白い鬼、その後の会話
「ねえ光彦君、関係ない先生達は解放してあげてもよかったんじゃない?」
帰りの車の中で涼華がそう問いかけた。
「涼華は、そう思うんだ。まだ、護衛官になって日の浅い涼華にはわからないかと思うけど、あそこに残っていた先生方で潔白なのはあの時解放した女性教諭だけだよ」
「嘘、みんなが美幸を。でも女性の先生もいたわよ」
「そうじゃない。美幸さんの件は蛇河田先生だけだ。他の先生方は別の件で教師にあるまじき行為をしていた。ルナ、説明を頼む」
「はい、主人。西川教頭。教科書販売会社からリベートを要求。その資金でキャバクラで豪遊。ひとりの大学生キャバ嬢を好き放題にしてトンズラする。そのキャバ嬢は、妊娠の上人生に悲観して飛び降り自殺を図る。
国崎国語教諭、家庭で妻に対して日常的なDV。子供達に対しても暴力行為を確認。
浜崎女性英語教諭、6年前、ひとりの教え子をクラスを先導していじめる。その生徒は、不登校となり、現在でも家から出ることができない状態。
江川体育教諭、若い子相手にパパ活活動を繰り返しており、違法ドラッグにも手をつけている」
それを聞いて、涼華は唖然としていた。
「これだけの短い時間で情報を集められるのが貴城院グループだ」
「すごい、でも罪を公にして裁判とかで裁けば良いと思うけど」
「そういう方法が一番なんだけど、名前が出て困る人も多いよね。例えば犯罪者の家族だけど、今はネットがあるから特定されて何の罪のない家族が攻撃されるケースも多いでしょう。それに犯罪者だけではなくて犯罪被害者も同じように悪く言う人もいる。今回、そうしなかったのは、美幸さんの件があったから公にしない方が良いと選んだんだ」
「でも、光彦君は罪は本人だけじゃないような事を言ってたでしょう」
「うん、それは罪の重さを知って欲しかったんだよ。本人は軽い気持ちで罪を犯しても、その事実は永遠に消えないし大事な家族や両親、若しくは親戚縁者まで波及してしまうんだ。だから、そんな事をしないで真っ当に生きてほしいって俺の願いなんだが、ちょっとカッコつけすぎだな」
「ううん、そんな事ないよ。私もそう思うもの。でも、連れて行かされた人達はどうなるの?」
「蛇河田先生を含めた教師達は、貴城院グループの再教育期間で研修をしてもらう。まあ、そこから出られるかは本人次第だけどね」
「そうなんだ。東京湾に沈めるのかと思ったよ」
「俺達は、裏家業の者ではない。それにそんな非合法なものにこの国のお偉いさん達が署名、捺印なんかしないよ。でも、そういうこともあるかもな」
すると、運転している角太が
「如月、お前の仕事は護衛官だ。護衛とはその対象を命をかけて守り抜く事。背後の事情など護衛官の仕事には関係ない。わかったな」
「はい、教官!」
「角太、そう言っても気になるのが人というものだ。事情を知っていた方が護衛にも力が入る。角太もそうだろう?」
「若、それを今言いますか。如月の手前、その問いには答えられません」
「だってさ。だから、涼華は涼華なりの護衛をすれば良い。勿論、角太や他の護衛官達の良いところは真似ないといけないと思うぞ」
「わかった。私なりに学んで一人前の護衛官になるわ」
「うん、うん。涼華は物分かりがよくて良い子だ」
「子、子供扱いするな!バカ」
「はははは」
◆
貴城院家の本宅では、総督と呼ばれる男、貴城院宗貞が筆頭執事、櫛凪真邦と執務室で、話していた。
「とうとう坊ちゃんが表に出ましたね」
「ああ、光彦らしいデビュー戦じゃな」
「ふふふ、友人の為に表に出るなんて流石坊ちゃんです」
「しかし、あの恫喝はだれに似たのかのう?」
「ルナからの実況中継を見て、私もそら恐ろしくなりました」
「光彦が放つ威圧は、まだまだじゃが15歳という年齢では異常じゃのう」
「ええ、先が楽しみです」
「貴城院の貴は、当初は鬼と書いて鬼城院と言ってたそうだ。初代当主は鎌倉時代に暴れ回った鬼達を従えて城に住んでいたとも言われておる」
「ええ、鬼を従えるには鬼以上の強さを持つ者でないといけませんからね」
「光彦を見ていると、鬼を従えてた初代当主は、こんな感じだったのではないかとたまに思うだがな、其方はどうじゃ?」
「そうですね。強さに関してはまだまだかと、ですが光彦坊ちゃんの優しさが人を惹きつけるのは確かだと。鬼を支配するにも恐怖だけでは、いずれ崩壊します。貴城院家が今でも続いているのは、優しさがあったからではないでしょうか」
「優しさか、昨今、縁の無かった言葉よのう」
「光彦坊ちゃんにあれだけ甘い顔をする総督がそれを言いますか」
「はははは、お主には完敗じゃ」
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