と一緒に動物病院に向かっている。

涼華は、子猫が気になっていたようで、今日の放課後一緒に行きたいと思ってたそうだ。


「涼華は猫好きなのか?」

「べ、別にそこまで好きってわけじゃないわよ!」


さっきの事を引きずっているのか、未だに怒ってらっしゃる。


「それより、男子って、その〜〜◯◯ツとか欲しいの?光彦君もそうだったりする?」


「えっ、声が小さくて聞き取れなかったのだが、何が欲しいのかだって?」


「だから、光彦君も私の◯ンツが欲しいのかって聞いたの」


「すまない、もう少し大きな声で話してくれないか?」


「もう〜〜!パンツが欲しいのか聞いたの!!」


「はあ〜〜何大き声出してそんな事言ってんだよ。パンツならこの間、一緒に買い物に行った時に買っただろう?あれだけ買ってまだ足りないの?」


「違う!そう言う意味じゃない。もう、いい。この話は終わり!」


涼華は、プンスカ怒って先に行ってしまった。

きっと今日は女の子の日なのだろう。

情緒が不安定だし……


約15分ほど歩いて、動物病院に着く。

その間、涼華は一言も喋らなかった。


病院のドアを開けると、獣の匂いが鼻につく。


「すみません、先生はいますか?」


俺は今日も誰もいない病院の待合室から受付の小さな窓に向かって声をかける。


「ああ、いるぞ。なんだ、お前か」


ぶっきらぼうに話すこの先生のせいで、ここはいつも閑古鳥が鳴いてるのかもしれない。


「子猫の様子はどうですか?」

「メシは食べるようになったが、まだ回復途中だ。見てくか?」

「ええ、お願いします」


診察室の隣の部屋にゲージがたくさん並んでいる。

俺達がその部屋に入ると、ゲージの中から『ワンワン』『ニャー』とかの大合唱となった。


先生は、俺と涼華を置くに案内する。

そこには、昨日保護した子猫が丸くなって寝ていた。


「わ〜〜可愛い、何これ、フサフサじゃん」


涼華がそのゲージの前に張り付いた。

隙間から指を入れようとしている。


「おい、指は入れるな。まだ、完全に元気になってない。猫のストレスになるようなことはやめてくれ」


先生は、少しきつめに涼華に言葉を投げる。

涼華も『はっ』として、反省したのかゲージから少し離れた。


「ごめんなさい、あまりにも可愛くて〜〜」


涼華さんや、猫はそんなに好きではなかったのでは?


「まあ、俺もちょっと言い過ぎた。だが、子猫にとっては、俺達人間は巨人みたいなものだ。人間だっていきなり目の前に自分の背より何倍もの背丈もある巨人が現れたら驚くだろう。まあ、そんな感じだ。これから注意してくれればいい」


この先生、女子には少し優しいのか?


「どれくらいで外に出せるようになりますか?」

「完全に回復するにはしばらくかかるだろう。だが、外には出られるぞ」

「そうなんですね」

「そうさなあ、2週間ってところか。その頃迎えに来てくれれば引き渡せると思う」

「わかりました。2週間後ですね」


涼華は、静かにそのゲージを眺めている。

先生がいなかった時に写真を撮っていたのは、もしかしたら、また怒られると思ったのだろうか……





「くそっ!なんで俺が振られなくちゃならないんだ!」


吉祥寺真司は、腹を立てながら帰宅していた。

1日経っても悔しさが消えることはない。

自分では頭も良いイケメンだと自認している。


「少しばかり、美人だからって、鼻にかけやがって、あの女」


むしゃくしゃしていた吉祥寺真司は、いつも行ってるゲームセンターに寄る。そこには、中学の頃のダチと先輩がたむろしていた。


「おお、真司、この間はラッキーだったな」

「三鷹先輩、この間は世話になりました」

「こっちこそいい小遣い稼ぎになったぜ、またやろうな」


そして、周りの男子よりも少し大人の男子が吉祥寺真司に話しかけた。


「なあ、真司、それよりもっと面白いことしようぜ」

「面白いことですか?久我山先輩なら何でもできそうですけど」

「ああ、お前んとこの高校、結構可愛い子が揃ってるみてえだな。みんなで楽しむってのはどうだ?」

「まあ、いいですけど、面倒ごとはごめんですよ。親父の選挙が控えてますから」

「まあそう言うなって、真司は顔も頭もいい。声をかければ何人もの女が寄って来るだろう?俺達はそのおこぼれで構わね〜ってわけだ」


その時、吉祥寺真司の頭の中にはひとりの女性が浮かんだ。


「久我山先輩、実は相談なんですけどね……」


吉祥寺真司は、腕に刺青を入れている久我山先輩にとある女性の件で相談したのであった。

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