ウィンザー城でのダンスとビッグベン
2月24日、夜10時。亮介は胸ポケットに満月が描かれた明るい茶色のタキシードに銀色のネクタイとベージュの革靴姿でウィンザー城内に入り、胸元から足までを覆う真紅のドレスを着て銀色の小さな盾を留め具で首から下げた美月と一緒にフランクのバグパイプやトムのギター演奏に合わせて踊り始める。ジーニアスとの4日の練習後、速いリズムの曲も踊れるようになっていた。
緑のドレスを着た直美が青いタキシード姿のジョニーと踊っていると、背中まである金髪で胸元を露出するオレンジ色のドレスを着た40代でゴージャスの母親の女性が「田舎生まれの日本人!イギリスから出ていけ!」と美月に向かって怒鳴り、コップに入れた熱湯をかけようと近づいてきた。
亮介は「こっちだ」と美月に小声で言い、彫像の前まで避難する。熱湯はジュッと音を立てて城内に敷かれている赤と金色のじゅうたんにかかり、冷えていった。
長さ5センチのベージュの髪と青い瞳を持ち、衛兵の制服を着たイギリス人男性が木製の剣を腰から抜き、女性が隠し持っていたナイフを床に落とす。女性は衛兵の男性5人に抱えられ、気温2度のテムズ川へと落とされた。
男性がナイフを拾い上げて一礼すると、衛兵たちから「エドワード様!」と驚きの声と大きな拍手が上がった。
「ありがとうございます」亮介と美月が言うと、「僕はエドワード・ビーキーパー・ホーニッヒ。ロンドンの大通りにあるハチミツ店の店員で、40匹のミツバチを育てています」と二人に薄い黄色の名刺を渡した。
ベージュのタキシードを着たゴージャスと父親で40歳のジェイコブが「ごめんなさい」と美月に向かって頭を下げた。息子が重傷を負わせた20人に通りや校内で一緒に謝り続けて不眠症が続き、ジェイコブのほおは細くなっている。
「気にしてないです」と答えると、ゴージャスとジェイコブが「ありがとうございます」と笑みを見せた。
ジェイコブの妻は夫と離婚後、美月やサラたちに対するヘイトクライム(憎悪犯罪)で逮捕されて自宅から追い出された。
「踊れてるじゃん、亮介」「ジーニアスと4日練習してたんだ」と小声で言いながら城内を見ると、銀色のタキシードを着たジーニアスが亮介の肩をたたき、満面の笑みで「直美ちゃんやジョニーも驚いてる」と言った。
ウィンザー城から出てダウンコートを着た亮介と美月、直美はトムから渡されたタキシードやドレスが入った紙袋を持ち、金色にライトアップされたビッグベンを眺めていた。
「美月」亮介の低く小さな声に驚いていると、両肩に手を置かれ顔が近づいてきてほおに唇がつけられる。
広場からその様子を見ていたオータムが二人に向かって「ウォーン‼」と吠え、ヒュージは「二人に幸あれ」と小声で言った。
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