第8話 御曹司の買い物
学校は、まだガイダンス期間の為、授業などはないが委員会とか部活とかいろいろ決めなければならないことがある。
角太も慣れない教師という職業のせいか、面倒な決め事は生徒に丸投げしてる。
立候補でクラス委員長を選出して、その生徒に他の委員会のメンバーを選ばせていた。
勿論、俺は全てスルーだ。
正直言って自分の死期が迫っているのに、面倒な委員会などしてる暇はない。
「あとは保健委員だけど誰か立候補する人はいないか?」
クラス委員長に立候補した爽やか系のイケメン男子がクラスメイトに問いかける。名前は吉祥寺拓真。
因みに、涼華は吉祥寺君の隣に立っている。
推薦で副委員長の座をゲットしていた。
「如月さん、立候補がいないので推薦で決めたいと思うけどどうだろうか?」
「ええ、構わないわ」
「では、保健委員にふさわしい人を誰か推薦してくれ。これで決まらないとくじ引きになるからよろしく」
「女子は菅原さんが良いと思います」
そう発言したのは、涼華にぐいぐい言い寄っていた佐久間梨花だ。
「推薦を受けた菅原さん、保健委員やってくれるよね?」
吉祥寺君は他の選択肢は無い、という強い言い方で菅原さんに意見を押し付けた。
「……わかった」
小さな声で返事をした菅原さんは、俺と似た雰囲気をしている。
というか顔が隠れてよく見えないが、もしかしたらあの子は……
それにしても、吉祥寺君の言動は少し問題があるな。
あれは自分の意見を言わなそうな人に押し付けた感じだし、こういうやり方は正直好きではない。
「菅原さん、一方的に決まってしまったけど、大丈夫なの?やりたくなければ再考するよ」
涼華もこのやりとりに違和感があったようだ。
「如月さん、先ほど菅原さんが「わかった」と返事をしたんだ。女子は菅原さんで問題ないだろう?次に男子も決めないといけないからね」
涼華は、吉祥寺君の言葉が気に入らないようだ。
顔には出さないが、無言を貫いていた。
「では、最後に男子だけど僕はそこの‥‥名前はっと、そう水瀬君が良いと思う。立候補がいないから僕からの推薦だけど、水瀬君。受けてくれるよね?」
はあ〜〜俺かよ。
選んだ基準が菅原さんと同じ理由とは……
やりたくはないが、波風を立てても後が面倒だ。
「わかりました」
吉祥寺君というのは随分、強引なタイプだな。
自分の意見が全て正しいと思っているし、他の人を見下している。
「委員会は決まったようだな。それじゃあ、今日は少し早いが、これでおしまいにする。それと如月と水瀬。用があるから後で職員室に来てくれ」
角太は、俺達に用があるらしい。
◇
俺の隣を赤色の不機嫌オーラを纏ってドンドコ歩いている涼華は、先程の件で怒っているのだろう。
こいつは正義感強そうだし、理不尽な言動は嫌いなのだろう。
「なあ、涼華はお淑やかな女性じゃなかったのか?」
「勿論、そうよ。でもね、あの吉祥寺とかいう駅みたいな名前の男子、目つきがイヤらしいし横暴な態度にも腹がたつ」
相当お怒りのようだ。
赤色のオーラは『怒り』に決定だな。
まだ、進化したオーラが見えるという能力の検証段階だ。
全ての人のオーラが見えるわけではない。
その点も随時確認していかないといけない。
職員室に入り、角太を探してデスクの側に歩み寄る。
「ああ、呼び出してすまん。涼華は、これを楓様に渡して欲しい。それと2人ともちょっと来てくれ」
角太は、鞄から手紙を取り出して涼華に渡した。
そして、席を立って俺たちを何処かに連れて行くようだ。
中廊下を歩いて専門教室の方に行くと一階にある地学室の隣にある地学準備室のドアを鍵で開けた。
「この部屋は今は誰も使っていない。校長の許可は取ってあるので何かの場合はこの部屋を使ってくれ。それと、涼華は得物を学校に持ち込んでいるのだろう。教室に持ち込むのは危険だ。だから登校時に得物はこの部屋に置いておくように。それと、これが鍵だ」
角太は、俺と涼華にこの部屋の鍵を手渡した。
「角太、本当にこの部屋を使って構わないのか?」
「はい、理事長と校長の許可をとっています。ですが、他の教員達は若の存在を知りません。出来るだけ人目を避けてお使い下さい」
という事は理事長と校長は知っているということか。
