第3話 御曹司は能力者?

唐突ですが、俺には人に言えない能力を持っています。


そんな事を言えば、頭のおかしな人だと思われるだろう。

だが、これは本当の事だ。


俺には、人のオーラが見える!!


それがどうした?と、言われてしまえば元もこうもない。

それに、オーラと勝手に言ってるだけでその状況を表す適切な言葉が見つからなかっただけだ。


でも、重要なのは特定の条件がある人だけ見える事だ。


条件に当てはまらない人は、普通に見えない。


さて、気になる点は特定の条件とは何ぞや?と、いう事だろう。

それは、人の死をそのオーラの濃さで凡その時期が予測出来るというものである。


この能力って、あったら困る系じゃねえ?


そう思った人は、貴上院家特製の高級羽毛座布団を差し上げよう。


そうなのだ。

この能力は、本当にいらないし正直言って怖いだけなのです。


初めてこの能力に気が付いたのは、5年前、スペインで死にかけた時の事だ。

病院で目を覚ました俺は、身体に黒い靄が纏わりついている人を度々見かけた。


その黒い靄が黒く濃いほど亡くなる時期が短いと気づいた俺は、この能力を検証した。


すると、どうだろう。

薄らと灰色に靄を纏っている人は、入院中はお亡くなりにならなかった。


つまり、靄の色の濃さで死の時期を予測することが可能となったのだ。

しかも、靄の纏っている身体の一部により濃い場所がある事も発見した。

その場所は、死の原因となる病巣だったりするわけだ。


この事を何かの形で世間に発表すれば良いのでは?と、当時10歳の俺は考えたわけであるが、自分にしか見えない靄をどう第三者に理解してもらうか、という点で躓いた。


結果、これは誰にも知られてはならないものだと理解するに至ったのだ。


普段の日常生活には支障はない。

勿論、身内にそんなものが纏わりついていたら全力で阻止するだろう。

だが、幸にしてその傾向は見られなかったが……


どうやら少しばかりこの能力に変化があったようだ。

それに気づいたのは15才の誕生日パーティーを迎えてからだ。


俺は先日の誕生日パーティーの疲れから、自室でのんびりと過ごしていた。


メイドの楓さんは、両手に抱えるほどの手紙をせっせと俺の部屋に運んでいる。


「楓さん、また届いたの?」


「ええ、こんなにも光彦様に女性からお付き合いしたいという手紙が届いていますよ。あと段ボール箱2箱あります」


祖父さんが余計な事を言ったせいで、お見合いの写真やらお付き合いしたいという手紙などがアドレスを晒された迷惑メールのように届く。


親に言われるまま書かされた子女も多いのだろうが、正直いって俺にその気がないし迷惑以外の何ものでもない。


「こんなにあるのに全部目を通さなければいけないのかな?」


「勿論です。中には真剣に書かれている方もいるでしょう。そんな方の気持ちを無駄にしてはいけませんよ」


そう言いながら生真面目な楓さんは手紙を乱雑に扱い、手からこぼれて床に落ちた写真を足で踏んづけている。


楓さんの纏っているオーラは赤く染まっている。

どうやら相当怒ってるみたいだ……


そう、能力の変化は、人の感情が色付きのオーラとなって見えてしまう。

まだ、検証段階だが、赤色のオーラは怒りを表すようだ。

それに普段は見えないので感情が大きく揺さぶれた時だけ見えるみたいだ。


さて、楓さんの機嫌が悪そうだし、話題を変えるか……


「そういえば例の件だけど、住む家は見つかったのかな?」


「ええ、既に購入してリフォームをしております」


えっ!?買っちゃったの?

俺は賃貸アパートの一室で良かったのに。


「そ、そうなんだ。へ〜〜」


「光彦様は集合住宅を希望されてましたが、セキュリティーの面で問題があり、選択肢のひとつとして一軒家を探しておりました。運良く程よい大きさの住宅が見つかりましたので来年からはそちらに住めますよ」


確かにお金はあるよ。俺のポケットマネーでも0の桁が多過ぎて数えるのが馬鹿らしいくらいには。

まあ、お金の管理は楓さんに任せているから何も言うつもりはないが、でも、たった3年間高校に通うだけの為に家を買うかなぁ?


