第4話

「おや、桃花。今日は一段とガラが悪いねぇ」

 対面した男に舌打ちを吐いて桃花は同行したことを後悔していた。

「……烏谷っ! 久々〜」

「やあ、日日。ご苦労さん」

「えへへへへ」

 少年は撫でられた烏谷の掌に頭を押し付け体を変化させしまいには仰向けに床に寝そべる四つ脚の白い巨獣へと変化させていた。

「桃花もおかえり」

 魔法庁本部で出迎えた男はしたり顔で眼鏡を押し上げて労いの言葉を告げる。

「……俺はお前の話に乗ったわけじゃない」

「わかっているよ、白川のためだろう?」

「気安く名前を呼ぶな」

「……ずいぶんとご執心だねえ。嫉妬深い男は嫌われるよ?」

「御託はいい。さっさと本題を話せ」

「どんな時でも焦りは禁物だと話したはずだがまったく我が弟子は」

 烏谷は緩かに微笑んで身を翻した。

「こちらとしても君が来てくれて助かる。他は出払っていてね。すまないが僕が代役を務めることになったわけだけれど、日日からおおよその話は聞いただろう?」

「ああ」

「最近の出現に関して光源の影響を受けていると思われる。対応にあたってはいるがどうやら枯れそうになくてね。既存の魔法植物では収集がつかず、アウロディーテにお願いしようと思ったんだけれど、まさか君が来るとはね」

「アウロディーテには館内の防衛を任せている。私だと不満が?」

「僕は桃ちゃんに会えて嬉しいよ、烏谷もそうでしょ?」

 端的に答えた烏谷にはすでに見透かされているような気もするが深くは聞いてこないのでこちらも触れないでいる。

 中央司令室のモニターに映し出されていた件の光源には鉱脈師といくらかの魔素師が集められていた。

「鉱脈を閉じ鉱石を採掘したい鉱脈師と魔素を有益に使いたい魔素師での対立が激化していてね。魔法庁の管轄に則り場を収めたのだが、魔素師にはそっぽを向かれちゃってさ。ほら、桃花。君ならなんとかなるだろう?」

 軽く魔法図書館の五倍はあるのではないだろうか。

 大小様々な魔法水柱が突き刺さり連なった結果今までで見た中でも最大級の体積をしめ魔法水柱の山となっていた。

「よくあれだけの被害に抑えられているな」

「防壁を張っているからね」

 地下に流れる鉱脈の上には大地を覆うプレートがあり、そのずれにより魔素が出現する。今回はそのずれが大きいのだろう。

「現場にはすでに向かわせている。あとは君が──」

「待て、今のは」

 モニターには魔素の影響を受けた魔獣が上空を旋回し飛んでいた。

 モニターに見覚えのある姿が映っていた。

「ああ、花に渡して置いた魔法鉱石かな」

「なぜ白川を組ませたっ」

「選んだのは彼女本人だろう? 君にとやかく言われる筋合いはないはずだ」

 あいつなにをやって。

 モニター越しでさえ慣れていないのがわかる。

 浮遊も出来ず攻撃を防ぐので精一杯だ。前線に出すべきではない。間違えば花諸共死ぬことだってある。

「……烏谷でもじゅうぶんに対応できたはずだが、これはどういうことだ?」

「だって僕はここを守らないといけないでしょう」

 白川と離すためだったか。

「君が魔法を使いたがらないのは彼女が似ているからじゃないのか? だから、係官から魔法館職員にすり替えたんだろう? 彼女を千歌の二の舞には──」

 灯りは爆ぜ火花を散らし室内のモニターは落ちていた。

「ねえ、烏谷、停電? 停電なの? こわいよぉ」

 四つ脚の白い獣が烏谷の腰に身体を擦り付けていた。

「大丈夫だよ、日日」

 復旧したモニターには鱗のついた二足歩行の魔獣が火を吹いている。

 魔素の対処にあたっていたのだろう。

「まあまあまあまあ、そうかっかしないでよ。あまり自分を責めるものでもないよ、桃花。君だってわかっているだろう? 妹さんのことは不運な事故だとしか言いようがない」

 踵を返す背中にかかった声に振り返ると日日が駆けていた。

「どこに行くの、桃ちゃん」

「白川を助けるのが先だ」

「乗って。その方がはやい」

 日々が通れるだけの空間をつくり飛び込むと建物を足場に空をかけていく。

 前方には建物から囲まれた魔獣が周囲の建物を薙ぎ倒していた。

 掌を重ね、出た柄を掴み掌から剣先を引き抜いて、日日から飛び降り首裏から重力よろしく地面まで落ちてから足を切り付けると巨体が傾き爆風で辺りを包み後退したところで声がかかった。

「あら、ずいぶん遅かったわね。腕が落ちたんじゃない?」

「うるさい」

「花ちゃん、大丈夫?」

「平気よ」

「……ねえねえねえねえ、桃ちゃん桃ちゃん、あれってシラカワちゃん? ピンチな感じ?」

 崩れ落ちた建物にしがみつき足場を探しているようだった。

 なにやってるんだあいつは。

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