洪水と睦月たちの奮闘


 テムズ川での洪水からジョニーを救出し、流された亮介を見つめていた美月の肩をヒュージがたたき、倉庫の鍵を開けてヘルメットを彼女の頭に着け「ジョニーの母親、アンが履いていた」と言って灰色の防水用ブーツも渡し、美月を太い尾に座らせテムズ川に入った。

 睦月はタオルと毛布を持って陽太と一緒に屋根に上り、「助けて!」と叫んだグリントとカトリーナ、その母親を救出して『young flowers』の2階へと連れて行った。

 


 『rescue dog』と緑色の糸で描かれた青いバンダナを首に着けた狼犬のオータムは増水したテムズ川に入り、失神している亮介のコートの襟をくわえて引き上げた。前足で胸を押し続けていると「オータム」と声がし、起き上がった亮介が「ありがとう」と笑みを見せオータムの首をなでた。

 オータムがしっぽを回し、体を振ってしたたり落ちる水を飛ばしていると、ビッグベンが描かれた銀色のヘルメットと防水用ブーツを着けた美月がヒュージの尾に乗ってテムズ川を渡り、手を振りながら亮介のところへ向かって来るのが見えた。


 美月は「ありがとう、ヒュージさん」と笑みを見せ、ヘルメットを外して夫に駆け寄り、抱きしめ合う。

 5センチの短髪を緑と灰色に染めた日本人女性の篠崎燈子が、潜っていたテムズ川から「ダニエルさん、メイさん!ロープをこちらへ渡してください‼」と大声で呼びかける。

 「はい!」ダニエルとメイはヒュージが倉庫から出したロープを燈子に投げ渡して引っ張り、失神している勇樹をテムズ川から引き上げた。陽太が勇樹の胸を押すと、せきこみながら体を起こす。

 亮介と美月はダニエルやメイたちに「ありがとう」と頭を下げる。燈子は「安堵しております。ラジオ局の2階で、おにぎりやスープが出されます」と二人に手を振って陽太と一緒にテムズ川へと入っていった。


 『young flowers』の2階に入ると、ソファーに座ってジョニーと手をつないでいた直美が父親の姿を見て「パパ!」と泣き出した。亮介は娘を抱きしめてからライスが渡したサケのおにぎりを食べ、トマトやタマネギが入ったスープを飲む。


 「亮介さん。息子を助けてくれてありがとう」ジョニーの父で黒い短髪に青い目を持つ192センチの男性、ジョブズが亮介に笑みを見せる。

 「ジョニーは直美を励まし続けていた」息子の肩をポンとたたきながら言い、美月のブーツをちらりと見る。

 「アンが『美月さんがロンドンに来た時、渡してほしい』と俺に言って、ヒュージさんの倉庫に入れたんだ。包帯やタオル、手袋なども保管されている」


 室内に入って来たフランクが「梅本誠一さんと、グリントとカトリーナ兄妹の母親と付き合っていた男性が遺体で見つかった」と小声で亮介に言った。

 

 

 



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