「わかった。利用させてもらうよ」
「権藤教官、この部屋は自由に使っても良いのですね。ソファーとかテレビとかも置いても構わないという事ですか?」
「涼華、学校では先生だ。まあ、あまり派手にしなければいいんじゃないか?」
「ありがとうございます!」
敬礼しなくとも良いと思うのだが……
「そういう事で俺は行くが、そうだ、若。学校生活が本格的になってくると涼華と同じ行動は取れない可能性があります。若もそれなりにできるので学校内や下校時などは単独行動を強いる事もありますがご理解下さい」
それは願ってもない事だ。
「うん、うん。そうだよね。俺は一向に構わないよ」
「若、何か嬉しそうですが……」
「そんな事はない……ぞ」
「涼華、そういう事だ。委員会や部活など高校生活を普通に送ってもらって構わない。だが、事前に予定が分かれば連絡を入れてくれ。サポートの手配もあるからな」
「はい、教官!涼華、承知しました」
涼華さんや、随分と角太の前では良い子ちゃんじゃないか?
まあ、角太の訓練を受ければそうなっても仕方がないが……
角太は、教師の仕事があるのだろう。
忙しそうに職員室に戻って行った。
この部屋に取り残された俺達は取り敢えず、椅子を引っ張り出して座る事にする。
「どうアレンジしようかしら〜〜」
夢見る少女のように、部屋を見回して妄想している涼華は、学校内で居場所ができたのが嬉しいようだ。
「俺は1組の椅子と机があれば構わないよ。ここでお昼の弁当を食べるだけだろうしね」
「えっ、教室で私と一緒に食べないのですか?」
意外そうに涼華が聞いてきた。
「ああ、俺は教室では食べないよ。それに涼華と一緒にお弁当を食べでもしたら面倒な事になりそうだしね」
「私は光彦君以外はどうでも良いのですが……」
「はあ?それ、どういう意味?」
「ち、違います。そういう意味じゃなくて護衛官としてです」
「角太も言ってたけど、俺の素性を他の者は知らない。それだけ危険はないんだ。せめて学校では涼華のやりたいように青春を謳歌してほしい」
「良いのでしょうか……」
「構わないよ。山梨から一人で出てきて慣れない護衛官の仕事でいっぱいいっぱいだったんじゃないか?心に余裕がないと良い仕事はできないし、やる時にきちんとやれば問題はない。これは、上司命令だ。涼華の好きに学校生活を送るように」
「わかりました。命令とあらばそれに従います。光彦様」
少し気合を入れすぎたかな?
君から様付けになってしまった。
でも、これで帰りに本屋に寄れる……ウシシ
◇
そんでもってやって来ました、駅前の本屋です。
涼華は、あれから誘われてた剣道部の練習を見に行くことになった。
1人で下校して、こうして夢描いていた本屋に無事辿り着く事が出来ました。これも皆様方のおかげであります。
皆様って誰?
さてと、ラノベ、ラノベっと……
さすが、日本のエンターテイメント。
ラノベコーナーがちゃんとある。
「お〜〜これは感動ものだ」
ネット小説が書籍化されたものやまだ見ぬ未知な物語が俺を誘う。
どれもこれも欲しい。
できれば、このラノベコーナーごと欲しい。
いっそ、本屋ごと買ってしまおうか。うふふふ……
「あのお兄ちゃん、一人でぶつぶつ言いながら笑ってるよ」
「見ちゃいけません。ほら、行くわよ」
親子連れに見られてしまったようだ。
ここは、どうにかして落ち着かなければ……
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
そして、一番最初に読んだネット小説の書籍バージョンを全巻手に持つ。
「まず、最初にこれだよなあ〜〜Webバージョンとは、話が違うらしいから2度美味しいとはこの事だよね」
俺は抱え込んだラノベを会計に持ち込む。
店員さんは驚いたような顔をしたが、直ぐに仕事の顔に戻ったようだ。
「カバーはお付けしますか?」
「ええ、お願いします」
「では、先にお会計をお願いします。全部で消費税込みで21735円になります」
俺はバッグから財布を取り出して現金で払う。
一度でいいから現金払いしたかったんだよね〜〜
大きめな紙袋を店員から手渡されて、念願のラノベを手に入れた。
お〜〜凄い。凄いぞ、俺!