「光彦様、総督への要望はあれで良かったのですか?愛莉様のように企業を頂いた方が楽でしたのに」


会社なんてとんでもない。

だって、そこにはたくさんの人が働いているんだよ。

その人達の生活を保障しながら業績を伸ばすなんて、そんな責任の重い事案を受けるわけないでしょう。


「まあ、姉さんはある意味化け物だからね」


「うふふふ、この件は愛莉様には黙っておきますね」


愛莉姉さんは妹の可憐と母親と一緒に、今はフランスに住んでいる。

俺の母さんがフランス人なので、留学という名目の里帰りをしている。


商魂逞ましい姉さんは自分の化粧品会社をヨーロッパに売り込むチャンスだと思っているのだろう。


「しかし、意外でした。光彦様があのような要求を総督にされるとは」


「そうかな?俺としては別に特別な事じゃない」


「貴城院家では初めての事だと伺っておりますよ」


確かに貴城院家としては異例の事だろう。

だけど、俺にとってはこれが一番大事な事だ。


「今、通っている中等部ではもう学ぶことはないからね。高等部の授業も復習みたいなものだし」


帝王学と称した英才教育を小さな頃から受けている俺には、最早学校で学ぶべき事はない。


だが、それは授業に関してだけだ。


「光彦様が庶民が通う普通の高校に通いたいとおっしゃった時は驚きのあまり肝が冷えました」


そう、俺が祖父さんに要求したのは、普通の学校で普通の学園生活を送る事だった。


意外かもしれないが、今の俺の学園生活を少しだけ紹介しよう。


まず、貴城院家としてのネームバリューム。

日本経済どころか世界の経済に影響を及ぼす貴城院家は、どこに行っても目立つ。


学校でトイレに行こうと席を立っただけでも、自称友人と称した者達が金魚の糞のように付いてくる。


正直言って、トイレぐらい一人で行かせてほしい。


そして、俺が何かを言えば「素晴らしい」とか「そんな着眼点があったのか?」と、褒め称えてくる。

俺は『そうだね〜〜」としか言ってないのにだ。


正直、息が詰まるし居心地が最悪だ。


それに見た目も影響している。

母親がフランス人と先程話した通り、俺は母親の遺伝子を色濃く受け継いだようで髪は青みがかった銀髪。

顔の造りも彫りが深くイケメンと呼ばれる存在らしい。


そんな容姿のおかげで、廊下を歩いているだけで女子から悲鳴のような歓声が飛ぶ。


もう、何だよ。俺は珍獣か!


そんな学園生活は、正直辛過ぎて精神がどうにかなってしまいそうだ。

だから、俺は来年からの高校生活に賭けている。

目立たず、ひっそりとやり過ごしたい。


だが、上流階級の貴城院家で普通に過ごしていればそんな事を思い浮かべるはずもない。

俺がそう思ったのには、きっかけがある。


小さい頃、貴城院家に出入りしている植木職人の源ジイから一般家庭の話を聞くのがとても楽しみだった。

それに父親を亡くして落ち込んでいた時、源ジイが大切に育てていた盆栽をひとつくれた。その盆栽に魅せられた俺は、今でも大事に自室に飾ってある。


今では趣味のひとつとして盆栽いじりをするのが密かな癒しとなっている。


また、最近では源ジイの弟子の三郎さんから「坊ちゃん、絶対面白いですから」という強いプッシュを受けてネット小説を紹介された。


言われるままにパソコンで投稿小説サイトを検索して、投稿されてある小説を読んだ時、今までにない感情が湧き上がった。


異世界?

ダンジョン?


未知の言葉が麻薬のように頭の中に入り込み犯していく。


何これ、お、面白い……


そう、俺はネット小説にハマってしまったのだ。

お気に入りは『陰キャ』というワード。

まさしく俺が求めていた存在だ。


だが、たとえ自室とは言えども貴城院家の邸宅内にラノベやフィギュアなどのオタクグッズを購入して飾っておく事はできない。


そこで考えたのが、高校入学時にこの邸宅を出て『隠キャ』として高校生活を送る事だった。


そこなら好きなラノベを全巻揃えて本棚に陳列しておくこともできるし、アニメや漫画の人気キャラのフィギュアを飾っておく事も出来る。


何て素晴らしい世界なのだろう……


だが、問題はどうやってその環境を手に入れるかだった。

そして考えたのが15歳の誕生日に貰うプレゼントをその環境を得るために要求したのである。


勿論、素直に話しているわけではない。

『一般家庭の生活を知りたい』

『一般の人々がどのような物の考えで生活しているのか、上に立つものとして知らなければならない』

『一般の人々の中に様々な理由で埋もれている人材がいるかもしれない。そんな人を発掘して将来貴城院家の役に立ってもらいたい』

『父さんも生きていたらそういう経験は大事だと言っていたと思う』


詐欺師まがいのトークで祖父様に要求を告げ、高校3年間だけならと勝利を勝ち取ったのだ。


「光彦様が総督に要求を突きつけている姿は、とても凛々しかったですわ〜〜」


隣で体をモジモジさせながら楓さんは、手に持っていた手紙をゴミ箱に放り込んだ。


「えっ、その手紙読めって言ってたよね?」


まあ、俺としては助けるけど……


「光彦様は、もうお読みになられました。ですよね?」


「う、うん、そうだね」


は、迫力が……


「それでは、私はこれらを焼却処分してきますね。ええ、勿論燃え滓も分子レベルまで粉々にしておきます」


結局、燃やすなら俺の部屋まで運んでこなくても良いのに。

まあ、立場上そういう建前が必要か。


楓さんは手紙でいっぱいになったゴミ箱を嬉しそうに抱えて部屋を出て行った。


一人になった俺は、クローゼット脇に置かれている姿見の鏡を覗き込む。


「はあ〜〜祖父さんがパーティーの席で余計な事を言ったせいで、酷くなってる。あと半年ってとこか……」


鏡に写った俺の身体には黒いオーラが巻き付いていた。


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