買い物もスムーズにできたと思う。
現金で払う事もできた。
俺はスキップしそうな足取りで駅に向かうと、何やら誰かがもめてるみたいだ。
「だから、おめーが先にぶつかってきたんだろう!」
「ち、ちがう。そっちがわざとぶつかってきたんじゃないか」
「おい、にいちゃん。素直に慰謝料払えば痛い思いしないですむんだぜ」
「ほら、こいつの腕、こんなに腫れてるぜ。骨折れたかもしんねえなあ〜〜」
わあ〜〜ガラ悪いなあ〜〜それに典型的な当たり屋の手口だよ。
あの人、うちの制服を着てるって事は同じ学校だよな。
頑張ってるけど3対1じゃ武が悪いか。
周囲の人を見渡すと、関わりになりたくないのか素通りして行く。
でも、スマホで撮影してる人もいるな。
ネットにでも晒すのか?
今日は機嫌がいいし、久しぶりに身体を動かしたいし、行くか。
「先程から話を聞いていたが少しいいだろうか」
あれ、俺が行こうかと思ったが、先に誰かが助けに入ったようだ。
「なんだあ、このガキは。こいつの仲間か?」
威勢の良い柄の悪いにいちゃんは、間に入った人物に凄み始めた。
「いいや、仲間ではない。だけど、お互いの言い分も理解できる。ここは無難に彼が治療代を払えば君達は引いてくれるのだろう?」
「きちんと払ってもらえれば文句はねぇぜ」
「ほら、だから君。この場できちんと払ったほうがいい。表沙汰になれば学校は停学、ううん、退学もあり得る。内診にも影響するだろう。そうなれば君にとって良い事はないはずだ。違うかい?」
この有無を言わさない言い回しはどこかで聞いたことあると思っていたが、うちのクラス委員長の吉祥寺君ではないか。
出鼻を挫かれてしまった俺はその様子を陰から伺うことにした。
「だけど僕は……」
「君は自分のことをもっときちんと考えたほうが良い。ここでおさまらなければ裁判沙汰だってあり得るんだ。君は自分の正当性を証明する証拠をきちんと提出できるのか?」
「それは……できないと思う。でも、こいつらが」
「それはやった、やられたの口だけだ。証拠とはなり得ない。だから、穏便に済まそうと僕が割って入ったんじゃないか」
そう言われた少し考えたのか、鞄から財布を取り出した。
諭吉さんのお枚を一枚取り出して、ガラの悪いにいちゃんに差し出した。
「これじゃあ、たんねぇなあ〜〜」
「ほら、君。財布にもう一枚入っていたじゃないか。それを渡すんだ」
吉祥寺君はめざとく財布の中身をチェックしてたようだ。
「でも、これは……」
「早くしないと大事になってしまうよ」
そう言われて脅されてた人は諭吉さんをもう一枚手渡す。
「なんだ。わかってるんじゃねえか〜〜これに懲りたら気をつけて歩けよ。ワハハ」
ガラの悪い男達はさっさとその場から遠ざかった。
強請られた人は悔しそうに駅に向かって歩き出す。
そして、吉祥寺君は既にその場から消えていた。
なんだあれ。
怪しすぎるだろう〜
俺は気になってガラの悪い男達の後をつけると、思ってた通り吉祥寺君と合流していた。
俺はその様子を『パチリ』とカメラ(動画)に納めた。
まあ、証拠は必要だしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます